世界各国のコロナの感染状況やワクチンの接種率は、Our World in Dataというサイトで最新の情報を得ることができる。図1には、今年に入ってからのコロナワクチンの追加接種回数とコロナ感染者数を示す。追加接種回数は、100人あたり3回目と4回目のワクチンが接種された合計の累積を、感染者数は週毎の感染者数の推移を示す。
日本は7月末から9月にかけて、10週連続世界で最多の感染者数であったが、11月に入って、再び、世界最多の感染者数を記録している。昨年までは、コロナ対策の優等生とされていた台湾や韓国も軒並み感染者数が激増している。一方、昨年はコロナが大流行したインドや南アフリカでは、今年に入ってからは流行が見られていない。
最初は出遅れた日本であるが、12月の時点での追加接種回数は120回と世界でもトップである。台湾と韓国の追加接種回数は、それぞれ、90回と80回で2位、3位に位置している。一方、インドや南アフリカでは、追加接種はほとんど行われていない。ワクチン接種の先進国と言われたイスラエルでは、今年の2月に入ってからは,追加接種回数はほとんど増えておらず、60回に止まる。米国も追加接種回数の増加は見られず、40回に止まる。現在、追加接種を積極的に進めている日本は、世界でも特異な存在である。
ワクチンの追加接種回数もマスクの着用も世界一の日本が、世界最多の感染者数であることには首を傾げるほかはない。
国内でも5歳〜11歳のワクチン接種率が全国で最も高い秋田、山形県の10歳未満の新規感染者数が、接種率の最も少ない沖縄県や大阪府よりも多いことが報道されている。
私自身も、10月24月付のアゴラで「4回目ワクチン接種でコロナの感染は増加する?」という論考を投稿したことがある。論考ではワクチンの接種率が上位5県と下位5県のワクチン接種率と10月11日から17日までの人口100万人あたりの新規感染者数との相関を検討した。対象は、全年齢層である。ワクチン接種率の上位5県は、秋田、山形、福島、長野と北海道で寒冷地方に属した。一方、ワクチン接種率が下位5県は、沖縄を筆頭に東京、大阪、愛知、福岡の大都市圏であった。
小児と同様に、ワクチン接種率が全国で最も高い秋田や山形の新規感染者数が最も多く、反対にワクチン接種率が最下位の沖縄県が、新規感染者が最も少ないという結果であった。ワクチンの接種率と感染者数が逆相関することを予想したのであるが、10県の分布を見ると逆に正の相関がみられた。
観察された結果について、10月27日に開催された参議院労働委員会で川田龍平議員が「ワクチンの接種率と新規感染者数との関係をどう思うか?」と質問したところ、佐原康之健康局長は「各都道府県で、年齢構成やこれまでの感染状況が異なるので、ワクチンの接種率のみで、人口あたりの新規感染者数が多いのか少ないのかを判断するのは困難ではないか。」と答弁した。
この答弁を検証するために、第6波と第7波のワクチン接種率と新規感染者数との相関を検討した。図2に示すように、第6波では沖縄、大都市圏の感染者が多く、東北、長野、北海道は少ないと第7波とは全く逆であった。少なくとも、各県の年齢構成の違いでは、今回の現象は説明できない。
第6波での感染者数が多い沖縄や大都市圏が集団免疫を獲得したことにより、第7波の新規感染者数が少ない可能性は考えられる。11月30日に開催されたアドバイザリーボードで各都道府県における抗N(ヌクレオカプシド)抗体の保有率が発表されたので、集団免疫と新規感染者数との相関も検討可能である。
抗S(スパイク)抗体はワクチン接種後の抗体保有状況を示す。一方、抗N抗体はワクチンの接種では獲得されないので、抗N抗体を検出することで過去のコロナ感染歴を調べることができる。実際、人口10万人あたりのコロナの既感染者数と抗N抗体の保有率との間には正の相関が見られた(図3)。
新規感染者数の増減に関わる因子として、1)4回目ワクチン接種率、2)コロナ感染の既往歴、3)PCR検査数、4)抗N抗体保有率を選び、新規感染者数との相関を検討した。
図4にその結果を示すが、4回目ワクチン接種率、コロナ感染の既往歴、PCR検査数は、相関係数が0.54、0.59、0.54と正の相関が見られ、抗N抗体保有率は、相関係数-0.61の逆相関が見られた。
そこで、新規感染者数の増減と相関が見られた4つの因子について、多変量解析を行ったところ、PCR検査数、抗N抗体保有率、4回目ワクチン接種率の
P値は、それぞれ、0.0001以下、0.0045、0.03で独立した因子であることが判明した。コロナ感染の既往歴は有意な因子ではなかった。
ワクチンを打てば打つほどコロナに感染しやすくなることが、統計学的にも確認されたことになる。
では、ワクチンを打つほど感染しやすくなることは、医学的に説明可能であろうか。
図5は、4回目ワクチン接種率と抗N抗体保有率の相関を示す。4回目ワクチン接種率が高い長野、秋田、山形で抗N抗体の保有率が低く、4回目ワクチン接種率の低い沖縄や大都市圏で抗N抗体の保有率が高かった。抗N抗体で代表されるコロナ感染に伴う免疫獲得がワクチンの追加接種によって抑制される可能性があるだろうか。
最近、Science誌に掲載された研究注1)で、
- 3回のワクチン接種により、武漢株、アルファ株、デルタ株に対する抗体結合反応、中和抗体の産生、メモリーB細胞の頻度、T細胞免疫能の増強が見られたが、オミクロン株に対しては増強の抑制が見られた。
- 3回ワクチン接種後にオミクロン株に感染すると、他の変異株に対する免疫能の獲得は見られるも、オミクロン株に対する免疫能の獲得は見られない。
ことが報告された。
ワクチンを3回接種するとオミクロン株に対する免疫能が特異的に抑制されるようである。本論考で検討した新規感染はオミクロン株によるものなので、ワクチン接種後に見られる免疫能の抑制は、ワクチンを打つほどコロナに罹りやすくなることをうまく説明できる。3回接種で見られる現象ならば、4回接種後にはより顕著になると思われる。
日本では5回目接種が始まっている。周りではワクチンを5回目接種したのにもかかわらず、コロナに感染したという話もよく聞く。最もワクチンの効果が期待できる5回目のワクチンを接種してから1ヶ月後に、政府分科会の尾身茂会長がコロナに感染したという報道に接するとワクチンの効果に疑問を持たざるを得ない。
今回の検討結果は、ワクチンの追加接種を積極的に進めるわが国にとって、重要な意味を持つだけに、多方面からの検証を望む次第である。
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注1)Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure