政策を実現するには、一人一人が個別に声をあげるよりも、みんなの意見を集めて一つの声にした方がインパクトがあります。
そのインパクトを最大化するための手法として、署名や業界団体の設立がありますが、今回はその業界団体、言い換えれば、個人と行政をつなぐ機能を果たす集団を立ち上げることとその活動のコツについてお話します。
※様々な共通点を持ち合わせる団体や個人がひとつの団体を構成し、その構成員のための利益を追求する組織のことを業界団体とか、中間組織と言います。これ以降中間組織に統一して説明します。
それでは、政策をつくる現場で中間組織がどのような機能を果たしているのか見てみましょう。中間組織を作ったり、団体として政策提案の活動をしていくに当たって、きっと参考になると思います。
政策に大きな影響を与える中間組織
政府が開催する会議には様々な人が出席しています。学者、現場の有識者、自治体職員、そして中間組織の代表者などです (なぜこの人たちが選ばれているかは、第26回:政府の会議委員になるための戦略‐官僚はこうやって委員を選んでいる‐で説明しています)。
中間組織には、いくつかのパターンがあります。
ひとつは医師、看護師、弁護士など、その職能によるパターンです。
例えば、日本医師会は、全国47都道府県の医師会の会員から構成される中間組織です。病院、診療所の開設者や管理者が会員の約半数を占めています。日本医師会は医療政策の方向性を決定するような政府会議には必ずといってよいほど委員を輩出しており、日本の医療行政に強い影響力を持っています。
ふたつめは労働者、使用者といった社会的立場によるパターンです。
労働者の利益のために組織されている労働組合をたばねる中間組織かつ全国組織として日本労働組合総連合会(連合)があります。逆に使用者側の組織としては、大手企業や産業別・地域別の団体から構成される日本経済団体連合会(経団連)がよく知られています。
労働に関するルールは労使で一緒に考えるべきことがILO(国際労働期間)の条約でも歌われています。日本でもその方式に沿って、労働政策に関するルールを考える会議では、使用者団体と労働者側団体から委員を出す仕組みになっています。
また、岸田政権下では総理肝いりの成長戦略にかかる司令塔組織である「新しい資本主事実現会議」が新設され、両団体の委員が出席しています。なお、前総理の菅政権下における成長戦略会議には、使用者側の団体である経団連、経済同友会や日本商工会議所から委員が出ていましたが、労働者側からの委員の選出はありませんでした。
今回のお題からはずれますが、どの中間組織から委員を出しているかで、その政権が何を重視しているのかが分かることもあります。(岸田政権が何を重視しているかを、様々な角度から分析した記事も書いています。第16回:岸田総理の「新しい資本主義」を読み解く、第21回:岸田政権下で社会保障政策が大きく動く をご覧ください)
3つめは同じ業界の企業、団体などといった大きな利益を共有するものが集まるパターンです。例えば日本製薬工業協会(製薬協)は新薬の開発能力が高い製薬企業を中心に構築された中間組織です。
製薬会社は各社様々な医薬品を開発しています。自社の利益を確保するという意味ではライバル同士が集まった団体ともいえます。一方で、個別イシューでは意見が合わないこともあると思いますが、医療保険制度における医薬品への財源の配分や、規制など大きなテーマでは共通の利害があることも多いです 。こうした場合には、業界内の意見をまとめて政策への意見を表明したりします。
業界団体は、政策提案だけのために構成されているわけではありませんが、 その活動の一つに政策への意見表明というものもあります。役所側も、制度を使う側の意見は重要なので、関係する政府会議に業界団体から委員が参加することもよくあります。
4つめとして、患者だとか、子育て世代だとか、いわゆる当事者といわれる人たちが集まるパターンです。
当事者側の団体としては、患者団体の集合体である日本難病・疾病団体協議会や、医薬品による被害者の団体の集合体である全国薬害被害者団体連絡協議会などがあります。患者のため・医薬品被害者のための政策実現を政府に働きかけるという大きな目標のための集まりであるという特徴があります。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。