ドジャース大谷翔平投手の通訳である水原一平氏が自身のギャンブル依存により大谷投手の金を使い込んだ件が大ニュースになっています。
『世界のニュースを日本人は何も知らない5』(2023年12月8日発売)でも解説していますが、海外は様々な事情が日本と異なるために、こういったニュースに関して日本人と海外の人では注目する部分が異なります。
まだこの事件の詳細は不明ですが、日本人があまり注目していない点に、大谷選手のここ最近の税金に関するアメリカでの世論があります。
前回の記事では、これは大谷選手がロサンゼルス・ドジャースと結んだ7億ドルの大幅な「延期型契約」の件をご紹介しました。
この契約は、大谷選手自身がカリフォルニア州の所得税を節約できるだけではなく、所属チームであるドジャースも得する点があるのです。
アメリカはスポーツチームの選手や金融業界やIT業界で働く人の報酬が高額なことが有名です。日本の人は知りませんが、その金額は天文学的です。高い報酬を目指して世界中から人が集まってくるのがアメリカという国で、その成長の本質でもあります。
これはアメリカという国の「仕組み」が高額報酬を得られるようになっているからです。
したがって、能力は高くても、欧州大陸や日本で働いている限りは高額報酬を得るのは難しくなります。
しかし、近年アメリカではこういう高額報酬が批判されてきました。そのため、業界によっては従業員や選手の報酬の上限が法律で定められています。
スポーツチームは選手に対して支払う報酬に上限があります。アメリカでは人気があるアメフトやバスケの世界には存在し、NFLやNHL、NBAには上限があるのです。
ところが、メジャーリーグベースボール、つまりMLBには厳しい上限がありません。
一方で、「競争的バランス税」という税金があります。選手の報酬支払が上限を超えると、支払いが増えてしまうのです。一方で選手個人の報酬に対する上限規制はありません。ですから、個人の報酬は自由だけどもチームとしては何が得になるかを考えてくださいね、という仕組みですね。
したがって、大谷選手の報酬の支払いを先延ばしにすればこの税金を減らすことができるわけです。
それに今支払うはずだった報酬をチームの強化に使えばさらに良いチームを作ることができるので、業界は盛り上がるでしょう。報酬の先延ばしは大谷選手にとってもチームにとっても良いことが多いわけです。
しかし、生活費や学費の高騰で生活が苦しい一般庶民にとってはよいニュースではありません。
アメリカは格差が激しい国なので富裕層が得することを耳にした一般民は反感を持つ人も少なくないでしょう。もちろん自分も野球選手になって一発当てたい!と考える人も大勢いるわけですが。
また、日本人で東洋人である大谷選手が高額報酬を得て、所得税を節約していることを知った一般人の胸中は穏やかではないでしょう。アメリカはなんだかんだ言って人種間の階層が存在する国です。
このような状況の中で大谷選手の通訳の水原一平氏のギャンブル依存スキャンダルが持ち上がりました。
巨額の資金がどうやって騙し取られたのか、それは本当に水原氏による犯罪だったのか。まだ詳細はわかりません。大谷選手は資金管理をどのように行っていたかということに注目が集まっています。
なにせ一介の通訳やアシスタントが富豪の資金を自由に送金できた、というのは非常に不思議な話だからです。資金管理がかなり杜撰だったのか、騙されてしまったのか。
アメリカの国税庁に当たるIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)が調査に乗り出したということは、事態が思ったより深刻なのかもしれません。
アメリカ人は税に対して非常にシビアな感覚を持っているために、大谷選手に対する印象が大きく変わったということも言えます。
こういう感覚も日本人が知らない世界のニュースの一つです。