本稿では、世界でその数が増加している「民間・個人によるエアモニタ設置」について概説をする。
実はここ半年くらいの間に日本国内に新しく開局した個人のエアモニタが複数存在し、筆者はそれが非常に嬉しくてキーボードを打っている。
市民科学者がエアモニタを設置する
筆者が隣家からの薪ストーブ煤煙悪臭の被害を受け、苦情を申し入れたことに対し薪ストーブ使用者から「逆切れ威圧恫喝」されたことが、公開エアモニタを設置した直接の動機であることは前稿で述べたとおりである。
現在、筆者が運用し常に稼働するエアモニタは室内外合わせて3基である。昨シーズンに続き、今シーズンは2基を公開しサンプルが記録され続けているが、データ検証の詳細は公開に馴染まないので、いずれ気が向けばAbstractとして起稿するかもしれない。
日本時間2024年1月25日現在、全世界に「公開された市民科学者によるエアモニタ」は本稿で紹介する3システムで合計約2.7万基が存在する。その他のシステムも存在するので或いはもっと多く、軽く3万基を超えていると思われる。
これら、民間人がエアモニタを設置した動機は各人それぞれではあるが、当然ながらこの数には行政府設置のエアモニタは含まれていない。
前稿のとおり、日本では各行政府によるエアモニタの殆どは市街地(一般局)や幹線道路沿い(自排局)に設置されている。
逆に小さな自治体・人口密度の低い地域・郊外住宅地には殆ど存在せず、住宅地での実際の局地的な大気汚染について行政は把握できていない。エアモニタの存在しない地域での発表値は、あくまでシミュレーションによる推測値というのが実情である。
これは欧米諸国でも同様である。さらに途上国にあっては「行政府によるエアモニタ」は決定的に不足(というより都市部以外にはほぼ存在しない)しており、貧困地域で発生する酷い大気汚染の詳細な実態は把握できていない。
これらが示すことは、途上国の殆どの地域はおろか、先進国でも郊外の住宅地での空気質が正確に測定されず、IQAirによると世界人口の約92パーセントが危険な大気汚染の中で生活しているということである。
筆者の在住する葉山町にあっても同様で、行政府によるエアモニタは1基も存在しないし、設置し調査をする気も無く簡易測定する機器すら所有していないという呆れた様である。
筆者はそんな行政府の実行しないことを先駆けて行うことにした。
日本の行政府は「局地的な煙害」の測定は実施していないし、する気も無いだろう。
薪ストーブを公害カテゴリに入れておきながら、行政府が自ら「調査も測定も実施しない」と徹底的に逃げるのは、それまでの低炭素木材燃焼政策のデメリットである大気汚染が明確に示され、薪ストーブが住環境汚染を起こし、それが数値化され白日の下に晒される結果になることが不都合であることも理由ではあろう。
或いは木材・薪ストーブ関係者からの威圧も有るだろうことは、風の噂に聞いてはいる。
この姿勢が、世界中で空気質に疑問を持つ熱心な市民科学者たちによる2.7万基以上の「公開エアモニタ」という形で示されている。
しかし、空気質の測定と住環境保全は、本来は行政府の仕事である。なぜ筆者、煙害被害者側が測定機器を買って設置しデータを採らねばならないのか、という疑問は残る。
法の不備のせいで何も言えず困惑する地域の住人が多数いる。
行政府がやらないなら、自分でやるしかない。
真に追い込まれた者はそこまでやる。
世界中の煙害被害者たちは充分に我慢した。
我々被害者たちはもう手加減はしない。
以下に個人設置のエアモニタ開局について概説する。
IQAir
日本時間2024年1月24日現在、2256基が存在する。スイスの企業が運営するシステムである。各国の官庁も取引先になっている。
残念ながらエアモニタの価格がUS$399.00に値上げ(筆者が購入した時より約US$100上昇)され、敷居が高くなってしまったが、機器の信頼性は最も高い(スイス連邦計量研究所による高精度保証)と言える。
このシステムを筆者が最も勧めるのは機器を購入した以降は無料で使用できること、本稿で列挙する3つのシステムのうち唯一、スマートフォンアプリケーションが存在し運用者にも一般ユーザーにも使いやすい点である。
IQAirでは全世界の行政府設置のエアモニタも表示され、後述するPurpleAirのエアモニタまでも一部が表示されるという点、エアモニタの運用者は自局のデータを自由にCSV形式でダウンロードして使用可能という点である。
日本には5か所が開局している(東京都、神奈川県、広島県、高知県)。
PurpleAir
日本時間2024年1月24日現在、14356基が存在する。
米国ユタ州ソルトレイクシティの企業が運営することから、設置は主に北米が多いが全世界に満遍なく設置されている。エアモニタは簡素な構造だが比較的安価(US$229.00)なため、現在最も運用者が多い。
PurpleAirのエアモニタが特筆される点は、官庁や研究機関により空気質研究に多数が使用される実績が多いということである。
一例として以下の研究を挙げておくが、この研究はアイルランド・コーク市の家屋の固形燃料暖房器具を発生源とする汚染についての調査である。これは他の類似研究と共に別稿で詳説しようかと思う。
PurpleAirのデータの確認はスマートフォンアプリケーションは無く、WEBサイトからの閲覧となる。
データのダウンロードはCSVとXLS形式で運用者の他の誰にでも可能であるが、エアモニタのオーナーに対しては管理操作に関しポイント制が導入され、費用が掛かるとのことで以前からの運用者からは不評を買ったようである。
ただ自身の環境における大気汚染の状況を見たい、簡単に各地のデータをダウンロードして見たいということであれば、安価なPurpleAirを選択肢として勧めることができる。
日本には10か所が開局している(北海道、茨城県、東京都、京都府、静岡県、岐阜県、奈良県)。
但し、札幌市は北海道大学による設置である。
なお、以下に示すようにPurpleAirのエアモニタは韓国では約60基が運用されている。日本人の「空気汚染被害者たち」は意識レベルで彼らに負けていると筆者は思うがどうであろうか(筆者は嫌韓でも好韓でもないことを付け加えておく)。
SensorCommunity
日本時間2024年1月15日現在、11377基が存在する。
ドイツのシュツットガルトに本拠を置く団体が運営するシステムであり、欧州を中心に世界各国に設置されている。
60ユーロ程度の安価なDIYセンサーサーキットを購入し、自分で組み立てて設置する。電子工作の心得が有るならば簡単だろうと思われる。キットの価格は安いが、逆に一般人には敷居が高いかもしれない。
自身でのはんだ付け作業と、ソフトウェアのインストールが必要、筐体も別途用意する必要もある。
日本には東京都内で3か所が開局している。
編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2023年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。