女子プロレスラーの方が亡くなられた。
この方のことをよく存じ上げなかったし、まだ情報が全て明らかになっていないけども、僕自身もずっと一番苦しい人がいなくなるようにという思いを抱えて仕事をしてきました。
厚労省時代に節目節目で自殺対策の政策に関わったし、実際に苦しい人たちを何とか救おうと相談に乗ったり保護したりといった活動をしている民間団体の仲間もたくさんいて、何度も足を運び政策を考えてきました。
同僚や後輩たちをそういう仲間たちがやっている民間団体の活動に連れて行ったり、逆に民間団体の人たちに厚生労働省に来てもらって話をしてもらうということも何度もやってきました。
自殺というのは、複合的な要因が絡み合って残念な結果を選ばざるを得なくなって起こるのではあるが、SNSでの誹謗中傷が大きな要因ではないかと言われている。
その多くは、誹謗中傷はよくないという趣旨のものであるが、気になる意見も目に入ってくる。
それは、
「弱い人を誹謗中傷するな。強い人をねらえ」
というものだ。
あるいは、
「体制側に対するものは違う」
という意見もある。
平たくいうと、
強い人にはいいけど弱い人にはやめろ
と言っているように感じる。
しかし、「強い人」か「弱い人」か、
誰がどうやって判断できるのだろうか。
今回の女子プロレスラーの方も、突っ張っている悪役を演じている方だったようだ。テレビ番組にも出演していた。
一見、強い人に見えるかもしれない。それなりに有名人だから恵まれた立場の人に見えるかもしれない。
その人が強い人かどうかなど誰にも分からない。
有名人には、たくさんの誹謗中傷が届くという発信も目にする。
それに耐えられるかどうかはご本人の耐性の問題もあるだろう。
誹謗中傷が山ほど届く一方で賞賛が届いてバランスがある程度とれるという方もいるかもしれない。
そもそも周りに家族や友人たちの支えがどのくらいあるかも人によりけりだ。
そういうことは、表向き分からない。
今日の強者は明日の弱者かもしれない。
政治家についても、僕は同じだと思う。
確かに、権力者が国民の人権をないがしろにしてきた歴史もあるし、民主主義の理念を考えると、権力に対するチェックは必要だし自由な言論が確保されるべきだ。
しかし、与野党問わず、多かれ少なかれ国会議員のところには、人格攻撃や脅迫まがいの書くのがはばかられるようなメッセージが届く。
そういうことを投稿している人もいるし、直接国会議員からもよく聞く。
そういう立場を受入れて議員活動をしているのだろうとは思うけども、このことは国会議員の自由な言論を萎縮させる危険すらあるので、民主主義のためにも好ましくないと思う。
国会議員も人間だ。
自殺した国会議員だって何人もいる。
政策や議員本人や政党の政治姿勢に対して意見を言うのは、とても大事なことだけど、せめて面と向かって言えるようなやり方にするなど、一人ひとりの節度が必要だろう。
相手が、権力者だろうが、有名人だろうが、金持ちだろうが、突然「バカ」と言ったり、罵倒したり、出自を批判したりといったことは厳に慎むべきだろう。
そこに強者も弱者もない。
ここはダブルスタンダードにしてはいけないと思う。
一部の強者に対しては誹謗中傷してよいと認めることは、「多くの人にとって一見強者に見える人」に対する人権侵害を認めることにもつながりかねない。
すべての人の命や尊厳を守るための最低ラインだと思う。
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年5月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。