海外の感染状況より考える第5波感染者急減の理由と第6波予想(後編)

前編では、第5波においてなぜ急激に感染者が減少したのか、海外の感染状況と日本のそれを比較して、考えていきました。

後編では、ブースター接種と第6波について考えてみます。

(前編はこちら

No-Mad/iStock

まず、イスラエルの新規感染者のグラフを見てみます。グラフは、Worldometersより取得しています。

イスラエルでは、最初のワクチン接種は、昨年12月20日に開始されました。そして、ブースター接種は、今年8月1日より始まりました。間隔は、約7か月半です。ただし、対象者は、2回目接種より5か月以上経過した人とされました。1回目からは6か月弱です。

日本では、ブースター接種開始を2回目接種から8か月後としています。これは、アメリカを参考にしたと考えられます。しかし、イスラエルのデータを分析しますと、それで本当に大丈夫なのか、少々疑問を感じます。

イスラエルの直近の波は、7月1日頃より始まっています。最初の接種が12月20日ですので、6か月半弱で、大きな波が生じたことになります。つまり、ワクチンの発症予防効果は接種1回目から6か月半程度ということになります。この波を抑制するには、波の開始時期の2週間前の6月17日に接種が開始されている必要があります。つまり、1回目の接種の6か月後にブースター接種が開始されている必要があるわけです。

日本の場合を考えてみます。大切なのは高齢者のブースター接種です。高齢者は、接種を5月より開始していますので、イスラエルのデータより考えますと、ブースター接種は11月より開始する必要があります。第6波の開始時期は、11月~12月と予想する専門家が多く、接種11月開始でギリギリの感じです。

今一度、イスラエルの新規感染者の補正したグラフを見てみます。

左側が、人口補正と縦軸の目盛りの補正を加えたイスラエルのグラフです。右側が、比較のための日本のグラフです。イスラエルの波は、日本の第5波より遙かに大きいことが、分かります。ワクチンを接種しても、これほどの巨大な波が生じてしまうのが現実です。このグラフを見るかぎり、日本の第5波は、確かにさざ波です。

次に、海外の感染率(陽性率)、死亡率、致死率を見ながら、ブースター接種が必要な理由について考えてみます。

感染率は、10万人・1日あたりの感染者数です。死亡率は、10万人・1日あたりの死亡者数です。期間の設定は、日本の第4波・第5波とイスラエルは、それぞれの波の期間、他は9月1日~10月31日としました。下の表は、日本を1.0とした時の比率で記載されています。

ワクチン接種率の高い国では、致死率が低く抑えられています。ただし、感染率が上昇しますと、死亡率も上昇することが示されています。つまり、致死率が低ければ、安泰というわけではないのです。死亡者を増やさないためには、感染率を上昇させないことも重要です。したがって、死亡者抑制のためにブースター接種が必要ということになります。ただし、全員に必要なわけではなく、高齢者と重症化リスクの高い人に接種すれば十分と考えられます。医療従事者のブースター接種は、感染した時に、免疫力が低下した患者さんに感染させてしまうリスクがあるからで、目的が異なります。

4回目の接種は、はたしてあるのか?

おそらく数か月後には、内服治療薬の入手も容易となります。内服薬により新型コロナを克服できるようになるという見解がある一方で、「内服薬はワクチンの代わりにはならない」と主張する専門家もいます。私自身は、後者の考え方に近いです。内服薬の有用性は否定しませんが、過度に期待しない方がよいと思います。体への負担の少ないワクチンが実用化されてることを、私は強く望みます。

次に、第6波を予想してみます。

これまでの波の周期性と、冬は呼吸器感染症が発症しやすい点より、第6波は11月~12月より始まると予想します。集団免疫説で考えた場合でも、11月にブースター接種がなければ、(1)高齢者のワクチンによる発症予防効果は減少、(2)自然感染免疫は少し増加、(3)自然免疫は減少、と考えられ、11月~12月開始で矛盾しません。

では、致死率は、第5波より更に低下するのか?

私は、致死率は若干の低下と推測します。大幅な低下はないと考えます。その理由としては、65歳以上の高齢者は、7月16日の時点でワクチン接種率は、1回目で84%、2回目で60%であることです。高齢者ほどワクチンにより致死率が低下しています。そのため、7月中旬で高齢者の大多数が接種を受けていれば、その後接種率が上昇しても、全体の致死率は大幅には低下しないと推測されます。

抗体カクテル療法は、7月19日に特例承認されていますので、第5波の致死率の低下にも関与していると考えられます。薬剤が十分に供給され、更に多くの感染者に使用されれば、もう一段致死率が低下する可能性もあります。ただし、最近のイギリスや韓国の1日死亡者数の推移を見ますと、薬剤供給量の問題があるのかもしれませんが、劇的に致死率を低下させるわけではないようです。

次に、感染率(波の大きさ)を予想してみます。

第5波はデルタ株による波でした。 第5波の感染者数(陽性者数)は、約93万人で、人口の約0.74%でした。 仮に本当の感染者は5倍存在したとしても、約3.7%です。 デルタ株に対する自然感染免疫の増加は、ごくわずかです。 一方、11月に高齢者のブースター接種がなければ、高齢者の発症予防効果は低下していますので、 高齢者の感染率は上昇すると考えられます。 したがって、新しい変異株が発生しなくとも、デルタ株で第6波が生じる可能性は十分あると、私は考えます。 もちろん、新変異株で第6波が生じる可能性もあります。

変異株は、どのようにして決まるのか?

一つ目は、感染力の強さです。 感染力の強い変異株は弱い変異株を駆逐します。 二つ目は、人間側の免疫です。 古い変異株に対して多くの人が免疫を有していれば、新しい変異株が拡大することになります。 第4波では、感染者数は約35万人で人口の約0.28%でした。仮に5倍としても、約1.4%でした。 第4波のアルファ株の自然感染免疫を獲得した人は、ごくわずかです。 したがって、第5波でデルタ株が拡大した主因は、 人間側の免疫の問題ではなく、ウイルスの感染力の強さであったと考えられます。 デルタ株は非常に感染力が強いため、この株で第6波が生じても、さほど不思議ではありません。

6月1日の時点で高齢者(65歳以上)の2回目の接種率は、2.0%でした。ここから接種率は急速に上昇します。政府は、ブースター接種は2回目の接種の8か月後としていますので、6月1日に接種した高齢者は、来年の2月1日以降の接種ということになります。つまり、大多数(89%)の高齢者のブースター接種は、2月1日以降なわけです。11月~来年1月は、発症予防効果が低下した状態で、89%の高齢者の高齢者が放置されていることになります。

11月~来年1月の間に第6波が始まらなければ、ちょっとした奇跡です。一つ可能性があるとすれば、日本での発症予防効果がイスラエルより長く持続する場合です。抗体が減少していても、細胞性免疫が持続していれば、感染しても発症しないことは、あります。無症状であればPCR検査をうけない場合が多いため、感染率(陽性率)の上昇に寄与しません。したがって、全くあり得ない話ではありません。11月~来年1月の感染状況は注目に値します。

波の規模としては、イスラエル、イギリス、シンガポールのグラフを考慮しますと、第5波と同等かそれ以上の波がきても不思議ではありません。ただし、日本にはファクターXがあり、基本的な感染対策(不織布マスク、手洗い、消毒、換気など)を続けていれば、第5波と同じ程度でおさまる可能性もあります。デルタ株より感染力の強い新変異株であれば、第5波より大きくなると予想されます。

以上まとめますと、致死率は少し低下、感染率は同等か少し上昇、死亡者数は、少し減少~少し増加です。第5波と比べて、大幅に死亡者が減少することはないと予想します。

予想が当たるにせよ外れるにせよ、第6波の時期、大きさ、致死率、変異株の種類が判明すれば、第5波急減の謎を解く手がかりとなりますので、注視したいと思います。