「反省記」西和彦 ― ビルゲイツに嫉妬した男の笑って泣ける「半生記」

内藤 忍

創業者の書いた自叙伝と言うのは、どれも本当に面白いものです。サラリーマンとして組織でトップに立った人にはない、個性と魅力が溢れています。

そんな本を今までたくさん読んできましたが、西和彦さんの「反省記」の読後感は他の本とは違いました。ビジネス本なのに、なぜかとても泣けるのです。

前半は、マイクロソフトの副社長として、あのビルゲイツと一緒に仕事を進める天才プログラマーの凄まじいエネルギーが描かれています。特にマイクロソフトの飛躍のきっかけになったMS-DOSの開発に至った経緯の描写には痺れます。

日本人離れした行動力と図々しさ。そもそも、ビルゲイツに国際電話をかけ、アメリカに会いに出かけ、そこで意気投合してしまい、一緒に仕事を始める。そんな日本人はなかなかいないと思います。

しかし、その日本人離れした強烈な個性が、ビルゲイツとの対立を招き、最終的に袂を分かつことになるのです。

その後も新しいビジネスを始めては周囲の人たちと対立し、うまくいかない。その繰り返しの中で出会ったのが、日本興業銀行の中山素平さんとCSKの大川功さんでした。

実業界の重鎮たちに出会う中で、自分の問題点や失敗について子供のように気づきを覚え、大川さんの生き様からこれからの自分の人生でやるべきことについて考える。

この大川さんとのやりとりは、本当の親子よりも親子のようで、壮絶な最後には涙がこぼれました。

おわりに、に書いてある「すべてのことがすぎ去っていく」そして「感謝している時が「幸せ」なのだ」と言う2つの言葉に、最終的に到達した西和彦さん。

あまりに激し過ぎる人生ですが、文章から感じられるのは、西さんの天性の明るさです。悲壮感あふれる話をシリアスに書いているのに、なぜかユーモアを感じてしまう。これこそが、たくさんのビジネス界の実力者たちを虜にし「爺(じじ)殺し」と言われた西さんの最大の魅力だと感じました。

ビジネス書なのに、人生とは何かを考えさせてくれる一冊。全ての人に一読をお薦めします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。