日経平均株価が、8日連続で下がりました。この一つの原因は、岸田首相が10月4日の記者会見で金融所得課税の見直しをあげた「岸田ショック」だといわれています。この背景には、日本の所得税の問題があります。
Q1. 金融所得課税って何ですか?
これは利子や配当や株を売った利益などにかかる税金で、今は20%の分離課税を選べます。普通の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進税率ですが、金融所得は一律に20%なので、図1のように1億円以上はお金持ちほど税率が下がる逆進税になっています。これを累進税率にするのはだれでも思いつくことですが…
図1 所得税率は1億円が最高(日本経済新聞)
Q2. なぜお金持ちの税率が低くなるんですか?
普通はすべての所得を合計して税率を計算する総合課税なのですが、そうするとお金持ちの金融所得には最高55%の所得税がかかります。利子や配当の税率が安い国はたくさんあるので、税率を上げても、お金持ちがシンガポールや香港に投資すると、税収は上がらないのです。
Q3. 所得税が不公平だというのは本当ですか?
本当です。所得税にはクロヨンと呼ばれる捕捉率の差があり、自営業者の6割は所得税をはらっていないといわれています。企業の7割が赤字法人で、法人税をはらっていません。
おかげで負担が一部の人に片寄っており、次の図のように納税者の4%が、税金の半分を負担しています。これはお金持ちの税率が累進課税で高いからで、全体の60%を占める課税所得200万円以下の人の税率は5%です。日本は先進国では、所得税率の一番低い国なのです。
図2 所得税の負担は上位4%に片寄っている(日本経済新聞)
Q4. なぜこんなに所得税が低くなったんですか?
消費税ができた1990年代から、何度も所得減税がおこなわれ、給与所得控除や配偶者控除などが増えたため、課税所得は給与総額の60%以下になってしまいました。
Q5. 給与所得控除って何ですか?
もらった給料から必要経費を引いて課税することで、サラリーマンは30%ぐらい給与所得控除があります。給料が400万円だとすると課税所得は280万円になり、それに所得税がかかるので、定率の給付金みたいなものです。国全体では63兆円にのぼります。
Q6. 所得税を増税したら、格差はなくなるんでしょうか?
残念ながら、そうは行きません。いろいろな控除で課税ベースが小さくなったので、所得税だけいじっても増収はたかだか数千億円でしょう。資金が海外に逃げると、税収は減るかもしれません。不公平感をなくすのはいいことですが、実質的な効果はあまり期待できません。
Q7. なにが格差の原因なんですか?
図3のように社会保険料の負担は所得税の2倍もあり、国民年金保険料は貧乏な人からも同じ額をとるので逆進的です。健康保険などを合計した社会保険料はサラリーマンだと給料の30%ですから、消費税よりはるかに多いのです。
図3 国税と社会保険料の負担(Yahoo!個人)
Q8. 消費税は逆進的なんですか?
所得にしめる消費の割合は貧乏な人ほど高いので、お金持ちほど消費税の負担率が小さくなる逆進性があることは事実ですが、図3をみればわかるように社会保険料の負担は消費税の2倍以上で、きわめて逆進的です。特に国民年金保険料は貧乏な人の最大の負担で、不払いが半分近くになり、制度が崩壊しています。
図4 社会保障の世代間格差(国民民主党)
図4のように今の60歳以上は、はらった年金保険料よりもらう年金のほうが4000万円多いのですが、今の20代は保険料より年金のほうが1200万円少なく、よい子のみなさんは8300万円も損します。この世代間格差が、日本の最大の格差なのです。
Q9. なぜ社会保障の負担はこんなに重いんですか?
最大の問題は「保険料」という建て前です。今の現役世代が今のお年寄りの年金や医療費を負担する賦課方式なので、超高齢化で負担がどんどん重くなります。今は現役2人でお年寄り1人をささえていますが、2050年には現役1人でお年寄り1人をささえることになります。
Q10. どうすれば格差はなくなるんですか?
以上みたように所得税の累進税率を重くするのは、大した効果がありません。格差の最大の原因は社会保険料なので、これを(お年寄りもお金持ちも負担する)消費税に置き換え、すべての国民にベーシックインカムのような最低保障をしたほうが公平です。問題はお金持ちが豊かなことではなく、貧乏な人が生活できないことだからです。
この点で年金の1階部分を消費税に置き換える河野太郎さんの最低保障年金はいいアイディアだと思いますが、岸田さんは「消費税の増税になる」と反対しています。分配の問題は政治的にややこしく、多くの人の利害が対立するので、岸田さんの「新しい資本主義」とかいうきれいごとでは何も解決しないと思います。