孔子学院の衰退の陰で、台湾が虎視眈々と狙う世界進出

中国の戦闘機が連日、大挙して台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入し、今年夏には極超音速ミサイルの試験発射を行った疑惑が報じられるなど、中国の軍事的脅威は日に日に強まっています。

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米中関係にも亀裂を生むなか、これまで中国を歓迎していた米国の大学も、路線変更を迫られつつあります。

ハーバード大学は毎年、北京で中国語講座「ハーバード北京アカデミー」を展開してきました。しかし、10月7日に、2022年から台北に変更し名称も「ハーバード台北アカデミー」にすると発表したのです。理由として「開催側から友好的な姿勢が失われたため」と説明しています。

トランプ前政権では20年8月に孔子学院を「中国政府が展開する世界規模のプロパガンダや悪意を広める機関」と指定、実態把握目的を一因に外国公館とし、締め付けを図りました。20年末には、米国内の小中高大など教育機関に、孔子学院と契約・提携した場合の金額を含む報告を義務付ける規制強化を提案したものです。バイデン政権に入ってからは、1月26日に外国公館の指定をめぐる行政命令が取り下げたとはいえ見直しを進めていると想定され、ハーバード大側は先回りして中国との関係を再評価したに違いありません。

振り返れば、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官も、就任前の2月に行われた指名公聴会で孔子学院への監視強化に意欲を表明。10月7日には、CIA内の中国専門のハイレベルな調査部門チャイナ・ミッション・センターを設置したと発表、中国をカギとなる競争相手と掲げ「中国が世界にもたらす困難に取り組むべく、CIAのすべての任務分野を横断する」機関と言及していました。さらにバーンズ長官は「我々が21世紀に直面する最も重要な地政学的リスクであり、敵対的な姿勢を強める中国政府への活動を一段と強化する」と。

ちなみに米上院は3月4日に孔子学院への監視強化に関する法案を全会一致で可決、下院が採決していないため成立していませんが、3.5兆ドルの歳出案をめぐり決着がつけば動きが出てもおかしくありません。

チャート:全米に散らばる孔子学院、2021年9月時点には未だ36校が点在も、そのうち8校は年末までに閉鎖へ

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(出所:NAS)

興味深いのは、孔子学院への監視強化を見据えた台湾のスピーディーな行動です。

台湾は孔子学院の勢力低下の間隙を突き攻勢を掛けており、9月にカリフォルニア州など複数州にまたがり台湾語学センター(Taiwan Center for Mandarin Learning)を15校立ち上げました。3~5年以内に100校を目指すといいます。米国以外にも、虎視眈々と世界進出を狙います。

果たして米国は、台湾にアカデミックの分野で密接に協力していくのでしょうか?1月17日付けの台北タイムズは、実質上の米大使館にあたる米国在台湾協会のクリステンセン事務所長(当時)が、台湾に孔子学院の代わりとなるよう進言したと報じていました。

何より、9月24日に開催されたQUADの共同声明で掲げられた7つの協力分野には、「人的交流と教育」を挙げていましたよね。ファクトシートによれば米国内での奨学金プログラムが軸となるだけに、QUADに含まれない台湾の取り組みを推進する可能性は低いのでしょうが、少なくとも教育機関における台湾との関係強化は青信号とみなされるのでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。