米国の年金基金等の機関投資家では、組織の頂点には必ず決定機関が置かれていて、その下に、資産運用の専門家で構成され、最高投資責任者が統括する運用組織があり、投資の実質的な意思決定は、その運用組織のなかでなされる。機関の決定は、運用組織内の決定を承認するだけの形式的なものである。しかし、その形式が重要なのである。
最高投資責任者以下の運用組織は行為責任を負うとしても、投資判断の帰結に関する経済的な結果責任を負うことはあり得ない。機関決定は、組織が結果責任を負担するために、逆にいえば運用組織を結果責任から免責にするためになされるのである。
もちろん、結果責任を負わないことと、重い行為責任を負うことは全く別のことである。運用組織の構成員は投資のプロフェッショナルとして、その専門的能力に基づいて採用されているわけだから、それが運用成果に生かされないのならば職を失うこともあるという意味で、極めて重い行為責任を負うわけである。逆に、そのプロフェッショナルとしての責任が自由に十全に果たせるように、結果責任を免責にしているといってもいい。
故に、運用組織のプロフェッショナルとしての能力が高いほど、移譲される権限も大きくなる。頂点の意思決定機関と現場の運用組織との関係については、運用組織への権限移譲の程度を大きくすればするほど、頂点の機関の役割は決定機能が希薄になって統制機能に純化されていくわけだし、権限移譲の程度は運用組織の能力に依存するから、機関投資家ごとに大きな濃淡の差ができる。
例えば、米国にはエンダウメントと呼ばれる寄付財団が多数あって、なかでも大学の財団は、規模が大きく、また高度な投資技法を用いることで知られていて、業界でも名の通る優秀なプロフェッショナルを高給で集めて運用組織を形成しているものも少なくない。いわゆるエンダウメント・モデルという資産管理のあり方である。ここでは運用組織へ大胆に権限移譲されているが、それは、安心して権限委譲できるように一流の人材を集めているわけだから、当然至極のことなのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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