「会食接待」を報じた文春砲と毎日新聞のあまりに大きな差

原 英史

毎日新聞は2019年6月、一面トップで私の不正疑惑を報じた。

1)私が国家戦略特区ワーキンググループ委員の立場で、特区提案者から「指導料」を受け取った、

2)特区提案者から「会食接待」も受けた、

との内容だ。

毎日新聞ロゴ、筆者(衆議院インターネット中継より/編集部)

そんな事実は全くなく、直ちに反論文を掲載した。

ところが、毎日新聞は事実無根のキャンペーンを継続。その後、森ゆうこ議員が国会で疑惑を取り上げ、篠原孝議員はブログで私を誹謗中傷する事態になった。

(参考)森ゆうこ参議院議員の懲罰等の検討を求める請願書提出(アゴラ 2019年12月02日)

(参考)毎日新聞記事を真実と断定:篠原孝・衆議院議員のブログに抗議する(アゴラ 2019年07月31日)

毎日新聞社、森ゆうこ議員、篠原孝議員それぞれに対し、訴訟を提起して係争中だ。

このうち毎日新聞社との訴訟では、3月2日に東京地裁で尋問が行われ、毎日新聞記者と私の双方が出廷した。明らかになったのは、毎日新聞のあまりにずさんな取材の実態だ。

文春砲と毎日新聞の取材力の差

同じ「会食接待」報道だが、山田真貴子・前内閣広報官や総務省幹部らの会食を報じた文春砲とは、天と地ほどの違いがある。

文春オンラインスクリーンショット

文春砲は、事実を突き止め、証拠をきっちり押さえて報道した。事実を突きつけられた総務官僚らは認めるほかない。新聞・テレビもこぞって「週刊文春によれば・・・」と報じ、週刊文春は今や全マスコミが頼る情報源となった。

一方の毎日新聞は、ガセ情報を証拠なく報じた。一部の野党議員は飛びついて「疑惑追及」を行ったが、新聞・テレビの後追い報道は一切なかった。毎日新聞社と関係議員は提訴されることになった。

明暗を分けたの、まず取材力の差だ。

週刊文春は現場を押さえ写真をとっていた。飲食店前で菅首相長男が総務省幹部にタクシーチケットなどを渡す場面だ。さらに音声データまで持っていて、二の矢、三の矢も続いた。その取材力には脱帽するばかりだ。

これに対し、毎日新聞の場合、会食の事実はないのだから当たり前だが、そんな写真はない。代わりに訴訟で示した証拠資料は、記者が撮影した飲食店の外観写真だった。「店の外観写真をおさえたのだから、会食接待があった証拠だ」と考えたのかもしれないが、一般社会では通用しない。これでは取材になっていない。

証拠資料として、店の写真のほか、記者の取材時のメモも提出された。取材メモでは、私は、福岡市で開催されたイベントで講演した後、「せっかく東京から見えているんで、酒でも飲みましょうか」と誘われ、「4人分で何万円」かの会食接待を受けたことになっている。

しかし、実際にはこのイベントは15時までで、私は16時には空港に向かった。フライトスケジュールの記録も残っていて会食の可能性は皆無だ。その旨を、私は記事掲載前に記者に伝えてあった。

それにもかかわらず、「会食接待」が報じられた。取材能力やチェック体制だけの問題だったのか。あるいは、私の「不正疑惑」をどうしても報じなければならない特別な事情があったのか。特定の国会議員などの関与が記事掲載前にあったのか。今後の訴訟を通じ、真相をさらに解明していきたい。

虚偽報道の前提となった「空想上の制度」

尋問では、私に対する質問もなされた。だが、毎日新聞側代理人とのやりとりは、あまりかみ合わなかった。前提がおかしな質問が続いたためだ。

毎日新聞側の前提は、「特区ワーキンググループは、提案を選定する立場」というものだ。だから、私が提案者に助言したことが特別な便宜を図ったことになり、それに対して「指導料」などが払われたとの虚構が組み立てられた。

だが、特区提案はそういう制度ではなく、「提案を選定」することはない。提案は、どんな規制改革のニーズがあるのか、社会から広く情報を集めるために行う。補助金申請などとは異なり、申請の中から優れたものを選び、選ばれるとお金がもらえたり表彰されたりする仕組みではない

目的は規制の問題を解決することだから、提案者に対し情報提供・助言も行う。これは、何ら特別なことではなく、委員の任務として広く一般になされていることだ。

こうした説明は、私だけが言っているわけではない。政府も他の民間委員らも同じ説明をしている。さらに言えば、規制改革の提案制度は、国家戦略特区で初めて設けられたわけではなく、2000年代初頭からずっと同様の形で運用されてきた。

毎日の記事は、「空想上の制度」を礎に、およそあり得ない虚構の不正を描いたものだった。

訴訟戦術上やむなく続けているのかもしれないが、とはいえ、報道機関が事実と空想の区別がつかないまま、おかしな主張を繰り返しているさまは、あまりに見苦しい。

毎日新聞社には、今回の事案を機に、報道姿勢・体制を立て直してほしい。調査報道に強い新聞として、社会的使命をしっかり果たしてほしいと願っている。