続・AIと著作権についての文化庁素案を検証する

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前回投稿「AIと著作権についての文化庁素案を検証する」では、主として比較法の観点から文化庁素案(以下、「素案」)の問題点を指摘した。文化庁は素案に対するパブリックコメント(以下、「パブコメ」を募集した。募集締切り日の2月12日、知財学者グループは提出した意見を公開した。

本稿ではその意見(以下、「知財学者意見」)を紹介しながら素案を検証する。

知財学者意見

知財学者意見は、冒頭で「AIと著作権に関する考え方ついて(素案)の性質・位置づけについて、公的に承認されたものではないことを明示し、強調すべきである」との結論を述べた後、「現在のAI と著作権をめぐる議論状況の下で、著作権法30条の4の解釈等の様々な論点に関する整理がなされることには意義があると考える」とした上で、以下のように続ける。

しかし、このような著作権法の条文(特に30条の4のように明確性と柔軟性のバランスを図る趣旨で設けられた柔軟な制限規定)の解釈については、本来は具体的な紛争が現実化した場合に当該事案やその時点での社会状況等の事実関係を踏まえて、裁判所による判断が示されていくのが本筋である。

意見募集の対象である「AI と著作権に関する考え方について(素案)」(以下「素案」と呼ぶ))では、解釈論上ほぼ異論がないものだけでなく、解釈や結論が大きくわかれるような具体的な事例や現時点では事案自体が法的紛争として顕在化しておらず仮想的なものに過ぎない事例についてまで過度に踏み込んだ考え方が示されている記述がある(例えば、学習を制限する技術的な措置に基づく学習用データベースの販売可能性の推認とこれに基づく30条の4但書該当性に関する記述(「素案」23 頁))。

著作権法30条の4等の柔軟な制限規定の適用については、特定の解釈が採用される可能性や様々な状況が問題となりうること等により、侵害のおそれが完全には否定できない場合は少なくない。しかし、社会状況も含めた具体的事案を前提としなければ確定的な判断ができないような事例についてまで、小委員会のような公の機関が、今回の「素案」のような形であえて著作権侵害の可能性を指摘することは、特に著作権侵害について刑事罰が設けられていることに鑑みると、新たな表現活動やAIの開発・研究等に対して過度の萎縮を及ぼすことが強く懸念される。

30条の4のような柔軟な権利制限規定は、解釈の幅があるからこそ柔軟とよばれるわけで、具体的事案を前提としなければ確定的な判断ができない。「公の機関が、今回の『素案」』のような形であえて著作権侵害の可能性を指摘する」ことは、30条の4の立法趣旨にも反する。

知財学者意見は続ける。

とりわけ、「素案」で示された解釈が公的に承認された唯一の考え方であるかのように社会的に受け止められること、AIを巡る技術や社会の認識が刻一刻と変化する中でもなおそれが一人歩きし、拡大解釈されていくことを強く危惧する。

日本新聞協会の意見

AI を巡る技術が刻一刻と変化する実例は政府の委員会でも示された。日本新聞協会(以下、「新聞協会」)は以下の会議で生成AIによる新聞コンテンツの無断使用について実例を挙げながら紹介した。

知的財産戦略本部での発表後、新聞協会の発表資料をチェックしたある委員は、発表資料の侵害事例どおりのアウトプットが出てこないと指摘した上で次のように結んだ(議事録27-28頁)。

厄介なのは、これは本当に一次ソースであるのかどうかというものがなかなか把握はしにくいのではないかというところ。それから、状況によって学習結果が変わってきますので、この部分というものはなかなか一次ソースというふうに主張するのはなかなか難しくなってくるのではないか。

また、プラットフォーム側のほうで調整は今後も入っていくと思いますので、こういうようなものを含めますと、なかなか、本当にそのソースの元がなっているのかというものをここから読み取るのはなかなか難しいのではなかろうかというところを感じた次第でございました。

注目される英米の著作権侵害訴訟判決

新聞協会が取り上げている事例は、マイクロソフト、グーグルなど米プラットフォーマーによる新聞コンテンツの使用事例である。

米国では2022年11月のChatGPTの登場以来、著作権侵害訴訟が頻発した。今年から出始めると思われるそれらの判決の中でも注目されるのは「米地裁 生成AIの著作権侵害訴訟に初の注目すべき判決」で紹介したロイター事件判決である。

被告は事実審理なしに法解釈だけで判決を下す略式判決を要求したが、30条の4以上に柔軟な権利制限規定といえるフェアユースの判定は具体的事実に依拠する部分が多い。

このため、陪審による事実認定に結論は委ねたが法律解釈を示した判事は、多くの大規模言語モデル(LLM)がそうしているように創造的な表現を複製する目的ではなく、言語パターンを学習する目的で著作権のある作品を摂取し、それらをAIの訓練用に使用することは変容的利用でフェアユースに該当すると判示した。このため、今春予定されている陪審の事実審理が注目される。

仮に学習目的での著作物の利用は変容的利用でフェアユースにあたると判定されると、享受目的が少しでもあると30条の4は適用されないとする素案の考え方は、資金面、技術面で米国勢や中国勢に遅れを取る日本の生成AI事業者を法制面でも縛り、競争上不利な立場に追いやりかねない。

英国でも昨年12月に注目すべき判決が下された。Getty ImagesはStability AIが、①同社のウェブページから数百万の画像を学習させた、②英国の利用者の求めに応じて画像を表示したなどとして著作権侵害でStability AIを訴えた。Stability AIはAIの学習や開発は米国で行われていると抗弁したが、英高等裁判所の判事は事実審理が必要だとして、陪審の事実認定に判断を委ねた。

英国の裁判所なので、米国の生成AI事業者に有利な判定を下すかどうかはわからないが、下した場合は要注意である。新聞協会が紹介している侵害事例は、米生成AI事業者によるものなので、日本で権利者が彼らを訴えても同様の抗弁をされる可能性が高いからである。

日本は機械学習パラダイスか?米生成AI訴訟判決は問う!」で指摘したとおり、こうした諸外国の状況も十分検証する必要があるので、以下のように結ぶ知財学者意見に全面的に賛同する。

「素案」はあくまで現時点での論点整理についての小委員会の議論をまとめたものである。今回の「素案」は「一つの法解釈のたたき台」(経済産業省「はじめに」『電子商取引に関するで指摘したとおり、こうした諸外国の状況も十分検証する必要があるので、以下のように結ぶ知財学者意見に全面的に賛同する。準則(令和4年4月)』も参照)としての意義はあっても、それ以上の権威をもつべきものではないし、もたせるべきものでもない。

以上の理由から、「素案」の冒頭やその概要の説明において、法的な拘束力をもつものではなく、公的に承認された解釈を示すものでもないことを明示し、強調すべきである。

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