強い日本経済:足を引っ張っているのは円安と超低金利

こんにちは。

さて、今日取り上げる話題は、バブル崩壊以降もう30年以上も低迷や停滞が続いてきたとされている日本経済を、先入観を排除して再考察することです。

そうすれば、日本経済が今もなおいかに強いか、そしてその強さがすなおに顕在化することを妨げているのは円安と超低金利だけなので、日本経済の復権はどんなに簡単かということを説明させていただきます。

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世界一技術革新に積極的な日本経済

まず、次のグラフをご覧ください。


いわゆる先進諸国と中国について、経済全体がどれほど技術革新に対して開放的かを示したグラフです。

2021年までは日本と韓国が首位争い、そしてアメリカとドイツが3位争いをしていたのですが、2022年に入って上位4ヵ国のうち3ヵ国で技術革新に対する開放度が下がり、ほんの少しだけでもさらに開放度が上がった日本の独走態勢に入りました。

2022年単年の変化で言えば、イギリスの開放度が急上昇しています。ですが、イギリスは国民経済全体が金融業界だけの片肺飛行のようになってしまった国ですので、おそらく金融技術の画期的な進展が見られただけであって、経済全体の開放度が上がったとは思えません。

実際に、製造業・サービス業・金融業・農林水産業など多種多様な業種にまたがる技術改革がたった1年でこれほど大きな成果をあげることは、ほぼあり得ないでしょう。

また、中国の場合、非常に低水準からとは言え、2021年まではかなり大幅な改善が見られていたのに2022年に悪化に転じて、ここで取り上げられている11ヵ国の中で最下位に戻ってしまいました。

次の2段組グラフの上段には、おそらく日本国民の大半がびっくりするような事実が表示されています。


2010年代半ばというと、バブル崩壊後25年も過ぎていて「日本経済はもう終わってしまった」といった悲観論ばかりが幅を利かせていた時期です。

そういった暗いイメージが定着してしまった日本の製造業付加価値に占める革新的な付加価値の比率は2015年から今年にいたるまで常に50%近辺を維持していて、日本、アメリカ、中国の3ヵ国プラスEUの4大経済圏の中で断トツの首位を維持していたのです。

なお、アメリカは製造業における革新的な付加価値の比率がずっとEUより低く、2020年には中国にも抜かれて最下位に転落したことも、意外と感ずる方が多いことと思います。

しかし、第二次世界大戦が終わったばかりの1946年に贈収賄合法化が実施されてからのアメリカ経済は、それまでのアメリカ経済とはまったく異質なものとなっていたのです。

業界を牛耳るガリバー型寡占の座を確保するまでは独創的なアイデアを連発していた企業が、ガリバーになってからは他社の技術革新を邪魔して無意味なモデルチェンジばかりするようになるのは、自動車業界のビッグスリーからアップルやマイクロソフトまで同一です。

さらに、下段には日本は世界の4大特許オフィスのうち3ヵ所以上で取得した特許件数の対GDP比率が突出して高いだけでなく、さらに増やしつづけていることがわかります。

2010年までは韓国がなんとか日本に追いすがろうとしていたのですが、どうやら2022年の段階では諦めてしまったようです。ドイツ、アメリカ、フランスといった欧米諸国中では比較的この比率が高かった国々も、やはり2022年の水準が2010年の水準を下回っています。

今後も技術革新における日本の優位は当分揺るがないでしょう。そして、次の2段組グラフを見ると、日本の首位が揺るがないだけではなくもっと2位以下との差を広げる可能性が高いとわかります。


上段を見ると、現時点での知的財産使用料収入では日本はドイツに次ぐ2位です。しかし、特許取得状況などから推察すると、ドイツはたまたま2010年以降急速に普及した技術の使用料収入が大きかっただけという可能性が高く、持続的に高水準を維持できるとは思えません。

また下段に眼を転ずると、知的財産権使用料支出では韓国、カナダ、日本がドイツを大きくリードしています。おそらくドイツの企業経営者には「自国の技術は世界最高」という思いこみが強く、他国の知的財産をカネを払って使わせてもらうことに抵抗があるのでしょう。

その点、日本の経営者はどこの国が開発した技術でも優秀な技術に使用料を払うことへの抵抗が少なく、全体として優れた技術の実用化に熱心に取り組んでいるのだろうと思います。というわけで日本は意欲的に技術を取り入れていますが、資金の取りこみには慎重です。


上段が諸外国から自国への直接投融資を受け入れている投融資残高でのトップ10ヵ国であり、下段は自国から諸外国への直接投融資支出残高でのトップ10ヵ国です。

ほかの9ヵ国は投融資の受け入れにも拠出にも積極的な中で、日本は受け入れ側ではトップ10に入らず、アイルランドは拠出側でトップ10に入っていません。

「とにかく国際貿易や国際的な資本移動が多ければ多いほど良いことだ」と主張するグローバリストから見れば、日本は海外資金の受け入れについて閉鎖的過ぎるということになるのでしょう。

しかし、あとでくわしく検討しますが、現在日本は異常な円安政策を追求しています。

こういう状態で海外からの投融資を積極的に受け入れたら、モノやサービスばかりではなく、生産設備や蓄積してきた技術まで安く買いたたかれてしまうので、投融資受け入れに慎重なのスタンスは正解だと思います。

日本は世界最大の対外純資産国

そのため、日本から海外への投融資残高は第7位とそれほど大きくないのですが、海外から受け入れている投融資残高がトップ10にも入らないほど少ないので、日本は世界最大の対外純資産国となっています。

日本から海外への投融資残高から海外から日本への投融資残高を引いた数字である、対外純資産が世界最大だということです。そして、黒字に白抜きの文章にもあるとおり、対外純資産は過去に積み上げてきた経常黒字の累計にほぼ等しいとされています。

最近の日本経済は貿易収支だけを見ると赤字になることも多いのですが、潤沢な対外純資産が稼いでくれる金利・配当収入が日本が諸外国からの投融資に支払っている金利・配当に比べてずっと大きいので、金融所得勘定で安定した黒字を維持しています。

さらに、諸外国からも「現在の円が異常に割安であって、これ以上円安が進むよりはむしろ円高に転換する可能性が高い」と見られていることは次の2段組グラフにも表れています。

国際貿易での決済通貨としては、一時は40%に達していたユーロのシェアが22%に激減し、その穴を48%とほぼすべての取引に関与している米ドル、7%台の英ポンド、ともに3%台半ばの日本円、人民元で埋めたかっこうになっています。

ところが、外貨準備としてどんな通貨を選ぶかというと、英ポンドは取るに足らないシェアに転落し、2019年まではほぼ日本円と同じシェアがあった人民元の2%に対して日本円は4~5%と差を広げています。

外貨準備、つまりいざというとき安定した価値を発揮するであろう通貨としては、日本円のシェアは安定しているのに、英ポンドや人民元には価値の保全に関して不安がつきまとっているわけです。

なぜこんなに円安が進んだのか?

それにしても、なぜ21世紀初頭には1ドル107円だったものが、直近では1ドル約150円と、大きく円安・ドル高が進んでしまったのでしょうか?

たとえば、1980年代半ばに日本円は1ドル250円というかなりの低水準から1ドル150円への大幅な円高を招き寄せることに成功しました。円の為替レートが高くなるのは、それだけ諸外国から多くのモノやサービスが買えるわけですから、全国民の利益です。

そして、当時の外国為替市場は国内で物価が安定していて自国通貨の価値がしっかり保たれている国の通貨が高くなり、インフレで自国通貨の価値が目減りしている国の通貨が安くなるという、まっとうな経済論理の通用する世界でした。

上段を見ると、1980年代に日本円は主要通貨の中でいちばん水平に近いなだらかな下げ方になっていて、それだけインフレ率が低かったことがわかります。そして、下段には1985~86年頃に1ドル250円から150円へと大幅に円高が進んだことも確認できます。

この当時、米ドルはまだ当時の連邦準備制度理事会(Fed)議長ボルカーの「インフレ退治」と称する高金利の余韻が残っていて、金利は日本よりそうとう高かったのです。

しかし、金利の高さに引きずられて世界中からドル買いに資金が集中してドル高に進むことはなく、インフレ率が高く価値毀損も進んでいるドルは下がっていたのです。

豊かな国民生活を維持するには通貨価値の安定は欠かせませんから、インフレ率の低い国ほど自国通貨の為替レートが上がりインフレ率の高い国ほど自国通貨の為替レートは下がって当然です。

次のグラフを見ると、日本の中央銀行である日銀の政府に対する独立性は低く、政府が無駄な財政投融資などで増やした借金の元利返済負担をインフレで目減りさせようとすることへの抵抗はあまり強くありませんでした。

それでも主要先進国の中でインフレ率をもっとも低く抑えられたのは、第二次世界大戦直後のインフレでひどい目に遭った日本国民が、インフレに対して非常に強い警戒心を持ちつづけていたからです。

その結果、日本円の価値はよく保全され、諸外国通貨に対して円高が進むことによって、日本国民全員が同じ円所得でも以前よりずっと多くのモノやサービスを諸外国から買うことができるようになって、急速な生活水準の向上が達成できたのです。

最近では、こうしたまっとうな経済論理に従って為替相場が動くことはなくなってしまいました。

インフレ率の高い国で「それでも国債を買ってもらわなければ財政が破綻するから」と無理やり高金利にした国債を乱発している国の通貨が目先の利益狙いで上昇し、インフレ率が安定して低いので国債も高金利にしなくても済む国の通貨が下落するようになっています。

「円安で製造業復活」はウソ

国民を窮乏化させる円安が正しい政策だと主張する人たちの言い分は決まり切っています。「中国などの低賃金で低価格商品を量産できる新興国の台頭で、日本の製造業は危機に瀕している。だから円安にして日本の製造業の価格競争力を高める必要がある」に尽きます。

ところが、この主張は始めから終わりまでウソの塊なのです。まず、日本の製造業は新興国の低価格商品と直接競合しません。はるかに品質競争力が高いからです。

さらに、円安で製造業の利益が拡大するためには、少なくとも単価が低くなった分を補って余りある売上数量の増加がなければなりません。ところが、次のグラフでご覧いただけるように、円安には売上数量拡大効果はほとんどなかったのです。

日本の輸出業者は、始めのうち円建ての輸出価格をほぼ横ばいに保ち、輸出先での現地通貨価格を値引きしていました。2020年一杯がその時期です。

そうすると、第1次コロナ騒動での世界的な経済活動停滞があったこともあって、輸出数量は激減し、当然輸出総額も数量の減少と並行して大幅に減少していたのです。

日本の製造業が本格的に復活しはじめたのは、2021年の春以降、円建て輸出価格を円安分より大幅に引き上げて、輸出先現地価格でも値上げになるようにしてからのことです。

ここで重要なのは、輸出総額の激増の大部分は勤労者の賃金給与の増加ではなく、企業利益の増加に吸収されてしまうことです。

賃金給与だけではなく、下請けから調達した部品なども円価格で支払うことで「円安の恩恵」にあずかりながら、輸出先での販売価格は現地通貨ベースでさえやや値上げ気味になり、おまけにその売上を円に転換すると円安で見かけ上の増益幅がさらに膨らむからです。

こうして、輸出主導型の製造業各社の大半が「円安にしなければ価格競争力を失う」からではなく、彼らが楽して儲けるために円安推進論者となっています。

実際に2010年代の労働生産性の推移や設備投資動向を見ると、いかに製造業各社が設備投資もろくにしないで労働生産性を向上させていたか、それに対して設備投資を拡大していたサービス業各社は、ほとんど労働生産性を改善できなかったかがはっきりと出ています。

製造業の中でも資本金の大きな1970~80年代に花形企業だった輸出主導の大手製造業者が、円安が進行するほどには輸出先の販売価格を下げないだけで、安直に円ベースの売上を拡大することができ、その拡大分はほぼ全額利益として吸収していたのです。

このへんは、いわゆる財界団体では1980年代までにもう盛りを過ぎてしまったような重厚長大型製造業各社の元社長、元会長がいまだに牛耳っている長老政治存続の弊害でしょう。

2012年には先進諸国でもっとも評価が低い劣等生だった日本の株式市場が、製造業を中心に最近ではまん中あたりまで評価も回復していることが、次のグラフに歴然と出ています。

ですから、ストックオプション制度を導入している大手企業の経営者などが円安大歓迎になるのも、自然の成り行きなのかもしれません。

円安を推進したがるもうひとつの有力産業団体

往年の製造業花形企業と並んで、どんなに国民を窮乏化させても円安を推進したがるグループが、銀行、生損保、投資顧問会社といった金融業界の人たちです。まず、日本の銀行業界がいかに大きな対外投融資の担い手になっているかから、ご確認ください。


上段を見ると、銀行業界にとって本業である預金金利と融資金利とのサヤを抜く純金利収入は、やっと2020年に底打ちした程度です。ですが、2016年にはもう日本の銀行業界が対外投融資の運用者としては5大国の中で最大となっていたのです。

銀行や生損保や年金基金の運用者にとって、日本国内では達成できないような高利回りの運用を目指すとき、円を投資先の通貨に換える際に精々数ベーシスポイント(100分の1%)の円安で調達を渋ってチャンスを逃がすことはありません。どうしても円安方向に傾きます。

また、海外で達成した投融資の成果を現地通貨から円に換えるときに、投資を始めたときより円安が進行していれば、円ベースでの利回りはさらに膨らみます。こうして金融業界全体が、万年円安の進行を期待するようになるわけです。

往年の重厚長大型製造業大手と、金融業界全体がタッグを組んでしまうと、現在の日本経済ではそうとう強力な圧力団体になります。これはちょっとやそっとでは、改善の見込みはなさそうだと思っていたら、意外なところから円安・超低金利にほころびが見えてきました。

円安・超低金利政策にもほころびが……

大手生命保険会社などは「万が一、運用期間中に為替が円高に振れて円ベースで目標利回りが達成できなかったら」という事態を想定して、円を安く買える先物やオプションを使ってヘッジをしながら海外投資をしてきました。

ところが、毎年ほぼ例外なく円安が進み、また円高に備えたヘッジをするためのコストも上がってきたため、2022年には海外運用資金のヘッジ率が9年ぶりに50%を割りこんだことが、上段のグラフに出ています。

皮肉なもので、イールドカーブコントロール(YCC)の上限を0.25%から0.5%へ、そして1%へと拡大するにつれて、ヘッジコストを勘案した海外債券の利回りが日本国内の債券利回りより低くなってしまったのです。

とくに米国債やドイツ国債はもう、ヘッジ付きだと利回りはマイナスになっています。こうなると、ヘッジなしで運用していたところは、もっと円高が進む前に円を買おうとしますし、円高に対応するためのヘッジのコストもますます高くなるでしょう。

いずれ、外国債で危ない橋を渡るより運用対象を国内債に切り替える金融機関も出てくるはずです。そうなると、円安から円高への転換が現実味を帯びてきます。

ほかにも、日本の金融政策がどんなにだらしなくても円高に転換しそうな予兆は出て来ています。たとえば、ジェローム・パウエルFed議長の「もっと長期にわたって、もっと高金利を」という公式コメントとは裏腹に、アメリカの債券市場は金利低下を読み始めました。

過去のパターンが引き継がれていれば、1ドル149円から151円へとドルが急騰したとき、米国10年債金利と日本10年債金利とのスプレッドは拡大していたはずです。ところが、これだけドルが円に対して急上昇しても、スプレッドのほうは拡大せず、縮小したのです。

債券市場は明らかに「もうFedには高金利を維持する手段はなくなってきた」と見ています。アメリカの高金利に惹き寄せられていた資金は、金利が低下しはじめれば離散していくでしょう。

アメリカは世界中から投融資を搔き集め続けなければ破綻してしまう借金国家ですから、この事実がアメリカ金融業界に及ぼす影響は甚大でしょう。

ですが、そもそも金融業界が肥大化しすぎたために「インフレ率が高くても、高金利の国に資金は集まる」といった異常事態が常態化していたわけですから、どんなに打撃は大きくとも金融業界が縮小するのは健全な展開です。

金融業界が肥大化し、世帯金融資産に占めるリスク資産の比率が高まるほど、貧富の格差が広がることは、次のグラフが一目瞭然で示しています。

アメリカやスイスのように世帯金融資産の8~9割がリスク資産という国では、下から90%の人たちが保有している資産総額は世帯資産総額の30%どまりです。

一方、今なお世帯金融資産の半分以上を現預金で持っている日本では、下から90%の人たちが世帯総資産の60%を持っています。

中国が日本と同じくらい富が分散した社会だという点には疑問が残りますが。でも、もともと人民解放軍の軍票でしかなかった人民元への信頼が薄いので、中国の世帯では資産形成はカネに頼らず不動産でやっているため、金融資産の分布は平等性が高いのかもしれません。

空洞化が進む米ドル基軸通貨の座

先ほど決済通貨としての米ドルのシェアは48%に達したことをお伝えしました。為替決済には必ず2つ以上の通貨がからむので、シェア48%ということはほとんどあらゆる為替取引で片方は米ドルを使っていることになります。

にもかかわらず、基軸通貨としての米ドルの地位は確実に低下してきています。

なぜかと言うと、ありとあらゆる決済に使われている米ドルのうち、アメリカ連邦政府財務省や連邦準備制度の管轄下にある米ドルは少数派であって、多数派は本国に還流せず高い利回りを求めて世界中を徘徊しているユーロダラーだからです。

ユーロダラーと言うと、ヨーロッパやカリブ海のタックスヘイブン諸国の銀行に預けられている資金という印象がありますが、日本の銀行・生損保・投資顧問会社などが運用しているのもユーロダラーです。

どの時点を切り取ってみても、その時ユーロダラーの総額はいくらに達していたということを確認できる組織もありません。当然のことながら、米国財務省もFedもユーロダラーの総量や金利水準をコントロールすることはできません。

高利回りを求めて世界中をさまよっている資金なので「チャンス!」と思えば急拡大し、「ピンチ!」と思えば縮み上がってしまいます。

つまり、金融当局が志向するなるべく景況がでこぼこにならない平坦な成長経路を目指すカウンターシクリカルな政策とは正反対に、サイクルの振幅を広げる方向に動くわけです。

こういう「やっかいな存在が連邦準備制度のような立派な組織から、貨幣供給量や金利水準の決定権を奪ってしまったことが、近年金融危機が頻発するようになった最大の理由だ」と唱える向きもあります。

ユーロダラー総額の近似値としてはクリアリングハウス銀行間支払システム(CHIPS集計の世界貿易取扱総額がいちばん適切でしょう。このデータからユーロダラーの現況を推測してみましょう。

世界的に見てユーロダラー研究の第一人者と思われるジェフリー・スナイダーはおおよそ以下のような見解を持っています。

2008~09年の国際金融危機時に、ユーロダラーがシステム障害を起こした。だれが管理するわけでもない自然発生的なシステムなので、だれも直しようがないのでそのまま危機を頻発させている

私は、もうひとつ前の屈曲点である1994年に注目したいと思います。この時点で世界製造業を牽引する国が日本から中国に変わったからです。

1989~90年の日本株・土地バブル崩壊で日本は凋落したとお考えの方が多いですが、その後4~5年は「株や不動産に手を出した人たちが巨額損失を抱えこんだだけで、日本経済の根幹は健全だ」という見方が支配的でした。

1994年頃から「いわゆる日本的経営が間違っていたのであって、アメリカ式に刹那的利益を追い求める経営をまねるべきだ」といった議論が盛んになりました。ちょうどその頃、世界の製造業を牽引する国が、日本から中国に変わったわけです。

日本の製造業が世界を牽引していた頃、取扱総額だけではなく1件当たりの取扱額も上昇基調を維持していました。高級化・高品質化が進み、買い手も納得して高額化に応じ、先進諸国の生活水準が年々上がっていました。

ところが、製造業の主導権が中国に渡った頃から、世界貿易取扱総額は伸びていても1件当たり取扱額がどんどん下がっていく傾向が顕著になりました。「低品質でもいいから低価格の製品を」という風潮の蔓延です。

世界中の製造業が低品質・低価格志向になれば設備投資やR&D投資もそれほど巨額の資金を必要としなくなります

だから、21世紀に入ってからの経済危機の頻発も、2000~02年のハイテクバブル崩壊より、2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に正式加盟し、ほんとうに必要な投資より利権団体にカネをばらまく口実としての投資が多くなったために起きたのではないでしょうか。

そうなると少しでも高い利回り・高い配当を求めて世界中をうろつくユーロダラーにとっても、次から次に危機の連発となります。

この連続危機の根底にあるのは、現在先進諸国では製造業の2~4倍の売上規模を持つサービス業が製造業ほど貿易になじまず、必然的に貿易総額の世界GDPに占めるシェアが低下していることです。

となると、冒頭でご紹介した日本経済の技術革新における優位も宝の持ち腐れとなってしまうのでしょうか? 私はそうは思いません。技術革新は決して製造業でしか起きないことではなく、サービス業でも不断におこなうべきことです。

ただ、サービス業の技術革新は製造業ほど莫大な資金を必要とせずにやれることが多いため「強きを助け、弱きをくじく」典型的な逆ロビン・フッド産業である金融業界の介在の余地が狭まります

それは、一国の国民全体のためだけではなく、地球上の全人類のために健全な発展だと思います。


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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2023年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。