前々回「検証⑨」を書いたのは、5月4日の安倍首相の「緊急事態宣言」の「延長」会見直後の2週間近く前だったが、すでに大幅な減少傾向は明白だったので、「『延長』は『移行』期間になるだろう、と書いた。
実際に、14日には39県で宣言が解除された。残りの8都道府県でも減少は顕著なので、大阪府では「大阪モデル」にもとづいた「移行」が実施されている。
あまりにも低水準になってくると統計的に有意な差を見つけにくいので、私自身、ここのところトレンドを追う動機づけを失い始めているくらいだ。
私は4月5日に「『日本モデル』にそった緊急事態宣言をせよ」という文章を書き、4月8日に「『日本モデル』の緊急事態宣言を成功させたい」という文章を書いて、「検証」の題名を入れた文章を書き始めた。
参照:アゴラ拙稿一覧
その第1回の4月10日の文章において、すでに私は、「最近の1週間の増加率は、鈍化している」と指摘した。
その後も一貫して私は4月に入ってからの新規感染者数の増加率の鈍化と、4月中旬以降の減少傾向を指摘し続けた。
「専門家」が見ることを禁止する数字(西浦モデルの検証④4月19日)
しかし、その間も、一部の専門家たちは、日本の破綻を国内外のマスコミを通じて大声で叫び続けていた。特に、根拠不明な肩書である「WHO事務局長上級顧問」を振り回して産婦人科医でありながら日本ではすでに「感染爆発」が起こっているということを説明し続けていたのが、株式会社No Border代表の渋谷健司氏である。
西浦モデル検証⑦渋谷健司氏は早く日本の感染爆発の主張の根拠を示せ
今でも、渋谷氏は、54兆円かけて全国民PCR検査しよう国民運動を推進するなど、怪しい行動をとっている。
ただし真面目な専門家で、この場に及んで54兆円国民運動を支持する人はいないだろう。
(もちろん渋谷氏は、日本で感染爆発がすでに発生していたことを証明していない一方、間違いを認めてもいない。今後また新たな肩書を作って、新たな動きにでも出てくる可能性はある。引き続き警戒が必要だ。)
しかし、「8割おじさん」こと西浦博教授は、ようやく最近になって、私と同じ説明をするようになった。現在、西浦教授は、増加のピークは3月下旬で峠を越しており、4月に入ってからは実効再生産数も減り続けた、という説明をしている。
結局5月を過ぎてから私と同じ認識を表明するのであれば、なぜ私がすでに「増加率の鈍化が見られる」と書いていた4月10日頃に、西浦教授は、「42万人死ぬ!」といった記事を大手新聞社全てに掲載させ、国民を脅かし続けようとしていたのか?
最近になって西浦教授が「間違い」を認めるようになったと言う人もいるが、私はそうは思わない。国際政治学者の私が4月10日の時点ですでに自信を持ってはっきりと「増加率の鈍化が見られる」と書けたのだから、私以上に数字を追いかけていたはずの西浦教授が、そのことに気づいていなかったはずはない。
西浦教授は、全てを知りながら、ただ国民を脅かすという政治的意図を持って「42万人死ぬ!」をやっていた、と考えざるを得ない。徹底した国民の自粛行動を引き出して、収束効果の増加を果たした後、最後の一人をクラスター班で撲滅させる、という願望にもとづいた行動だろう。
要は、正義感にもとづいて、あるいは野心にもとづいて、国民を騙したのである。
嘘も方便、という言葉がある。正しい動機にもとづいて人を脅かすなら許される、という考えだ。
私はこれを意地悪で言っているのではない。渋谷健司氏は元東大教授の偉い人だ、偉い人なのだから、何を言っても許されるし、言ったことを後で言わなかったことにしても許される、だって元東大教授の偉い人だから、と言う人よりは、西浦教授を擁護する人のほうが、よほど健全な考えを持っていると思う。
しかし1億2千万人の生活が大きく影響されたのだ。「ま、結果オーライだ」で済ませるべき話ではない。
現在、尾身茂氏という熟練した人物が「専門家」層を束ねてくれているので、「日本モデル」は堅実な成果を収めてきている。だが、もし何かのはずみで、渋谷健司氏のような人物が、尾身氏の地位についてしまったら、どうなるのか?
今回のコロナ危機では、あらためて政治と「専門家」の関係が問い直された。「長期戦」が予測されるからこそ、「全てが終わったら」と言わず、現在進行形で、冷静な検討を加え始めていく必要があるように思われる。