海外旅行にはワクチン接種が必須条件になるのか?

11月8日からアメリカは外国人の入国に際してワクチン接種が必須条件になった。このことから世界的に海外旅行をするためにはワクチン接種が必須になると思う人も多いが、実際の各国の動きがどうなのかを現時点で分析したい。

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2021年5月21日に「アゴラ」に掲載された以下の記事の続編として捉えて頂きたい。

日本人はワクチンパスポート無しで海外旅行ができるか

・基本的な考え方

国境措置の考え方として、まず「外国からのウイルス流入をゼロにする」のか、「ウイルス流入を低水準に抑える」のかの違いがある。欧米諸国は後者で、日本を含むアジア・オセアニア地域では前者である。日本の入国措置として原則14日間の隔離を入国者に求めるのは、「仮に検査漏れがあっても14日の間に発症しなければ、ウイルスを国内で拡散することはない」という原則に基づいている。これに関しては以下の記事で詳しく解説した。

日本入国時の隔離は当分なくならない

「ウイルス流入を低水準に抑える」ためには2つの規制解除方法がある。1つは「感染が広がっていない国に住む人の入国を認める」という国に対しての規制解除と、「ワクチンを打った人への入国を認める」という人に対しての規制解除である。ワクチンが普及していなかった段階では「国に対する規制解除」しかなく、日本は感染度が低かったためアメリカやヨーロッパへは無条件、あるいはPCR検査の陰性証明だけで入国後の隔離なしで渡航できる国があった。そして現在各国とも国境規制を緩める方向にあるので、従来の「国に対する規制解除」はそのまま継続した上で新たに「人に対する規制解除」を導入することで、さらなる入国規制の緩和を図るのではないかというのが前回の記事の概要である。

またワクチン接種が完全に新型コロナウイルスへの感染を防ぐことができないとわかった以上、「ワクチン接種済み」という条件は「感染している可能性が低い」とみなせるだけで、「感染度が低い国の住民は感染している可能性が低い」と考えるのと同列である。

この前提の上でアメリカとEU諸国の現状をまとめる。

・アメリカ

アメリカは11月8日から大きく入国に関する規制を変更した。従前は日本をはじめとした感染度の低い国からであればPCR陰性証明だけで入国を認めていたのだが、以後はワクチン2回接種を条件にするようになった。

この変更について当初日本では「規制強化」と報じられたが、欧米では「規制緩和」と受け止められていた。それまで原則としてアメリカ入国を認められていなかった欧州諸国からの入国が、ワクチン接種を条件に認められるようになったからだ。

外国人の入国制限、米が1年8カ月ぶり緩和 接種証明で(日本経済新聞2021年11月9日付け)

これは防疫目的というより、とにかくワクチンを打たせたいというバイデン政権の意向が反映されたものだと私は考える。例外条件として「ワクチン接種率が10%に満たない国」からの入国をワクチン接種が困難だとして認めていることからも、「ワクチンを打たせるための規制」であろう。

Minus
Technical Instructions for Airlines and other aircraft operators to Implement the Presidential Proclamation Advancing Safe Resumption of Global Travel During th...

以前書いた記事で私は「この状況でアメリカが日本人に対して入国条件を今以上厳しくすることは、私には考えられない。」と書いたが、私が思った以上にバイデン政権はワクチン接種義務化に強硬だった。完全に私の読みが外れた、ということである。

また以下の記事で触れた内容について付記しておく。

日本入国時の隔離は当分なくならない

現状、日本はEU基準に準拠したワクチン接種証明を発行していない。11月8日からアメリカは外国人入国者にワクチン接種証明の提示を義務化するが、日本の接種証明が有効なのかは、11月5日時点で外務省は把握していないとHPに記載されている。もしかすると日本の接種証明は無効で、11月8日以降日本人はアメリカに入国できなくなる可能性もあるのではないかと思っている。この件については後日記事を書くつもりだ。

実際には日本のワクチン証明もアメリカ入国に際して有効で、外務省のHPも11月9日の改訂で日本のワクチン証明が有効な国としてアメリカが追加された。

海外渡航用の新型コロナワクチン接種証明書が使用可能な国・地域一覧(11月9日現在)

上記記事を書いたのも、ワクチン接種を入国の条件にする国があっても、日本のワクチン証明が有効でなければ意味がないと言いたかったからだ。実際に自国民に対しての規制撤廃が進むスウェーデンやノルウェーは日本のワクチン証明を認めていない。

そして外務省はアメリカ政府に対し11月8日以前に日本のワクチン証明が有効か確認を取れていなかったが、航空会社は事前に確認を取っていた。

ワクチンのデジタル証明、JALが初導入 搭乗時にアプリで確認(朝日新聞11月8日付け)

米国企業が開発したアプリ「VeriFLY」を、デジタル証明の手段として使う。JALは10月から検査の陰性証明として本格的に運用していた。米国時間の8日から米国への全入国者に接種完了が求められることになり、アプリ側の運用変更で接種の証明として使えるようになった。JALは今後、欧州やアジア路線にも広げる考えだ。

私が5月にアメリカに行った時の経験からも、アメリカ政府は入国条件を満たすかどうかの確認を実質的に航空会社に委託しているので、航空会社側は日本政府よりもしっかりとアメリカ政府が認める入国条件を確認する必要がある。ここに書かれている「VeriFLY」は5月に試験運用機関中で私も利用した。当時はPCR陰性証明が必要で、陰性証明の写真をスマートフォンで撮りアプリに登録することで、紙の証明書を実際に見せることなくアメリカに入国できた。

・EU諸国

EUの基準は従前のまま変わっていない。国に対する規制とワクチン接種者に対する規制は並立したまま国境の開放を進めている。

日本はEUが入国を認める国のリスト(グリーンリスト)に、日本国内の感染度が高い時は外れ、低くなると入るということを繰り返してきた。現在は夏の第5波を受けリストから外れているが、ここまで感染度が下がっても2週間ごとに見直されるこのリストに何故か復帰できないでいる。

COVID-19: travel into the EU

以下では、10月31日に「アゴラ」に寄稿した後の状況を述べる。

EUの「グリーンリスト」に日本が復帰しないのは何故?

上記記事で10月28日付けの改正で日本がリストに復帰しなかったということを書いたが、その後11月9日の改正でシンガポールとウクライナがリストから除外され、日本はまだリストに復帰できなかった。

Singaporeans & Ukrainians to Face Stricter EU Entry Restrictions

リストの更新はこれまで木曜日か金曜日に行われていたのだが、何故か今回は早まって火曜日だった。感染度が高い国を規制解除リストから外すのは少しでも早いほうがいいことに間違いないが、これによって今回の改正は終わったようで、日本がリストに復帰する可能性は2週間後まで待たなければならなくなった。前回の改正も2週間ではなく3週間間隔になっており、この辺の動きは不可解で日本をリストに加えたくないという政治的判断があるのかと邪推したくなる。

EUが「安全国」だとみなす基準に「新規感染者が14日間で人口10万人あたり75人」というものがある。ちなみに日本では1週あたり25人、14日間にすれば50人が緊急事態宣言発令を検討する「ステージ4」の基準だった。日本はかなり早い段階でこの基準を満たしているのに、まだEUのグリーンリストに復帰できない。

EUの判断基準には「相互主義」も考慮すると書かれている。国境を閉ざしているオーストラリアやニュージーランドがずっとリストに掲載されているし、日本だって何度もリストに復帰しているのだから、実際は「相互主義も何もない」と私は思っていた。なかなか国境を開かない日本に対してEU側が今になって相互主義を持ち出しているのかもしれないが、この辺の事情に対して現地からの報道は全く私の耳に入ってきていないのが現状である。

日本の報道では「ワクチン接種を条件に各国とも国境を開放する動きにある」という言い方ばかりで、「ワクチン未接種でも感染度の低い国の在住者に対しては無条件に国境を開放している国がある」という事実を伝えるのは敢えて避けていると私は感じていた。ところが日本経済新聞が11月9日に以下の記事でついにこのことに言及した。

[社説]入国規制の緩和は踏み込みが足りない

もともと日本の水際規制は入国者に空港で抗原検査を実施するなど厳しい独自の措置を採用しており、これは今後も継続する。一方、欧米各国ではワクチン接種やPCR検査の陰性証明があれば、隔離や待機なしで入国を認めるのが標準的な形になりつつある。タイのように観光客の受け入れを再開する国も現れた。

「ワクチン接種やPCR検査の陰性証明があれば」であって、ワクチン接種は入国の必須条件ではない所も多いし、EU議会は加盟国にそれを推奨しているのである。

このEUの動きを見ても、日本は早く国境措置における「ゼロコロナ政策」を見直して欲しい。