投資は信念をもって賭けることだ

投資運用業はプロフェッショナル業である。しかし、日本では、組織的意思決定という幻想のもとで、プロフェッショナル個人の賭けが排除され、合議という迷妄のもとで、誰がやっても同様な結論に達する常識的な推論によって運用がなされている。いわゆるサラリーマン運用である。これでは、個性はなく、付加価値も生み得ない。

投資対象として、ある株式の銘柄を選択することは、それを担当しているプロフェッショナル個人専管事項であって、組織としては、その選択を了承することはあり得ても、その銘柄を選定することなど、できるはずもないのである。銘柄選択は、あくまでも、個人の決定であり、個人の賭けでしかない。

組織が行うことは、賭けの諸制約の設定にすぎない。例えば、投資額の調整や売却基準等の制定である。複数のプロフェッショナルから提出される多数の銘柄について、その構成の偏り等を調整することは組織にしかできないからである。業界では、こうした組織的統制を、リスク管理と称している。

リスク、即ち危険とは、プロフェッショナル個人における賭けにあるのだから、組織としての賭けの制御という意味で、妥当な名称である。しかし、賭けを組織的に統制する以前の問題として、プロフェッショナル個人の次元において、賭けの自律的統制が必須である。それが絶えざる自己鍛錬を通じた信念の形成である。

飛行機は墜落する。飛行機に乗ることができるのは、飛行機が墜落しないという信念のもとでのみ可能である。投資に損失はつきものである。損失を避け得るという信念のもとでのみ、資産運用は可能になる。その信念の形成のためには、投資対象の徹底した調査分析が必要である。信念は、思い込みではなく、絶えざる経験的帰納と論理的演繹の結果として、常に新たなるものとして、持続的に形成されるものでなければならない。

プロフェッショナルとして生きることは、新たなる信念の形成とともにある。信念が、信念として意識されないくらい深く硬くなるとき、独断に転じて、賭けの自覚が失われる。資産運用における賭けは、賭けの自覚に基づくものでなければならないが故に、信念は、日々、新たでなければならないのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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