日本では政治家などの先祖がどこから移民してきたかといったことを語ることが、なんとなくヘイトか差別のようにいわれることがあるが、ポリティカルコレクトネスの本場であるアメリカやヨーロッパでもそんなことはありえない。
私が村田蓮舫氏の二重国籍問題を取り上げたときから、言い続けていることだが、移民が政治の世界でも活躍の機会を与えられるのはいいことであるが、その一方、自分の背負っている歴史をきちんと受け止め、先祖の国にどのような思いを持っているのか、現在の国、なかんずく政治家となろうとしている国への愛情と忠誠心はどうなのか、先祖の国との利害や感情の相克をどう克服していくつもりか語るのが常識なのである。
そんななかで、アメリカ大統領選挙の候補者たちをみると、なかなかユニークな先祖を持っている。
いまや最有力候補のひとりのピーター・ポール・モンゴメリー・ブティジェッジ(Peter Paul Montgomery Buttigieg)の名字はその発音にアメリカ人も苦労しているそうだが、先祖はマルタ人である。マルタ島はローマ、イスラムを経て聖地から撤退してきたマルタ騎士団が長くその本拠を置き、イギリスの植民地を経て独立した。
そんなことから、マルタ語はアラビア語から派生した言語で、文字はアルファベットを使っている。ということは、言語から見る限りはブティジッジはアラブ系ということになる。
それに対してダークホースのクロブッシャー(Amy Klobuchar)上院議員はどこかと思ったら、 クロアチア・スロベニアあたりらしい。スロベニア出身のトランプ夫人と同じだ。
トランプ氏は祖父フレデリック・トランプがドイツ移民で、もともとはフリードリヒ・トルンプ (Friedrich Trump)で、ラインラント=プファルツ州バート・デュルクハイム郡の出身だ。バイエルン王国領だったらしい。
ジョー・バイデンはイギリスのサセックスからボルティモアへの移民で、フランスやアイルランドのDNAも引き継いでいる。
バーニー・サンダースの父は、当時のオーストリア・ハンガリー帝国、現在はポーランド領になっているガリチア地方からのユダヤ人移民で、母親もロシア、ポーランド系のユダヤ人だ。
エリザベス・ウォーレンは旧姓Elizabeth Ann Herringで明らかに英国系の家系だが、チェロキー・インディアンの先祖がいると言い出した時は政治問題化した。DNA鑑定の結果、6~10代前に1人いたかもという程度のことらしい。
ちなみに、近著『歴史の定説100の嘘と誤解 世界と日本の常識に挑む 』(扶桑社新書)でもヨーロッパやアメリカにおける移民問題はいろいろな形で取り上げた。