司法で新聞の“呪詛”は祓えない!毎日新聞による原英史氏名誉棄損判決の不完全な救済

およそ3年前となる2019年6月11日、非道なキャンペーンが唐突に始まりました。毎日新聞による原英史氏への“誹謗中傷”報道です。このキャンペーンは不可解にも毎日新聞だけが延々と続けましたが、他紙はほとんど追随しませんでした。

ところが、虚報を鵜呑みにして新聞社の印象操作にミスリードされた(≒メディアリテラシーの欠如した)国会議員が、事実無根の内容をもとに一個人を自身のブログで論難しました。あるいは、免責特権を悪用した議員によって、国会でいわれなき原氏非難が行われました。その国会議員はあろうことか原氏の個人情報を開示するという危険な不法行為にまで及びました。

y-studio/iStock

3年以上の年月を経て、「毎日新聞の記事は原氏の名誉を棄損した」という高裁判決が下されました。朝日新聞は次のように報じます。

毎日新聞記事の名誉毀損認める 東京高裁、220万円命令

政府の国家戦略特区ワーキンググループの原英史・座長代理が、毎日新聞の記事で名誉を傷つけられたとして1100万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が4日、東京高裁であった。相沢哲裁判長は請求を棄却した一審・東京地裁判決を変更し、毎日新聞社に220万円の賠償を命じた。(朝日新聞デジタルより、太字は引用者)

“報道の暴力”メディアリンチの恐ろしさ

想像してみてください。この災難があなたの身に降りかかったときのことを。全国紙から連日誹謗中傷を受け、それに基づき複数の国会議員から非難され、国会という場で無実の罪で論われ、議事録にさえ残る。なんと理不尽な仕打ちでしょうか。

原氏はそもそも不法行為とは無縁だったので当然ですが、豊富な識見、不屈の闘志、即座に反論を構成できる高度な論理的思考力、プレゼンテーション能力を兼ね備えた人物だったので、この判決にこぎつけました。

しかし一般人にとってはかかる論難も訴訟対応も耐えられるものではないでしょう。少なくともメンタルバランスを崩してしまうでしょうし、生きる意欲を失うには十分な災厄でしょう。どれほど苦しく、恐ろしく、恥ずかしいことでしょうか。そのメンタルへの攻撃力は激烈で、もはや“呪詛”と呼べる危険行為でしょう。

ところで当事者である毎日新聞は次のように報じています。

特区報道訴訟、本紙が逆転敗訴 東京高裁判決

毎日新聞の記事で名誉を傷つけられたとして、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の原英史座長代理(55)が毎日新聞社に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(相沢哲裁判長)は4日、請求を棄却した1審・東京地裁判決(2021年9月)を変更し、220万円の支払いを命じた(以下略)。(毎日新聞より引用、太字は筆者)

朝日新聞の記事と違って毎日新聞は当事者なので、記事の雰囲気がだいぶ違います。そもそも見出しに「名誉棄損が認められた」というもっとも重要な事実を記述しておりません。本稿ではその精読と分析はしませんが、1点だけ、量的観点に絞って考察します。

杜撰な取材に基づいた、連日にわたる執拗な報道

どれほど執拗で悪質な報道キャンペーンであったか、毎日新聞デジタル(オンラインサイト)で「特区」および「原英史」で検索し、当時の記事時系列で振り返ります。

頻回に記事が発信されたのは6月11日~7月11日の1か月間で、そこで配信されたオンラインサイト上の記事は50本、文字数合計59,850文字(※)になります。

それ以降、“第二モリカケ騒動”を狙って問題の拡大(延焼)を試みますが、特に炸裂することなく毎日新聞の関連報道は終了します。結局掲載期間は6月11日から11月8日となり断続的に5か月間にもおよびました。

※計数に使用した毎日新聞デジタルのサイト記事一覧(掲載日時順)はこちらの文末に記載。(文字数はサイトに記載のもの。また違う見出しながら内容が重複する記事が混入している可能性がある)

具体的な印象操作の酷い表現は末尾記載の見出し一覧のほか、当時アゴラに掲載された拙稿の分析をご覧ください。

執拗な報道に対し、訴訟結果を報じる記事の貧弱さ

高裁もその名誉棄損を認定したほどの“記事”ですが、キャンペーン期間(6月11日から11月8日の5か月弱)で発信した記事は通算60本、文字数総合計は67,121文字になりました。結局、何ら得るところのない、一部議員が騒いだだけの迷惑報道でした。

一方、東京高等裁判所における今回の判決について毎日新聞自身が報じた記事は、たったの2本(※)、合計でも1,307文字でした。これは誹謗中傷キャンペーンの67,121文字に対して1.9%に過ぎません。紙面では21面に、目立たないように掲載しております。これが報道機関というものなのでしょうか。

※  毎日新聞が報じた東京高裁判決

[ 2022年7月4日 ]特区報道訴訟、本紙が逆転敗訴 東京高裁判決(653文字)
[ 2022年7月5日 ]特区報道訴訟で毎日新聞が逆転敗訴 東京高裁判決(654文字)

おわりに

原氏が被った迷惑は、わずか220万円で償われるようなものではありません。心理的に受けた被害は計測不能であり、毎日新聞が行った行為の道徳的な“罪深さ”は言葉では表現しきれません。人によっては取り返しのつかない事態に発展しかねないこのような個人の誹謗中傷は、野蛮な行為だと考えます。

現代においてもいまだに行われる、マスメディアによる残酷な“私刑”(メディアリンチ)はしかし、それを抑止する手法がありません。司法の判断は、社会の実情(例えば、「記事はほとんど精読されず、多くの人は見出しの印象で判断を形成する」など)を十分反映しているとは思えません。今の法体系では、メディアが世にまき散らす“呪詛”を抑止することはほとんど不可能です。更に、一度受けた「心の傷」を癒してくれることもありません。

賢い人であれば、個別メディアの批判となる本稿のような見解を発信することも控えるでしょう。メディアからの報復が恐ろしいからです。しかし私は十分愚かなので世に問うてしまいますが、原氏の無念は言うまでもなく、このような状況を放置することは、次世代へ禍根を先送りすることにもなるので見過ごせません。

しかしこの理不尽な状況を注視してくれる有力者もいました。(編集部注:この記事は7月7日に書かれたものです)

みなさんは、どう思いますか。