制御不能に向かっている世界の財政金融

「各国が出し続ける膨大な金額の国債を将来、どう償還するか」は、世界経済の最大の問題です。「中央銀行が保有する国債は帳消しにすることを選択する」との意見書を欧州の経済学者150人が発表しました。

世界的なベストセラー「21世紀の資本」の著者、ピケティ氏を始め、独仏伊の学者が共同で提唱しました。日経の記事(4/3日)で、ぎょっとし、「エイプリルフール」記事かと思ったほどです。日経は現実的な提案ではないと考えたのか、小さな扱いです。

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パリでは詳細に報じられているのでしょうか。記事では「欧州中央銀行のラガルド総裁は『考えられない』と、議論を一蹴。前例のない提案に各国政府は否定的だ」としています。

本当に「徳政令」をださなければならないほど、財政状態が窮迫しているのなら、個人や投資家は疑心暗鬼になり、国債も株も暴落する。実際に国債がデフォルトした国として、ブラジル、アルゼンチン、ギリシャなどの例があり、「まさか」とばかりいっていられません。

ネット言論サイト「アゴラ」主宰の池田信夫氏は「経済学的には成り立っても、政治的にはウルトラハイリスクな考え」と指摘します。政権の崩壊は不可避だからです。

「すぐにはあり得ない」としても、「国家財政が追い詰められて、そう選択せざるを得ない国がでてくることはあり得る」と考えれば、ピケティ氏らの提唱は「悪魔の選択」として一考してみることです。

最近の世界のマネー市場をみると、「バブルが今にも破裂する」といった警告がメディアに頻繁に現れるようになりました。それでも破裂しない。「バブルは崩壊して始めてバブルだったと気づく」という歴史の教訓の通りの展開になるのかもしれません。

「世界の株価の時価総額は1.2京円(106兆㌦)で、過去最高。1年で6割も増え、市場では過熱感が強まっている」、「米投資会社のアルケゴスが破綻の危機、金融機関が競うように融資をしていた。邦銀も多額の損失を被っている」。まるでバブル末期の様相です。

米国では、特定買収目的会社(SPAC)といって、未上場企業の買収を目的とする投資会社が熱狂的な関心を集めています。「株式市場に投機熱の典型的な症状がみられる。桁外れの過大評価に爆発的な価格高騰、無節操な新株発行の熱に浮かされている」との警告もあります。

リーマンショック後から続く金融緩和、財政膨張にコロナ危機対策が上乗せになっています。膨大なマネーが株価を押し上げ、下がりそうになると、またマネーが国家から注ぎ込まれ、財政は悪化する。

米国の連邦政府債務はGDP比で130%で、世界大恐慌時を超えました。日本は米国以上の悪化で、GDP比で2倍で先進国の中で最悪です。中央銀行が国債を際限なく購入してくれるので歯止めがかかりません。悪化する国家財政と異常な株高という均衡はいつまでも保たれるのでしょうか。

最もひどいのは日銀でしょう。国債は発行残高の4割、ETF(上場投信)を通じた株買いで株式の時価総額の7%は日銀が保有しています。10年間も実現できないのに「物価上昇2%を実現する」と言い続け、その出口戦略については、日銀総裁は一言も発言しません。

この「恐怖の均衡」(日銀の金融緩和・財政膨張と株高・資産高)は破綻しないで済むのでしょうか。無理をしまいと思えば思うほど、泥沼の深みにはまっていくのです。

このような状態から抜け出すには「日銀の保有国債を帳消しする」しかないのか。ピケティ氏らの悪魔の選択は、「そのような状況に追い込まれる可能性はある」という意味で、示唆するものがあります。

財政はそれで助かっても、日銀は破綻同然となります。財政と日銀は一体ですから、日銀の破綻は国家財政の破綻になる。膨大な額の国債の償還を免除すれば、株、国債が暴落し、インフレが起きる。

国はそれで逃げ切れるかもしれません。膨大な損害、犠牲を国民に押し付けて、国は存続する。太平洋戦争の敗戦で起きた破綻の再現です。

菅首相が日本学術会議の人事案件で口にした「総合的、俯瞰的に考える」べきことの本当の意味は、こういうことなのだと思います。竹中平蔵氏は「アーリー・スモール・サクセス」と、首相に助言しました。今ころ、後悔していることでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。