東京で何が起きているのか/第三波のコロナ空間分布

藤原 かずえ

【新型コロナウイルス COVID-19】の第三波と呼ばれる感染現象が日本で進行中ですが、その現象が各地域でどのように広がっているのかを私たちがヴィジュアル的に知ることは困難です。これにより私たち国民は暗中模索し、不必要な【未知リスク unknown risk】を感じることで事態を悪化させているものと考えます。また、感染対策を合理的に行う上で、感染が各地域でどのように広がっているかを知ることは重要です。

そこで、これまでに、第一波・第二波と呼ばれる感染現象の【時空間挙動 spatio-temporal behaviors】を推定するため、【時系列 time series】に沿って【空間統計解析 spatial statistical analysis】を実施することで、関西・関東・東京23区のそれぞれの地域における感染者の居住地の【空間分布 spatial distribution】の再現を試みてきました。

過去記事:[関西/第一波] [関東&東京23区/第一波] [東京23区/第二波]

今回は、東京23区における第三波を対象にして空間分布を再現してみたいと思います。

空間統計解析の方法

最初に、この記事で行う空間統計解析の方法について必要最小限に説明しておきます。

空間統計解析に用いる手法は【逐次ガウス型シミュレーション sequential gaussian simulation】と呼ばれる【地球統計シミュレーション geostatistical simulation】であり、与えられた空間データから過剰な平滑化効果を回避して不均質な確率場を高精度に補間するものです。平たく言えば、位置がわかっているデータから、その周りがどうなっているかを鬼のように精度よく推定できちゃう手法です(笑)。詳細については先述した過去記事を参照して下さい。

解析に用いる空間データは、各自治体から毎日発表されている東京23区および東京23区に接する周辺自治体(武蔵野市・三鷹市・調布市・狛江市・西東京市・川崎市・浦安市・市川市・松戸市・新座市・朝霞市・和光市・戸田市・川口市・草加市・八潮市・三郷市)における人口10万人あたりのPCR陽性者数のデータです。これらの【中央7日移動平均 centered 7-day moving average】のデータ(4月4日から11月23日)を各自治体の庁舎の位置に割り当てることで解析を実施します(下図参照)。

また、境界部の予測精度を高めるため、東京湾の中央防波堤に感染者ゼロの固定点を設定します(実際に感染者ゼロであることは自明です)。なお、東京都は5月11日~14日の期間に約350件の調査中データを一気に該当区に割り当てました。この影響を排除するため、前後のデータから該当部分を線形補間しました。

第一波と第二波

第三波の状況を説明する前に、まずは第一波と第二波の状況を簡単に示しておきます。

(図の移動平均は後方移動平均。中央移動平均より3日遅くプロットされていることに注意)

第一波は、3月下旬から増加が顕在化し、4月11日をピークに減少した感染現象です。次の動画は、4月4日から5月31日までの空間分布を時系列順に並べたものです。

残念ながら、東京都の23区別データの公表が4月1日からなので感染初期の状況は把握できませんが、感染の中心は、4月中については港区と新宿区の周辺区であり、5月前半に千代田区に移動し、5月後半に新宿区に移動しました。

感染は全期間を通じて23区内の他地域には殆ど広がることはなく、5月上旬に概ねゼロ近傍まで減少しました。しかしながら、莫大な経済リースを集中投下した過剰な自粛によってここまで減少させた意味は殆どありませんでした。第二波が引き続き襲ってきたのです。

第二波は、6月初旬から徐々に感染が始まり、7月初旬に増加が顕在化し、8月1日をピークに減少した感染現象です。次の動画は、6月1日から9月30日までの空間分布を時系列順に並べたものです。

感染の中心は、6月初旬から8月前半までは新宿区であり、その後に港区や渋谷区に移動しました。感染の【中心源 epicenter】となった新宿区の「夜の街」関連の感染率は周辺と比べて著しく高く、典型的な【拡散現象 diffusion】のように等次元状に感染地域が周辺に拡がっていきました。

一方、新宿区の感染率がやや低下すると、逆に等次元状に周辺から感染地域が徐々に狭まってきました。ただし、第一波とは異なり、感染はゼロ近傍まで鎮静化することはありませんでした。東京23区全体に広く薄く感染のポテンシャルが残留したのです。

第三波

第三波は、11月中旬から増加が顕在化し、11月20日に暫定ピークをつけて継続している感染現象です。次の動画は、10月1日から11月23日までの空間分布を時系列順に並べたものです。

感染の中心は、10月初旬から港区であり、世田谷区・目黒区との間に【感染経路 pathway】を形成したり、渋谷区・新宿区・千代田区との間の感染経路を再び形成したりするなど、10月中は周辺地域と弱い関係性が潜在的に認められました。

11月の初旬から中旬になると、港区と新宿区に明瞭な感染経路が形成され、一気に周辺の渋谷区・中野区・文京区・千代田区・中央区に拡がり、更には、中央区・墨田区・葛飾区・足立区を結ぶ新たな感染経路が形成されました。

感染の中心源の港区の感染率は第二波の新宿区よりは低いのですが、感染は港区ー新宿区ラインと港区ー葛飾区ラインを中軸に23区全域に及び、週周期の感染者数は第二波を超えました。感染分布は【不均質性 heterogeneity】を保ちつつも【均質性 homogeneity】が強くなっています。このことは、第一波・第二波・第三波のピーク時の空間分布を見比べれば一目瞭然です。

この均質化の傾向から、むしろ外部から流入するウイルスで感染する【外発的 extrinsic】な要因よりは家庭・職場・施設を通して感染する【内発的 intrinsic】な要因が強くなっているものと考えられます。このことは実際の観測データでも確認できます。

心配なのは感染が都心&副都心から23区外縁部に至っていることです。2015年の統計データから75歳以上の高齢者の人口比を示すグラフを作成したところ、やはり外縁部ほど高齢者の割合が高くなっています。

その意味で感染の港区ー葛飾区ラインは警戒すべき感染経路であると考えます。

なお、このことは、政府がいくらマクロな対策を打ち出したところで解決する問題ではありません。重要なことは、各個人が高齢者・基礎疾患がある人の生活に可能な限り非接触で寄り添って応援し、感染を発生させないよう細心の注意を払うことです。

一方、コロナ死亡者が累計で約2100人であるのに対して自殺者が10月だけで600人も激増する中、現在最も対策が必要なのは経済の問題です。このことは2月からずっと言ってきました。

[経済の危機は命を奪います:新型肺炎のリスク管理]

現在の日本は、特定の人を犠牲にして特定の人を助ける倫理問題である【トロッコ問題 trolley problem】において、助ける人が誰で犠牲にする人が誰であるかを、テレビのワイドショー・野党・ネットの出羽守&尾張守等が勝手に世論形成している非常に危険な状況にあると言えます。

一般に自殺者は命の尊さの認識によって減少する一方で、経済危機に遅行して発生する雇用情勢の悪化に大きく影響されて増加します。今まさにその危険事象が始まった可能性があります。

この状況を打破するには、高齢者・基礎疾患がある人に対する家庭内感染と施設内感染を各個人が徹底的に阻止する一方で、GoToなどを含めた政策で経済を回すことであることは自明です。

現在に至っても恐怖を煽って経済を攻撃するテレビのワイドショー・野党・ネットの出羽守&尾張守は、日本のコロナ禍を不必要に混乱させた最大の要因です。彼らの行動がもたらした被害が論理的に検証される日はそう遠くないものと考えます。

最後に4月から11月に至る空間分布を示してこの記事を終わりたいと思います。