骨髄移植後の拒絶反応を消化しにくいデンプンで抑える?

10月19日のNature Medicine誌に「Feasibility of a dietary intervention to modify gut microbial metabolism in patients with hematopoietic stem cell transplantation」という論文が掲載されている。直訳すると「造血幹細胞移植患者の腸内微生物による代謝産物を変化させる食事介入を実現する可能性」とでもなるのだろうか?

腸内細菌の種類によって、消化管内で細菌によって合成される物質が異なったり、それによって免疫環境が変わることが知られている。炎症性消化管疾患など(クローン病や潰瘍性大腸炎)の患者さんに対して、健康人の腸内細菌を移植する治療法(言葉の響きはよくないが、糞便移植法)が用いられており、改善効果が報告されている。

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白血病などでは骨髄移植が標準的な治療法になっているが、同種幹細胞移植(自分のものでない人の幹細胞の移植)のあとに、Graft-versus-host disease(GVHD=移植片対宿主病)と呼ばれる移植されたリンパ球などが、移植を受けた患者さんの皮膚や消化管に対する攻撃することがある。今は、免疫抑制剤でかなりコントロールされているが、それでも重篤なGVHDが起こる場合がある。それに対して、食事によって消化管に起こるGVHDを抑えることができないかとの試みの序章がこの論文の成果だ。

著者たちは難消化性のジャガイモ由来のデンプン(Resistant potato starch=あまり耳慣れない言葉だが、スーパーマーケットではレジスタントスターチと表示された食品が売られている)を食べさせて、消化管内の代謝産物や血液中のそれらの値を測定した結果が報告されている。

難消化性のデンプンと言ってもチンプンカンプンの方が多いだろう。一般的には、ご飯やパンなどに含まれる炭水化物は、唾液や膵液に含まれる酵素によって小腸でブドウ糖に分解されて吸収される。 しかし、ご飯を炊いた後、室温で置いておくと、炭水化物が難消化性のデンプンに変化して、小腸では吸収されずに大腸まで運ばれるとのことだ。それによって大腸の細菌類の環境がかわり、短鎖脂肪酸酪酸などが増え、それらが血液中でも増えるようだ。いろいろな腸内細菌による代謝産物の変化が免疫反応=拒絶反応を抑えることが期待されている。

ご飯を食べるとブドウ糖に分解され、血糖が上がるというような単純な話ではなくなってきた。炊き立てご飯と冷ましたご飯ではレジスタントスターチの量が違ってきて、血糖の上昇が異なり、免疫環境が変わる。そんなことを考えていると、胃が痛くなってきそうだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年10月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。