国家が成熟するほど金利は下がる:本当に物価高を演出しているのは何か

私が20年以上、一度も変えたことがない考えがあります。それは「国家が成熟するほど金利は下がる」です。欧米では80年代ぐらいまで金利が10%を超えるような時はごく普通に起きていました。それが確実に下がってきているのはご承知のとおりです。過去、金利上昇局面でも2-3%ぐらいまでは上げられてもそれ以上は上がらず、その後、また金利が下がる状態になっています。

パウエルFRB議長 Board of Governors of the Federal Reserve System Fbより

このトレンドは今回の物価高でも継続するのでしょうか?結論的にはYESと言わざるを得ません。

まず、日本がずっと低金利である理由です。先日、日銀が金利を上げられないのは日本経済が傷んでいることがある、と述べました。これとは別に長く言われてきたのが「総需要不足」です。一言で述べると買うチカラが十分になくて商品が売れなくて困っているということです。では、この買うチカラは本当にないのでしょうか?

私は欲しいものがないのだと思っています。チカラの問題ではなく、無理して消費を煽るようなものがない、これに尽きるとみています。

私が若い頃はクルマは数年で乗り換えるのが当たり前でした。なぜなら欲しくなるクルマが次々と販売され、目移りして興奮するようなドラマを演じてくれたからです。今、それはありません。私が持っているBMW X3は8年前のものですが、革張り、後部座席まであるグラスルーフ、ナビもあるし、走行距離が少ないこともあり、へたりもありません。もちろん、最新型の自動車に比べ見劣りするところは多々ありますが、どうしても新しいものでなくては困るというものでもありません。

同じことはパソコンやスマホ、電子機器にも言えるでしょう。私が今使っているこのパソコンはもう6年にもなるのです。メモリーは増設したものの日常の使用には全然問題ありません。会社のパソコンや周辺機器は定率法の減価償却をするのですが、簿価が1ドルを切っているものもいくつかあります。でも別に買い替える必要もないのでそのまま使ってます。

家の電気製品も調理道具や家電機器は全部あるし、性能に問題あるものはありません。一昨年、15年使った洗濯機と電子レンジが壊れたので買いましたが、17年目の冷蔵庫もワインクーラーも何一つ問題ありません。洋服でもファッションとして着るなら別ですが、ユニクロの服はなぜ、これほど洗っても傷まないのか、というぐらい丈夫で長年着用できてしまうのです。

欲しいものがないという傾向は北米全般、基本同じです。あるアメリカの大手家庭雑貨の上場会社は倒産の危機にありますが、圧縮陳列のこの店に何度行っても「へぇ、こんなものがあるんだ」とは思いますが、買ったことは1度か2度だと思います。店も週末ですら閑散としているのはライフスタイルが物欲からサービス欲、そして行動欲や知識欲といった形を変えたものになっているからです。

日本の場合、世界で最も早く低金利時代を迎えた理由の一つは移民政策が十分ではなかったため、国民経済の成熟度が極めて早かったというのが私の見方です。北米経済は移民こそ多いもののここに来て成熟度が日本に近くなっています。そのタイミングは概ね住宅市場が高騰した時です。日本なら1990年頃、アメリカなら2007年、カナダも英国も実質的に同じ頃でしょう。ここから経済の熟成度が増していくのです。多分、家計に於いて最大の支出である住宅購入を行い、ローンの返済期に入り、消費がインテリアなど家の中のモノに向き、それも一通り揃えば物欲は相当下落せざるを得ないと考えています。

日経の「米欧のインフレ、行く末は日本化か」という記事の一節にこうあります。「停滞リスク拭えずパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長やラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は『低インフレ(低い物価水準)』の時代は終わったとみる。そして通常時の2倍以上の大幅な利上げを競う」というものです。記事のトーンはそんなことないだろう、という私と同じポジションです。

インフレはなぜ起きるのか、その最大の理由は「消費欲」と「消費抑圧の反動」の2つが理由だと考えます。消費欲は上述のように先進国では成熟化が進みます。もう一つ、消費抑圧の反動による爆発的消費がコロナ禍で起きたわけですが、北米だけでみるともう鎮静化していると断言してよいでしょう。統計でもその傾向は見て取れますが、統計が出る前の肌感覚でもなんとなくわかるものです。モールでモノを買っているかを判断するには歩いている人がどれだけ買い物袋を持っているかとか、ラジオやメディアなどでバーゲンのCMをどれぐらいいれているかで見えるものはあります。

今、あえて物価高を演出しているものは何か、といえば労働コストだとみています。中央銀行は原油が高いからとか、輸送が滞っているといいますが、最大の理由は上がり過ぎた人件費と労働生産性の低さ。これに尽きると思います。今、私の周りの40代ぐらいの人は年収10万㌦(1000万円)が当たり前になっています。そしてその多くはその給与が当たり前だと思っています。彼らは家を買います。8000万円のローンといった金額を組むのです。その点においてキャッシュフロー的には決して余力があるわけではなく、せっせと財を成している、ということです。

が、あっさり解雇されるこちらの世界に於いて高額の住宅ローンは私からすればバンジージャンプのような気もします。一旦経済が収縮すると加速度的に経済が逆回転する可能性があり、それを踏まえれば中央銀行は利上げ判断を物価指数や失業率などの主要統計資料だけでは好きなように出来ないというのが解ではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月26日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。