【めいろまさんインタビュー①】「激安ニッポン」に帰国して

アゴラ編集部

CHENG FENG CHIANG/iStock

今夏も日本に帰国されためいろまさん(@May_Roma)こと谷本真由美さんに、外から見るとよくわかる日本の現状や課題に関して、色々とお話をお聞きしてきました。

今回はその第1回です(全3回)。

――今年もインタビューができてとても嬉しいです。今回のご帰国の目的は?

めいろまさん(以下、めいろま):日本とイギリスを往復して生活していますが、今回は打ち合わせや取材、メディア出演のためです。子供はその間日本の学校に体験入学させていただきました。

――日本の学校の印象はどのようなものでしたか?

めいろま:日本の学校の雰囲気やカリキュラムはイギリスとかなり違います。日本の公立の学校の場合は、子供の情操教育や協力を重視しており、子供達には無理な目標を与えず、のびのびと楽しく通学している印象を受けました。

カリキュラムの内容もそれを反映しており、子供同士での競争よりも、お互いの尊重や、表現力、協力し合うことなどに注力されているのがわかります。例えば体育は器械体操やダンス、ゲームをやりますが、イギリスの学校、とくに進学校は大変厳しい競争を強いられ、雪の中でのマラソンや、大人と全く同じルールや競技場で行うラグビーやクリケット、テニスなどに取り組みます。情操教育的な側面はありません。

先生方は大変熱心で、勉強だけではなく、子供の体調や事務作業、家庭との連絡など細かく気を遣われており、教科別担任で自分の仕事以外は一切やらないというイギリスとはかなり違います。

――先生への評価は意外です。あとはどんなところが気になりましたか?

めいろま:やはり気になるのが学校全体の運営費がどの程度のものか、ということです。

お子さんが学校に通っている方のお話を伺うと、公立の場合は自治体によって差があり、都内の一部や地方都市の一部は予算があるらしく、メンテナンスにもかなりの予算が割かれているようですが、高齢化が激しい地域や地方はかなり厳しいようです。

日本国内で公教育の二極化が進んでいる印象ですが、これは欧州や北米と変わりません。

――お子さんのクラスの様子はいかがですか?

めいろま:日本の子供達は大変開放的で、世話焼きです。親切なのですぐに色々教えてくれます。言葉がわからなくても周囲の子供達がとても親切なので、すぐ友達ができた様です。子供達も大変積極的で、私の子供時代と比べ、コミュニケーション能力が高いなと感じました。

イギリスの子供達は大変警戒心が強く、学校の中で通常通学している子供らの間では人種や階層による派閥があるので、転入生や一時的な訪問者に対して開放的ではありません。日本よりもはるかに村社会です。人種や宗教による派閥もありますので、人間関係が日本よりずっと複雑です。

gyro/iStock

首都圏でも過疎化する?

――地元の様子はいかがですか?

めいろま:都内への通勤圏ですが年々過疎化が進んでいます。私の世代やその下はほとんどが供働きなため、通勤が便利な近隣の地域や都内に転居する人が増えており、親が住んでいた家は空き家になっています。首都通勤圏なのに過疎化が進むというのは日本的な現象だと感じます。

他の国は高騰する物件価格や家賃を嫌って、都市部から郊外に転居する若い人が多いので、郊外は過疎化するどころか物件価格が上がっているほどです。

――日本の様子はいかがですか?

めいろま:日本に帰国する度に感じるのは、格差が広がっていることと、首都圏ですら可処分所得が減っている人が多いのではないかということです。

例えば欧州に比べると、服のデザインに大きな変化がありません。他の先進国の最新の流行が全然反映されていません。さらに汎用性の高いデザイン、ユニセックスなデザインだらけで、製造コストを下げているんだなというのがはっきりとわかります。つまり売れないのでコストをかけられないのではないでしょうか。

――日本のデパートなどは独特の進化をしてしまいましたね。ヨーロッパの国々にはデパートのようなものはあるのでしょうか?

めいろま:欧州には日本の都内や地方の県庁所在地にあるようなデパートがほとんどありません。デパートはあっても規模が小さかったり、デパ地下や併設のイベントスペースや美術館がないので、かなり立ち位置が異なっています。

イギリスはなぜ荒れるようになったのか?

――谷本さんの著書では荒廃するイギリスの様子が度々登場しますが、80年代以後の経済政策の影響もあるのでしょうか?

めいろま:イギリスは1970年代までは大変伝統的な社会で、離婚や転居はまれ、終身雇用が当たり前で、代々同じ職業につき、同じ地域にすみ、ご近所は皆顔なじみ、礼儀を重視し、年功序列で女性は結婚後家に入るという国でした。外国人も大変少なかったので多様性とは無縁でした。ところが1970年代後半にイギリス病を打開するために、サッチャー元首相が大胆な改革に取り組み、不採算企業と組合を潰し、金融市場や労働市場の規制を緩和し、能力がある人間なら稼げるという経済政策をとりました。

IR_Stone/iStock

その結果、1980年代以後のイギリスは製造業からサービス産業中心の社会に変化を遂げ、金融やITなどの知識産業が国を牽引するようになり、女性や人種的少数派も活躍できるようになりました。ところが転居や転職が当たり前となり、終身雇用も消えたので、かつて存在したコミュニティは消滅し、人々は超個人主義となり、古き良き世界は消え去ってしまいました。

――日本の将来の姿のような気がしてきました

めいろま:日本でも経済格差が広がると、イギリスのように崩壊家庭や犯罪が増えていくでしょうね。

――銀座のロレックスの強盗は衝撃的でした。

めいろま:すごく怖いですね。これも日本の二極化を反映しているのではないでしょうか。日本もお金がない人が増えているとしたら、こういった犯罪は増えると思います。簡単ですからね。イギリスでは現金以外でもテレビでもバイクでも、売れそうなものはみんな持っていかれてしまいます。

その2につづく)

大人気の週刊めいろま世界のニュースクリップこちら

谷本真由美さん @May_Roma (めいろま)

ITコンサルタント。専門:ITガバナンス、プロセス改善、サービスレベル管理、欧州IT市場および政策調査。ITベンチャー、経営コンサル、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関等を経て日英往復。趣味HR/HM。仕事依頼 Twitter @May_Roma