アフターコロナのまちづくり ~ 山手線外自治体の選択

加藤 拓磨

コロナショックにより社会活動に大きな変革が起きている。

本稿では頭の体操として、私が住む中野区を舞台として、身勝手にアフターコロナ、新しい生活様式、eternal withコロナ(永遠のコロナ禍)の未来を創造・妄想するものであり、極論に走っているので悪しからず。

中野駅周辺(NOZAWA/写真AC)

テレワーク等で変わる社会

コロナ禍で3密回避のためのテレワークは大きな効果・影響が生まれる。

総務省のテレワーク推進によると

テレワークは、社会、企業、就業者の3方向に様々な効果(メリット)をもたらすもので、テレワークによる働き方改革を普及することで、一億総活躍、女性活躍を推進することが可能になります。

としている。

図1 テレワークの効果

メリットとしては、交通費・出張費などの経費および通勤時間の削減、災害時のリスクとしてのBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)、働き方改革への対応などが挙げられる。

またデメリットとしては情報漏洩リスク、勤怠管理、コミュニケーション不足、本拠地側の負担増などが挙げられる。

現にコロナ禍によって、メリットとデメリットを感じている人も多いだろう。

デメリットを抑制するためにオンライン会議は当たり前になり、それでも対面する必要があるならば、月・週に一回会議室で会議をすれば事足りる事業もあるだろう。

アフターコロナにおいてもテレワークは継続され、都心のオフィスビルに出勤する労働者は激減する。

オリ・パラ後に下落されると考えられていた都心の不動産価値は、コロナショックにより更に下落に拍車をかけていくことが想定される。

都心だけではなく、その周辺、たとえば中野区においても影響は小さくないと考える。

中野区の人口構成

図2に中野区の人口構成を示す。

図2 中野区の人口構成(令和2年中野区統計書 4ページ)

中野区のここ数年の平均出生数は年間男女ともに1000人程度のため、0~4歳、5~9歳、10~14歳、15~19歳は中野区生まれ育ちが多い。

しかし20~24歳、25~29歳は急激に人口が増加する。これは20代の転入者が多いことを意味している。

中野区はJR、東京メトロ、都営地下鉄、西武線、バス等で山手線内の都心へのアクセスがよく、単身世帯の賃貸住居が手頃な価格であり、利便性が高く、東京都外から大学入学・企業就職のためのスタートの地として若い世代に評価されている自治体である。

30歳以上になると徐々に人口が減少している。

死亡などの自然動態はあるが、これは主に結婚、出産を機に転出しているものである。

表1に中野区の社会動態による人口増減数を示す。

表1 中野区の社会動態による人口増減数(令和2年中野区統計書 58ページ)

中野区の人口は33万人程度で転入、転出は3万人程度で人口の10分の1程度が入れ替わっている。この入れ替わりは明確なデータはないが単身世帯が多いとされている。

中野区の都心近くのメリットの低下

テレワークが進むことで都心に出勤する人口が激減すれば、中野区に住むメリットも減少、中野区に住もうと考える人も激減する可能性がある。

すなわち20歳代の転入が減ってくる可能性があり、単身用の物件が供給過多になり、中野において地殻変動が起こる可能性がある。

中野が目指すべき未来

以前、アゴラに寄稿した「「地震危険度」都内ワースト3位…中野が“住み続けられるまち”になるために」でも取り上げたが、そこでは

多くの若者が都心へのアクセス性から中野へ転入しますが、シングル用の住居が多く、結婚、出産を機に転出する人が多くおります。

「中野に住み続けたかった」と中野を愛する人が転出していきます。

中野は“住みたいまち”、“住み続けたいまち”、まで前進しましたが、“住み続けられるまち”になれていません。

“住み続けられるまち”へとステップアップする必要があります。

と論じさせていただいた。

しかしコロナという強烈なインパクトにより、中野の地理的な価値も大きく変動する可能性が高い中で、単身世帯用の住居の価値が低下する中、ファミリー世帯用の住居を増加させ、中野区に定住してもらう住宅政策へ舵を切ることも可能となる。

また地理的な価値の低下はファミリー世帯も同様であるため、ファミリー世帯にとっては別の視点で魅力あるまちづくりを進めていく必要がある。

多世代が住みやすい環境づくり

コロナ渦で唯一、濃厚接触が許されるのが家族である。今後、家族との関係性は深まっていくとも考えられる。

状況によっては今後、核家族化の時代に逆行し、子どもが独立せずに3 世代同居世帯などが増えていく可能性すらある。

家族同士が力を合わせ、保育・医療・介護等の問題が少なからず緩和するものであり、行政としては願ったり叶ったりである。

全世代的に過しやすいまちづくりを推進させる必要がある。

一般的に生活必需品が揃えやすく、自然や広場が多くあることが望まれるのか?

駅近および駅近施設の価値低下

都心への出勤が減少すれば、駅の価値が低下、駅近、駅前の魅力は低下し、住宅の環境が不動産の価値に反映されやすくなるだろう。

中野区は今、中野サンプラザ再整備、中野駅新北口整備(実質の中野駅西口)、駅前開発など、大きく街並みがこれから変わっていく予定である。

中野駅周辺再開発の進捗状況についてはアゴラの拙稿「中野サンプラザ再整備はどこまで進んでいるのか?」にまとめている。わざわざ足を運んででも行きたい駅前開発・日々の限定的なイベントが必要になる。

中野サンプラザの再整備の意義の再検討

中野駅前の中野サンプラザ(写真AC)

中野サンプラザは5000~7000人収容のアリーナの建設を想定している。

しかしwithコロナ、with感染症を考慮した場合、イベントもVR(バーチャルリアリティ)技術が進む昨今において、わざわざアリーナに行かなくても楽しめるコンテンツがさらに普及してくる可能性があり、再整備の意義が問われている。

VRによる視覚・聴覚への刺激を超え、スマートアリーナは五感すべてで感じられるイベントが演出できるものでなければ、家から出てイベントに参加しようという機運が高まりづらいと考える。

味覚・嗅覚・触覚も刺激する新たなコンテンツを創造していかなければいけない。

これは中野サンプラザに限ったことではないが。

エリアマネジメントの重要性の再認識

“エリマネ”って何?中野サンプラザ再開発後の中野」でも論じているところではあるが、行政と地域の合意がとれていれば、エリアマネジメントによって公共スペースの様々な利活用方法が見いだせる。

コロナと共生する新しい生活を送るためには3密を避けることが肝要だが、中野区においては狭小な飲食店が多く、物理的に困難である。解消するためにエリアマネジメントによる公共スペースの解放が必要となる。

エリアマネジメントの研究者である泉山塁威・日本大学助教も述べられており、エリアマネジメントのオーソドックスな活用方法である。

地域における道路占有許可の緩和について検討していく必要がある。

マイクロツーリズムの導入

星野リゾートが提案する「マイクロツーリズム」~地域の魅力を再発見し、安心安全な旅 Withコロナ期の旅の提案~ では地元の方々による地元観光を提唱している。

コロナ禍において、移動制限がある中で、感染拡大予防をしながら、まずは地元を観光し、郷土愛を育みながら地域経済を循環させる。そして地域再発見をしながら、地域文化の作り手とネットワークを強め、運営力を高めるというものである。

コロナ禍を奇貨とし、感染症予防以外の災害において重要な地域力の向上を今この時こそ進めていく必要がある。そしてアフターコロナにおいては地元住民全員が観光大使といえる郷土愛溢れる地域とするべきである。

…以上、縷々述べたが、新たな時代を迎えるにあたり、これまでの固定概念をすべて取っ払い、良識を以て新しい常識を創造していくべきである。