こんにちは、音喜多駿(参議院議員 / 東京都選出)です。
痛ましい犠牲者を出した事件を受けて、SNS上の「誹謗中傷対策」が一気に加熱しています。
犠牲者が出なければ本腰を入れない日本社会の体質は悲しいことではありますが…こうした時流に乗らなければ変革が起きないのも事実。
これをきっかけとして、建設的な議論を進めていかなければいけません。
参考過去記事:
ネットという「悪意の大海」で、誹謗中傷からそれでも生き残っていくために
ただ過日のブログにも書いた通り、私も現状には改善の余地があると思っているものの、与野党ともに政治家が前のめりになっている姿勢には一抹の不安も感じています。
もちろんほとんどの政治家が善意の衝動に突き動かされているのでしょうが、権力者サイドにとって「表現の自由」を奪える好機でもあることは織り込んでおかなければなりません。
誹謗中傷の情報開示、検討は歓迎ですが設計間違えると、極端な話、
ストーカー行動をSNSでしていた人に「お前キモいんだよ消えろ!」と思わず言った女性の情報がストーカーに開示される
とかの事案も想定できるわけです。センセーショナルな事件に伴う政治家の冷静でない制度改正には注意が必要です
— 小さな役人 (@yobiyobitaro) May 26, 2020
また一般人同士の間であっても、こうした誹謗中傷の規制は自由や権利とのトレードオフであり、極めて難しいバランス調整が求められる課題であることは理解しておく必要がありましょう。
プロバイダ任せでは「自由なインターネットは死ぬ」 ネット中傷への法規制めぐる識者の懸念と提案
こちらの記事にすでに詳しく論点が整理されておりますが、私なりに噛み砕いていくつか問題提起をしておきたいと思います。
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まず「氏ねとかコロスとか、NG表現を取り締まれば良い」とシンプルに考える方は多いと思います。
しかし、これは単純なようで実は困難を極めます(単純なNGワード規制であればすでに実行されている)。
中傷された本人にしかわからないキーワードで精神をえぐってくることは多々あるでしょうし、じゃあその線引や判断を誰がするの?という時に
「政府・行政がやれば良い」
となれば、自分たちに都合が悪い表現はすべて「誹謗中傷」にすることができますから、それは「表現の自由」の死へまっしぐらとなります。
次に「じゃあプロバイダが取り締まれば良い(団体自主規制)」という発想が出てくると思いますが、
嫌がらせ等で虚偽の通報をされてアカウント停止になった人が復旧されない問題は解決されていません。さらに利用停止を徹底することには反対です。
>嫌がらせや名誉毀損などの禁止事項の啓発を実施し、違反があった場合のサービスの利用停止などを徹底するとしています。
https://t.co/tqwqTRgc4X— 南條ななみ🍬⋈📕⋈🐧 (@nnanjoh) May 26, 2020
これも残念ながらまったく万能ではなく、上記のように「嫌がらせ通報」でアカウントが凍結される例も相次いでいます。
またこの問題に詳しい山口弁護士は「プロバイダに判断を任せると、疑わしいものは消せとなってしまい、プロバイダによる検閲が横行し、自由なインターネットは死ぬと思う」と述べています。
SNSにおける表現行為の責任をSNS に負わせたら、SNSの運営サイドは責任回避のために「疑わしきは消せ」、「好ましい表現を奨励する」という運用になり、プラットフォームの中立性が失われて自由なインターネットは死にます。SNS 等のプラットフォームに責任を負わせるのは表現の自由の死への道。 https://t.co/JlQ4EYo77t
— 山口貴士 aka無駄に感じが悪いヤマベン (@otakulawyer) May 26, 2020
なので、やはり基本は個別ケースを司法判断。そして司法判断が比較的簡単に仰げるように、情報開示の手順を合理化・簡略化するというのがセオリーであると思います。
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「情報開示請求して加害者を特定して、訴訟を起こすなんて今でもできるでしょう」
という声もありますが、これは非常に高コストでハードルも高いことはあまり知られていません。
(画像引用元、出典は総務省資料)
現行の制度ではSNS上から匿名アカウントに誹謗中傷を受けた場合、「コンテンツプロバイダ」→「アクセスプロバイダ」と二段階で開示請求をしなければならず、素人では手が出せないので、弁護士に頼むとそれぞれ数十万単位で費用がかかります。
Twitterなどの外国製SNSの場合、海外にある本社とのやり取りになるため、その分もさらにやり取りが煩雑になって大変なことに…(経験談)(実際にやってくれたのは代理人ですが)。
この情報開示請求がかけられた際に、開示するか否かの判断は現在プロバイダが担っているわけですが、これを司法機関に委ね費用も低コスト化する等の改革案が考えられます。
一方で、あまりにも情報開示のハードルを下げすぎると濫用が相次ぎ、「通信の秘密」が侵される危険性もあることから、
・「どのような表現について開示を認めたのか」の理由を開示
・一定の回数以上、発信者の情報開示請求をした法人や個人を公開
など抑止力を働かせる仕組みを同時に検討していく必要があります。このあたりも山口貴士弁護士の記事に詳しいので、興味のある方はぜひご参照下さい。
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本件は改善が必要であることは間違いありませんが、「表現の自由」「通信の秘密」という民主主義の根幹にかかわる問題であり、極めて難しいバランスが求められます。
日本の政治は「ボールに全プレイヤーが集まるサッカー」状態なので、社会の注目が高まるとここぞとばかりに政治家が参戦してきます。
そして普段から厳しくネットで批判されている政治家ほど、「誹謗中傷を取り締まるチャンス!」とばかりに前のめりになるでしょう。
ですが、痛ましい事件の再発は絶対に許してはいけない反面、一時の感情に流されることも避けなければなりません。
表現の自由という問題に取り組んできた立場から、政治権力やプロバイダではなく「司法判断」を適切に活用できる仕組みづくりに落とし込んでいけるよう、国会から冷静に提案をしていきたいと思います。
それでは、また明日。
編集部より:この記事は、参議院議員、音喜多駿氏(東京選挙区、日本維新の会)のブログ2020年5月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。