日本も米国も、民主主義を守り抜け!

高橋 克己

次の衆院選での選挙協力に絡み、立憲民主党は、共産党から保守系とリベラル系の連合政党を維持するか、社会主義革命・共産主義革命を志向する革命政党の統一戦線に組み込まれるかの選択を迫られているそうだ。14日の産経新聞「佐藤優の世界裏舞台が書いている。

本人ツイッターより:編集部

佐藤氏は、志位共産党委員長が「今度の総選挙で勝って、新しい政権をつくる」として、枝野総理実現に協力する意向を述べていることを挙げて、連携すれば立憲を支える労働組合などの支持を失うので、共産党と政権合意は立憲にとって「死活的に重要」だとする。

言うまでもなく立憲の主張する原発ゼロは、電力や電機その他の民間労組と自治労や日教組などの官公労との対立を鮮明にする。元来、前者の属した旧同盟は保守の民社党支持、後者の旧総評は左派の社会党支持だ。いつまでも呉越同舟(連合)でいることの方が異様といえまいか。

先の大戦での日本軍の強さの源泉を皇室と見た米国は、ポツダム宣言受諾の受け入れ過程でこそ、その存続を黙認したが、GHQは教育改革(修身や教育勅語の廃止)、皇籍離脱や国家神道廃止(後に緩和)など皇室の弱体策を打った。宗教や天皇を否定する共産党の合法化もその一環だ。

49年10月の中華人民共和国の成立や東西冷戦の顕在化を受けて、レッドパージと称される共産党関係者の追放があったが、以来70年を経ても共産党に対する一定の支持が我が国に存在する。とはいえ、天皇や自衛隊を否定するような政党が政権の座に就くとなれば話は別だ。

が、コロナ禍から抜け出そうと世界がもがく中、共産中国がそれを逸早く克服したとワクチン外交を喧伝し、何を決めるにも時間が掛かる民主主義固有の弱点を際立たせるなら、共産主義の標榜はしないまでも、その一部で民主主義の欠点を補うべきとする日本人がいても不思議はない。

時は東日本大震災から10年という節目、当時云々された「私権制限」がコロナ禍の「緊急事態宣言」の当否などで論議を呼んでいる。また、共産中国によって自衛隊基地周辺の土地などが買い占められることを防止する法案に、公明党が「私権制限」の観点から反対しているという。

ここで我々日本人が考え違いしてはならないのは、民主主義国家の法律に基づく限定的な「私権制限」と、独裁国家のそれとは異なるということ。民主主義国家では、政府のあらゆる政策は、選挙を経ねばならぬから時間は掛かるにしても、政権交代という形で変更ができる。

だからこそ野党も含めた建設的な議論が必要だ。だのに、モリカケだ、桜だ、接待だといった、些末とはいわぬが、国の根幹を揺るがすわけでない問題でばかり騒いでいるのは、何をかいわんや。まして共産党が政権運営に参画するなど以ての外で、決してあってはならない。

情報が様々溢れる中、政治家は事の軽重を弁えた政策論議をし、メディアはそれを偏りなく伝え、国民は与えられた情報のみに頼らず、異論を含めた幅広い知識をネットや書物から得て、信用に足る事実に裏付けられた考えを持たねばなるまい。また、それが可能な時代でもある。

Nutthaseth Vanchaichana/iStock

民主主義を揺るがしかねない問題を抱えているのは、米国も同じだ。大統領を決める選挙人投票の合同会議が行われた1月6日、連邦国会議事堂に暴徒数百人が乱入する事件があった。それの使嗾を疑われたトランプの弾劾裁判は無罪だった。が、目下は当日の警備体制の適否が議論されている。

そんな中、国防総省は議事堂警備の州兵5,100人規模は半減させるものの、2,300人の警備体制を5月23日まで延長するという。一時は26,000人規模に膨らんだ体制は、1月20日の大統領就任式後に数を減らしつつ3月12日までの予定で維持され、これをさらに継続するのだ。

3月12日までの警備は、憲法修正第20条が、大統領就任式を1933年に1月20日に変更するまで投票日から60日以内(3月4日)に行うとしていたことから、その間にトランプが大統領に再就任されるというQアノンの誤った思い込みに対するものだったという(3月9日のThe Hill紙

新国防長官ロイド・オースティンが兵器企業に在籍していたとか、1月6日の検証チームを率いるオノレ退役中将をペロシが共和党の相談抜きに決めたとか、議事堂警備の州兵がガレージで起居させられていたとか、彼らにトランプがホテルを提供したとか、軍に纏わるニュースが様々流れている。

これらのいずれをとっても、軍がバイデン新政権とペロシ下院議長に対して不満を懐いていることや、トランプ支持者による新たな暴動があるかも知れないとの、民主党サイドの強い懸念を物語っていて、さらにそれが増幅されているようにも感じられる。

トランプ支持のある在米の知人のように、1,000を超える宣誓供述書や一部の州による選挙不正の告発が、連邦最高裁などによって審議されることなく門前払いされた失望感から、裁判所が裁いてくれないのなら軍に裁いてもらうしかない、とそのやり場のない焦燥を述べる者もいる。

つまり目下の米国は、民主主義の根幹を破壊する不正選挙の問題と、裁判所の代わりに軍に不正の解明を期待するという、二つの民主主義の危機に直面しているということ。主流メディアは報じず、SNSも遮断しているので実感がないが、少なくない米国人にそういう気持ちがあるようだ。

そんな中トランプは先月末のCPACで1時間半演説した。4年間の実績を自賛し、それを端から覆すバイデンを批判した。24年の出馬は明言しなかったが、新党は作らず共和党で中間選挙に勝つとした。先の選挙での勝利を連呼するレトリックは健在だ。

CNNは翌日、「Donald Trump’s CPAC speech: The 50 most ridiculous lines」との見出しのトランプ演説の愚弄記事を載せた。が、政策批判は、国境の壁は500マイルでなくBBCは80マイルとしている、NAFTAは最悪だ、宇宙軍は「火星が待っている」、といった批判にも値しないもの。

つまり、トランプの人格批判は容易いが、政策はなかなか批判し辛いようだ。トランプの国境の壁に纏わる移民政策の否定は、どうやらバイデン最初の大失敗になりそうだし、バイデンのワクチン演説に一日に先んじて、トランプはワープスピードを忘れるなとPRを忘れるなとPRした。

いずれにせよ選ばれた以上、バイデンが4年間職責を果すよう、閣僚と議会にはしっかりしてもらいたい。そしてトランプには2年後4年後を見据え、民主的な手続きに沿って政権奪回に努めてもらいたい。間違っても軍の出番などあってはならない。これらが敵の思う壺に嵌らない手立てだ。