蔡台湾に共産中国が自国製ワクチンを強要:韓国も側杖

蔡英文総統の台湾は、国民党馬英九から総統府の主の座を奪った14年末以降、中国の圧力によってWHA(WHO年次総会)への参加を阻まれている。だからこそ蔡政権は、全身全霊を捧げて懸命に新型コロナ感染症の蔓延を防いできた。台湾人の沽券に関わることだからだ。

Oleksii Liskonih/iStock

が、ウイルスの側も何とか生き永らえようと、種々のコロナ対策やワクチン普及の網を潜るのに必死だ。感染力や重症化率のさらに強い変異株もそうだろうし、ワクチン接種の進んだ英国のリバウンドや、台湾での蔓延発生などもその表れに違いない。

この台湾の頑張りを知っている世界各国の多くの人々は、昨今の予期せぬ事態に驚くとともに深い同情を寄せる。日本はいち早くアストラゼネカ製(AZ)ワクチン124万回分を提供し、米国務省高官も17日、約束した75万回分を一刻も早く届けたいと述べた(ロイター電)。

ところが、こうした国際社会の取り組みとは裏腹に、現下の台湾の苦境を腹の底で歓迎し、政治利用している国がある。その国は春先にも台湾パインを突然シャットアウトし、国際社会の同情を台湾に向けさせて大恥をかいた。その共産中国が今また、ここを先途と蔡政権潰しにかかっている。

環球時報は15日、「『蔡は私たちを殺している!』台湾の女優徐熙媛が蔓延ごまかしで民進党の権威を爆発させる」とし、台湾では多くの芸能人が新型コロナの高い死亡率とワクチン不足を起こしている民進党の政治的ごまかしに不満だとして、徐の「私たちは虐殺(massacre)されている」と始まる投稿を紹介した。

記事は、5月末までに62千人以上の台湾住民が本土でワクチン接種を受けており、6月には少なくとも5人の芸能人も来たとし、中国当局広報官の以下の談話を報じる。因みに、徐熙媛は台湾在住だが生まれは中国だ。

-我々は、台湾の同胞の多くが安全で効率的な本土ワクチンを受け取ることができるよう、台湾への本土ワクチンの輸入に対する人為的な障壁をできるだけ早く取り除くことを民進党当局に要請する。

洋の東西を問わず芸能人とされる人々は反骨精神?に富むようだ。が、日本と米国のそれが、安倍とトランプという目下権力の座にいない者を敵視する、どちらも「(立憲)民主党」に与する人々であるのに対して、台湾のそれは「民主進歩党」を敵視しているところが異なる。

環球時報は18日にも、北京の免疫学者による「デンマークやカナダはAZワクチンの接種を停止した」、「死亡はワクチンと直接関係ないかも知れないが、一部の台湾ネチズンは日本が『疑わしい』ワクチンを台湾に処分(dump)していると不安がっている」とのコメントを載せた。

だが、確かにデンマークはAZ接種をやめているが、カナダはトルドー首相が「アストラゼネカ製を含め、国内で投与されている全てのワクチンの安全性を保健の専門家たちが保証したと明らかにした」と述べている(3月16日BBC)。

こうした共産中国のプロパガンダに対して前掲ロイター電は、トランプと不倶戴天の共和党重鎮ロムニー上院議員が「米国は台湾のことを気にかけていないとする中国の偽情報に対抗するために、早急に台湾に対し最大200万回分のワクチンを供給する必要がある」との考えを示したと報じる。

もちろん蔡政権も黙っていない。大陸委員会(かつて蔡は故李登輝総統からその主任委員に抜擢され、習近平福建省長と小三通の交渉をした)は17日、ワクチンを提供する姿勢を示す中国に対し「偽の善意を示す必要はない」、中国が邪魔さえしなければ「我々はより信頼性の高いワクチンをより早く国際社会から入手できる」との立場を示した

その一環で蔡総統は18日、鴻海精密の創業者郭台銘とTSMCの董事長劉徳音と会い、ワクチン調達への協力を感謝した。両社とも中国に主要な拠点を持ちつつ、トランプ政権下で米国への工場立地を決めたことは周知の通りだ。

総統選で蔡に負け、高雄市長をリコールされた韓国瑜と、一時は国民党総統候補の座を争った郭氏が設立した慈善団体「永齢基金会」は、TSMCと共々、独ビオンテック社から購入するワクチンを政府に各々500万回分寄付するそうだ。

17日の台湾ニュースは、台湾では6月16日時点で約192万人が少なくとも1回接種を受けており、中央流行疫情指揮センター(CECC)は、接種後に2人の死亡と8人の重篤なアレルギー反応を含む133人に有害な反応があったが、ワクチンの副反応かどうかは調査中としていると報じた。

同記事は、「台湾では75歳以上の約200人が毎日死亡している」、「英国では6月2日時点で、2450万回の接種のうち、AZの副反応が原因で863人が死亡したと報告されている」とのCECC広報官の談話を載せている。が、筆者はその率直過ぎる物言いに少々驚いた。

なぜなら、何かと曰くのあるWHOだが、AZのワクチンについては3月19日、「現段階では、ワクチンの接種によって血栓が増えるとは言えない」とした上で、各国に対し全てのワクチンの安全性について引き続き、監視していくよう呼びかけた。AZについてはEMA(欧州医薬品庁)も18日、「安全」との見解を発表し、仏独なども接種を再開したからだ(3月20日NHK)。

そのWHOは5月7日、それまでファイザー製、J&J製、モデルナ製、AZ製の欧米製だけだった新型コロナに緊急信用するワクチンとして、中国シノファーム製を承認し、6月9日にはシノバック製も承認した。今後は途上国などに配分する「COVAX」への組み込みが可能になった(6月9日JETRO)。

JETROによれば、中国でのワクチン接種は6月2日までに7億回を超え、5月28日の中国疾病対策予防センター発表によれば、副反応の報告総数は3万1434件(接種10万回当たりでは11.86件)で、発熱や腫れなどの一般反応が83%を占め、重篤なケースは188件だった。

が、17日のロイターは、インドネシアでシノバック製の「ワクチン接種済み医療関係者350人がコロナ感染、変異株か」と報じている。副反応は10万回に12回弱なのかも知れぬが、これまでもしばしば指摘されてきたように、余りに効果が低いようでは何のために打つのか判らない。

関連して19日の朝鮮日報が抱腹絶倒する記事を載せている。中国に駐在する韓国人ビジネスマンが中国で5月に中国製ワクチンを接種して韓国に一時帰国した際、2週間の検疫が免除された。が、先ごろ中国の戻ろうとして調べると、中国では3週間の検疫が求められるという。

彼は、「韓国は中国に対して防疫の敷居を低くしているのに、中国は相互主義を適用せず、(防疫措置が)変わらないのは納得し難い」と憤慨する。中国メディアによれば、韓国は中国製ワクチン2種を接種した渡航者の入国時に自己隔離を完全に免除する、世界で初めての国だという

つまり、韓国(提供を受け始めた北朝鮮も)は中国製ワクチンに信頼を置くが、当の中国は世界中にばら撒いている自国製ワクチンを全く信じていないという訳だ。これに筆者は、プーチンが「ロシア製ワクチンはカラシニコフ銃と同じくらい信頼できる」と述べた話と同様、韓中露の国柄を象徴していると感じ入った。

話が逸れたが、英国をはじめ世界中で使われているのだし、日本でもAZ製を接種していれば中国に与える隙を減じられた。賞味期限もあることだし、国が使用を決めれば、筆者にはAZを選ぶつもりがある。