ペロシの責任を問う質問状を提出、共和党有力議員が議事堂乱入事件で

米大統領選の一連のトランプ辛口報道でコアな読者の産経離れを引き起こしたと、同紙の良心ともいわれる阿比留瑠比や古森義久を嘆じさせているワシントン特派員だが、黒瀬記者の15日の記事は弾劾『無罪』もトランプ氏追及続くというもの。

ホワイトハウス公式サイトより

本稿はその黒瀬記事を基に、弾劾無罪判決後の米国の政局について若干の考察を試みたい。対照には15日に米政治メディア「Politico」に掲載された記事と、同じ日に共和党の幹部議員4人が民主党ペロシ下院議長に提出した質問状を用いた。

前者の表題は「ペロシは1月6日の暴動で9.11スタイルの委員会の呼びかけを繰り返す」であり、後者の趣旨は、ペロシに「1月6日の議会議事堂の安全に関するいくつかの簡単な質問への回答」を求めるもの。立ち位置は異なるが、どちらも1月6日の出来事の真相究明を目指している。

黒瀬記事の要点は、トランプは再出馬を睨んだ活動を目論むも、共和党の一部にトランプ離れが目立ち始め、民主党や司法当局による責任追及も続けられるというもの。

1500字余りの記事の中に「ただ」が3度、「一方」が4度も使われている辺り、内容の目まぐるしさを物語る。が、これからどう展開するか読めない事象を、真っ向から対立する民主党と共和党の言い分を基に報道しようというのだから、仕方なかろう。

まず「決着急いだ民主政権」との小見出しでは、その理由を、有罪評決に必要な票を確保できる見通しがなかったこと、新型コロナ対策や新政権高官の人事承認を優先させたい思惑などから、裁判長期化を避けたからだとする。その通りだろうし、そもそも日程も容疑も無理筋だった。

次の「内紛含みの共和党」では、評決後にトランプと距離を置く発言が相次いだので、今後は党内抗争が活発化するが、大多数は来年の中間選挙で両院を奪還するにはトランプ支持勢力の確保が不可欠として決定的な対立は避けている、と少々苦しい書きぶり。

最後の「司法当局の捜査も」では、マコーネルによる刑事・民事での責任追及可能性の指摘や、ジョージア州フルトン郡検察当局によるトランプの州務長官への電話の件での刑事捜査着手、反乱に関与した当局者が公職に就くのを禁じる措置の議会民主党による適用検討などに触れている。

トランプを軸にした記事としては、他の多くの報道とほぼ同工異曲の可もなく不可もないありきたりの内容。これに対して前述した米国の2本は、どちらも主役がトランプではなくペロシ下院議長だ。つまり、トランプ同様にペロシも俎上にあるというところが実に興味深い。

ペロシ氏(本人ツイッターより)

初めに共和党幹部議員のペロシへの質問状だが、下院管理委員会のロドニー・デイビス、司法委員会のジム・ジョーダン、監視・改革委員会のジェームズ・コマー、諜報に関する常設セレクト委員会のデビン・ヌネスの4名連名で、全員が委員会のランキング(最高位)メンバー。

その要旨は以下のようだ。(拙訳による)

  • 議事堂警察のサンド長官が1月4日に州兵の支援を要請した時、なぜ要請を拒否したのか?
  • 軍のアーヴィング軍曹は、サンド長官の州兵への要請を拒否する前に、1月4日に貴女のスタッフから許可または指示を受けたか?
  • 1月6日の事件直前に貴女とそのスタッフが、同軍曹に与えたその敷地のセキュリティ体制への具体的な会話と指図はどの様か?
  • 1月6日にサンド長官が州兵の支援を要請し、貴女の承認が必要になった時、議事堂への攻撃について貴女は治安当局とどの様な会話をし、どの様な回答を治安当局に与えたか?
  • 貴女の下院当局者は、1月6日の出来事に重要な価値を持つ要求資料を調べるための(共和党議員による)保存と作成の要求に応じることを、なぜ拒否するのか?

4議員は、ペロシ下院議長は多数党の指導者であるのみならず、下院議場における運用上の全決定に責任があることを理由に上記質問を出した。質問状に依れば、共和党は攻撃を受けて、上下両院は超党派で完全な検証を実施するよう呼びかけ、事件の再発を防ぐための検証を行う法案を提出した。

が、ペロシはそれを受け取らない代わりに、下院共和党との協議もなしに一方的にアーヴィング軍曹を解雇し、サンド長官の辞任を要求したばかりでなく、セキュリティ検証を主導するためにオノレ退役将軍を任命した。4議員は、これの決定はペロシの政治的動機への疑義を惹起すると述べる。

さらにサンド長官が、1月6日に先立って州兵の戦時体制化(activate)を要求した際、現場の州兵は優秀ではないので諜報機関がその動きを支持しなかった、との“世評(optics)“で承認されなかったことが、複数の情報源によって広く報告され、確認されているとする。

またペロシは1月7日の記者会見で、事件が起こってから電話をかけて来なかったとの理由で、サンド長官に辞任を求めていると述べたが、2月1日付のサンド長官のペロシへの書簡で、午後5時36分と午後6時25分に電話で敷地の状況についてペロシに説明した、と反駁されている。

共和党の要求する資料については、ペロシの下院当局が拒否したにも関わらず、同じ資料の一部が下院司法委員会の民主党議員には提供されていると判り、4議員は「これは受け入れがたい。下院議長殿、その指示は貴女からしか出せない」と怒り心頭に発している。

これらの質問にペロシがどう答えるか興味津々だが、同じ日にペロシはその答えのひとつを出した。Politicoに依れば、「9.11スタイルの委員会」と設けると下院民主党への書簡で述べているのだ。

その委員会が調査する問題には「暴動を扇動するドナルド・トランプ前大統領の役割」と「暴力が発生した後の州兵の到着の遅れ」が含まれるという。前者を審議すべく弾劾訴追したのではなかったかと呆れる。が、後者は共和党の質問内容と重なる。質問を見た上か否か知らぬが、ペロシの強気は異様。

20年経っても9.11の衝撃は未だ鮮明だ。しかし、今回の議事堂乱入を、ハイジャックした複数の旅客機で、外国人テロリストが多くの乗客もろともツインタワービルに突っ込み、数千人を死亡させた未曽有のテロ事件と同日の論とすべきだろうか。

議事堂乱入は扇動した過激な少数によるもので、大半は釣られた入った野次馬と見るべきだろう。その過激な少数にも親トランプと反トランプが混在するようだ。共和党議員の質問は、ペロシが敢えて警備を手薄にして、乱入し易くしたのではあるまいか、との疑いに基づくものと読める。

2年にわたる9.11委員会の12回の公聴会などは561頁の報告書となった。但し、議事堂乱入に外国勢力の背景があったか否かは、大統領選挙の不正問題とも通底する可能性があるので、委員会を設けるのも良かろう。が、ペロシが唐突に9.11を持ち出したことに、筆者は「印象操作の印象」をもつ。

Politico記事は最後に、共和党も1月6日に安全保障上の脅威を引き起こした状況について疑問を投げかけ、主にペロシ下院議長が「その日のまばらだった(scattered)安全保障姿勢に責任を負うかどうかに焦点を合わせた」と前記の質問状のことにも触れている。

共和党4議員の質問状を読むと、ペロシにも議事堂の警備体制などでは相当の抜けが、故意か偶然か知らぬが、あるようだ。筆者は二度も無罪になった弾劾裁判を主導した責任者としてペロシを難じたが、乱入事件そのものについても彼女の責任が問われて然るべき、との思いが加わった。