米・中新参謀トップのビデオ電話会談

narvikk/iStock

米国防総省は21日、この10月就任のチャールズ・ブラウン統合参謀本部(JCS)議長(空軍大将)が同日、本年3月に就任した中国のカウンターパート、人民解放軍連合参謀長劉振立(陸軍大将)と初めてのビデオ電話会談を行ったと発表した。

発表によるとブラウンJCS議長は劉参謀長と、オープンで直接的な対話ラインを協力して維持し、競争を管理する責任を持つことの重要性について議論し、誤解の可能性を減らすために人民解放軍が実質的な対話に取り組むことの重要性を繰り返した。

また両軍指導者は世界的・地域的な安全保障問題ついて縷々話し合い、二国間防衛政策調整協議の開催、軍事海事協議協定協議の開催、米国インド太平洋軍司令官と人民解放軍東部・南部戦区司令官との間の連絡ライン開設の重要性を再確認したとし、ブラウン議長は定期的に世界中の国防長官と連絡を取り合い、中国との建設的な対話に常にオープンであると述べた。

中国側も人民解放軍報道通信センターの『国防網』が21日、「劉振立が米統合参謀本部議長とビデオ通話」との見出しでこれを報じた

それに拠れば、劉氏は、米国での首脳会談で両軍の連絡と交流の再開に合意したこと、両軍は平等と尊重に基づき交流し協力すべきこと、両国関係の安定化と改善を共同で促進することを述べ、健全で持続可能な関係を発展させる鍵は、米国が中国を正しく理解することであり、前提として米国は、中国の核心的利益と主要な懸念を真摯に尊重し、現実的な協力を促進し、相互理解を強化することだと述べた。

更に劉氏は、台湾問題は純粋に中国の内政問題であり、外部からの干渉は一切容認せず、中国軍は国家主権と領土保全を断固として守ると強調、米国は南シナ海における中国の領土主権と海洋権益を真摯に尊重し、言動を慎重にし、地域の平和と安定と中米関係全体の利益を守るために実際的な行動をとるべきであると述べたとし、最後に、双方は他の問題についても議論したとしている。

この米中の参謀トップ会談の報道を読んで、筆者は21年9月の拙稿で、先般の「愛好紙『産経』のトランプ報道を糺す」と同様に、21年9月15日の「統合参謀本部議長、トランプ氏の暴走阻止に躍起…米名物記者の新著、政権末期の内幕検証」なる「産経」米特派員記事の足らざるところの多いのを難じたことを思い出した。

筆者はその21年9月の拙稿で、当時のミリーJCS議長が、大統領選投票直前の20年10月30日と選挙人を集計する21年1月6日の合同会議直後の8日の2度、李作成連合参謀長に電話を架けたと米メディアが報じていたことを書いた。が、米国防総省発表には「このレベルでの米中両国間の最後の協議は2022年7月に行われた」とあるので2人は3回電話で話したことになり、16年8月16日には陸軍陸軍参謀長として、北京で当時の李人民解放軍地上軍司令官と面談もしていた。

ここで米中の歴代参謀トップを整理すると、中国中央軍事委員会連合参謀部参謀長は、房峰輝陸軍上将が15年11月〜17年8月、李作成陸軍上将が17年8月〜22年9月、そして劉振立陸軍上将が23年3月の就任。一方の米JCS議長は、ジョセフ・ダンフォード海兵隊大将が15年10月〜19年9月、マークミリー陸軍参謀長(大将)が19年10月〜23年9月、そして23年10月にチャールズ・ブラウン空軍参謀長(大将)が就任した。

中国の連合参謀長がなぜか22年10月〜23年3月までの半年空席だが、ミリーが李と3回目の電話会談を行った22年7月は李退任の二ヵ月前だったと判る。初めの2度はミリーから李に電話を架けたと判っているが(3度目は不詳)、今回の新任同士の電話も米国側の要請を受けてビデオ電話会議を行ったと「環球時報」が伝えている。面子に拘る中国らしい。

双方の公式発表を読む限り会談の中身は、中国側が、米国が台湾や南シナ海などの核心的利益と主要な懸念を真摯に尊重し、慎重な言動を促すなど、相変わらずの一方的な物言いで鼻白むこと甚だしい。これに比べ米国側は、透明性の維持、責任ある競争管理、誤解を避けるための対話などの重要性を強調するという優等生の対応をした格好だ。

ところで、2年前にミリーと李作成の電話会談が表に出たのは、ワシントンポスト紙のボブ・ウッドワードとロバート・コスタ記者がその著書「Peril」(21年9月21日出版)で暴露したことがきっかけだった。「Foxニュース」は「トランプはミリーが中国の将軍に電話したとの記事を疑って、本当なら『反逆罪』だと言う」との見出し記事を掲載した。

この電話でミリーは李に、「我々は貴方を攻撃したり、動的な操作を行ったりするつもりはない」「攻撃」を決定したら事前に警告するだろうと述べ、「貴方と私は5年間互いを知っている。攻撃するつもりなら、前もって貴方に電話するつもりだ」「我々は100%安定している。が、民主主義は時として杜撰だ」などと述べた

ミリーは20年11月に開票を終えた後のトランプは、周囲に怒鳴り散らすなど「深刻な精神的退化状態」に陥ったとして危機感を覚え、北京が要らぬ誤解をしないようにと、こうした会話を李に対してしたことがその内容から読み取れる。「貴方と私は5年間互いを知っている」との言が、16年8月の北京での面談を指していることも今なら判然とする。

「Peril」出版一週間後の21年9月28日と29日にアフガンからの米軍撤退に関する上下両院の公聴会が、オースチン国防長官、ミリーJCS議長らを呼んで開かれた。が、翌日の「Fox」「Dairy Signal」など保守系メディア、中道の「AXIOS」「The Hill」、左の「CNN」なども、トランプの「反逆罪」発言も手伝って、ミリーの電話発言により多くの紙面を割いていた(拙稿「ミリー統合参謀本部議長は米議会公聴会で何と答えたか」)。

今年に入り、中国ではロケット軍に関係した高官の消息不明が表面化した。更に23年3月に国防部長に任命された李尚福国防長官(陸軍上将、党軍事委員会委員)の動静までが、7月のキッシンジャーとの面談や8月の中国・アフリカ平和安全フォーラムでの演説をこなした直後から不明となり、説明のないまま10月24日に解任が明らかになった。

米国のJCS議長がここ三代、海⇒陸⇒空の大将が務めているのに比べ、中国の連合参謀長が陸軍上将に偏っている辺りも人民解放軍の歪んだ構造の表れか。また李国防長官やロケット軍幹部の解任は、民主主義国家なら文民統制の観点から好ましいかも知れないが、共産党というより習近平独裁の中国では、むしろ危険なことと考えるべきだろう。

劉参謀長の高圧的な物言いが、独裁者の指示に基づく国内向けであることは明白だが、子供の喧嘩が口と比例しない結果になるのと同じで、中国には好きに言わせておけば良いし、ホットラインはないよりある方がましだ。が、「台湾の平和を脅かすなら、米国は台湾を守る、と私のボス(大統領)は言っている」程度の釘はその都度刺しておくべきだろう。