単身者本位の粉末社会:少子化の根本原因(補遺編)

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(前回:単身者本位の粉末社会:少子化の根本原因(下)

10.金銭的データとTFRとの相関

(1)都道府県GDP × TFR

4月10日の(上)4月14日の(下)で「単身者本位」と社会的に関連する8指標を取り上げて、合計特殊出生率(以下、TFR)との相関を論じた。「女性就業率」の高さとTFRの高さのみ「正の相関」を示したが、それ以外はすべて「負の相関」が顕著に表れた。

そこで得られたTFRとの相関係数を見ながら、子どもが生まれるにあたって経済的条件はもちろん重要だが、それ以外のいくつもの条件がこの判断を左右することを改めて実感した。

TFRを説明する「単身者本位」変数

今回取り上げたTFRを説明する「単身者本位」を支える変数は、

  1. 人口10万人当たりコンビニ数
  2. 単独世帯率(対一般世帯数)
  3. 借家率(対居住世帯当たり住宅数):居住している世帯以外の者が所有・管理している住宅
  4. 消費支出(二人以上の世帯):1世帯当たり1カ月間
  5. 婚姻率(人口千人当たり)
  6. 第3次産業就業率(対就業者)
  7. 1世帯当たり世帯主年収
  8. 女性労働率

であった。このうち1.から7.まではすべてTFRとは「負の相関」を示した。居住空間の広さ、単独世帯率、消費支出などでの「負の相関」は予想通りであった。

ただし、日本の統計では「女性就業率」の高さが農業県に多く認められることにより、大都市に象徴される女性の第3次産業就業率の高さに代替できるとの想定が難しくなった。そのためこのデータだけでは、都市型社会に普遍化した形での「正の相関」を示すとは断言できないという危惧が残った。

アクセスランキングが1位と2位

ただ珍しいことに、アゴラ「社会保障」分野で「単身者本位の粉末社会(上)」は、アクセスランキングで初めて第1位になり、同じく(下)も第2位まで上がった。執筆した時点では、(上・下)ともにこれまでの「子育て共同参画社会論」の延長線上に位置づけられる内容だとしか考えてはいなかったので、これには喜びよりも驚きが大きかった。

おそらく(上・下)へのアクセスが多かったのは、1年前からの「異次元論争」に関する政府『こども未来戦略』や民間『人口ビジョン2100』で示された「戦略」への不満が強かったからであろう。

『こども未来戦略』では冒頭に「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」と書かれている。また『人口ビジョン2100』でも、最初に「このまま少子化に慣れてしまい、流れに身を任せるだけならば、日本とその国民が、人口減少という巨大な渦の中に沈みつづけていくことは明らか」とされていた。

支援金関連の国会での議論への不満

しかし、そのような直近の「政策提言」を受けたはずの現国会で、繰り返される「支援金」関連のみの議論への不満が、国民には大きいように思われる。なぜなら、「最大の危機」と認識する政府が、2024年度から3年間かけて拡充する少子化対策の財源の一部に充てるために支援金の原資として期待する、国民一人当り月500円をめぐる与野党の攻防ばかりが目立つからである。

政府は26年度までに年3.6兆円の追加予算を投じる予定で、その財源の内訳は歳出改革で1.1兆円、既定予算の活用で1.5兆円、支援金で1兆円としている。この1兆円の原資について月500円の議論がなされているのである。

これまでにも証明したように、TFRを左右するのは政府からの支援金や子ども手当などの金額の多寡ではない(金子、2016;2023)。それを忘れたかのような月500円の是非をめぐるだけの議論から、「巨大な渦の中に沈まないような」長期的な人口反転政策がどこまで期待できるのだろうか。

「都道府県の幸福度ランキング」

さて、(上・下)で8指標の相関係数の説明を終えた直後に、たまたま書店でバックナンバーの『週刊エコノミスト』(2024年4月2日号)を手に入れた。そこには2022年に日本総合研究所が実施した「都道府県の幸福度ランキング」結果の一部が紹介されていた。

これはいわば1970年代からの「社会指標」研究の実践に該当するが、幸福度評価が80の客観指標で測定されている。「社会指標」は現在の「生活の質」、HDI、BLIなどの根底にある理論と方法を兼ね備えている分野である(金子、2023:135-151)。

客観指標による測定

多くの場合は客観指標と主観指標に分けて、客観指標ならばその測定結果を比較可能な標準化変量(平均値からどれだけ離れているか)に置き換えて、都道府県ごとに均等加重した合計値を得点とする方式でまとめたものになる。「幸福度ランキング」も同じ方式で作成されている。

その指標は表7のように7領域に分類され、それぞれの領域ごとに5指標、10指標、25指標の具体的な客観指標が用いられている。

表7 日本総合研究所「幸福度」評価の指標領域
出典:『週刊エコノミスト』(2024年4月2日):40

その結果も興味深いが、それ以外にも貴重なデータとして「都道府県GDP」が掲載されていたので、合わせて総務省統計局の『社会生活統計指標』に掲載の「1人当たり県民所得」を付加した表8を作った。

いわば金銭面でのマクロ版が「都道府県GDP」(単位は兆円)であり、ミクロ版が「1人当たり県民所得」(単位は万円)に該当する。これらは現国会で議論されている支援金と同じく「金銭」のデータである。

表8 TFRと都道府県GDP、1人当たり県民所得

TFR 都道府県別GDP 1人当たり県民所得
北海道 1.2 19.73 283.2
青森県 1.31 4.46 262.8
岩手県 1.3 4.75 278.1
宮城県 1.15 9.49 294.3
秋田県 1.22 3.53 271.3
山形県 1.32 4.28 290.9
福島県 1.36 7.83 294.2
茨城県 1.3 13.77 324.7
栃木県 1.31 8.95 335.1
群馬県 1.35 8.65 328.8
埼玉県 1.22 22.92 303.8
千葉県 1.21 20.78 305.8
東京都 1.08 109.6 575.7
神奈川県 1.22 33.91 319.9
新潟県 1.32 8.86 295.1
富山県 1.42 4.73 331.6
石川県 1.38 4.53 297.3
福井県 1.57 3.57 332.5
山梨県 1.43 3.55 312.5
長野県 1.44 8.21 292.4
岐阜県 1.4 7.66 303.5
静岡県 1.36 17.11 340.7
愛知県 1.41 39.66 366.1
三重県 1.43 8.27 298.9
滋賀県 1.46 6.74 332.3
京都府 1.22 10.17 300.5
大阪府 1.27 39.72 305.5
兵庫県 1.36 21.74 303.8
奈良県 1.3 3.69 272.8
和歌山県 1.43 3.63 298.6
鳥取県 1.51 1.82 243.9
島根県 1.62 2.56 295.1
岡山県 1.45 7.61 279.4
広島県 1.42 11.56 315.3
山口県 1.49 6.15 324.9
徳島県 1.44 3.19 315.3
香川県 1.51 3.73 302.1
愛媛県 1.4 4.83 271.7
高知県 1.45 2.35 266.3
福岡県 1.37 18.89 283.8
佐賀県 1.56 3.05 285.4
長崎県 1.6 4.54 265.5
熊本県 1.59 6.11 271.4
大分県 1.54 4.46 269.5
宮崎県 1.64 3.6 242.6
鹿児島県 1.65 5.61 255.8
沖縄県 1.8 4.26 239.6

出典:都道府県GDP(単位は兆円)は『週刊エコノミスト』(2024年4月2日)毎日新聞社:41
1人当たり県民所得(単位は万円)は総務省統計局『社会生活統計指標-都道府県の指標 2024』:30

ミルズの「社会学的想像力」

ミルズによる周知の「社会学的想像力」で強調された「社会構造に関する公的問題」として前者が、「個人環境にかんする私的問題」として後者が該当するとしておこう(ミルズ、1959=1965:10)。

その後でこれまでの(上・下)と同じような方法で、TFRとの相関を取ってみた。ただし沖縄県の「都道府県GDP」は、最低ではないがかなり低い4兆2600億円であり、「1人当たり県民所得」でみれば都道府県では最低の239.6万円であった。

しかしながら、沖縄県のTFRは日本最高の1.80でもあったので、都道府県全体の普遍性を探求する手段としては、これまでと同様に沖縄県データを入れる場合と外す場合の両者で計算を行った。

東京都の独自性と沖縄県の個性への配慮

同じく東京都でも、その「都道府県GDP」は2020年で109兆6000億円であり、2019年の「1人当たり県民所得」では575.7万円となり、いずれも都道府県では断然第1位を占めていた。同時にTFRの値が1.08と極端に低かった。

これらのデータから、いわば沖縄県と東京都とは真逆の位置関係にあると考えられる。そこで金銭面に関しては、47都道府県のうち沖縄県と東京都を入れる場合と外す場合を用意して、それぞれの相関係数を算出した。

まずは47の「都道府県GDP」とTFRとの相関を調べると、その相関係数rは-0.50500となり、両者間には「負の相関」が検出された。そして、沖縄県を入れずに46の「都道府県GDP」との相関係数rもー0.52485が得られた。すなわち沖縄県の有無に関わらず、「都道府県GDP」とTFRとの間には「負の相関」が存在していることが分かった。

次に東京都を入れる場合と外す場合も用意して、計算を行ってみた。まず沖縄県はそのままで、東京都だけを外した結果はr=-0.45353となり、「負の相関」が得られた。これは沖縄県を外して東京都を入れた場合のr=-052485とほぼ近似的な数値である。

さらに沖縄県と東京都のデータを外して、45の「都道府県GDP」とTFRとの相関係数を計算したらr=-0.46101が得られた。

「都道府県GDP」の大きさとTFRの低さとが相関

それらの結果から、沖縄県と東京都のデータの有無に関わらず、この両者間では「負の相関」が検出されたことになる。マクロな指標である「都道府県GDP」の大きさとTFRの低さとが相関しているという結果が得られたことになる。

(2)「1人当たり県民所得」× TFR

以上のようにマクロな「都道府県GDP」とTFRの間には「負の相関」が得られたが、もう一つのいわばミクロな「1人当たり県民所得」とTFRの間ではどのような相関があるのだろうか。

まずは47の都道府県「1人当たり県民所得」データ全体とTFRとの相関では、r=-0.45613が得られた。

次に沖縄県のデータを外してみたら、r=-0.41689となった。

3番目に東京都のデータを外すと、r=-0.34117になった。

最後に沖縄県と東京都のデータを外すと、r=-0.24524が得られた。

すなわち、「1人当たり県民所得」とTFRとの相関係数でも、47都道府県全体のデータで計算したら「負の相関」が、沖縄県データを外しても「負の相関」が得られたが、東京都のデータを外しても「弱い負の相関」になり、沖縄県と東京都のデータを外しても同じく「弱い負の相関」が確認されたことになった。

「少子化対策=子育て支援=支援金の配布」を超えよう

いずれにしても、「1人当たり県民所得」とTFRとの間に「負の相関」が成立することが分かったのである。

マクロな「都道府県GDP」とミクロな「1人当たり県民所得」という2種類の金銭的な指標からも、TFRとの間には「負の相関」が検出されたことにより、「少子化対策=子育て支援=支援金の配布」という「金銭面」だけが有効な対策にはなり得ないことが理解される。

本気で「こども真ん中」理念を政治の根幹に据えるのならば、月500円の国民負担をめぐる国会での攻防を超えて、次世代次々世代を社会全体で育み、結果として日常的な「生活安定」、長期的には「未来展望」が国民とりわけ若い世代にしっかりと感得できる社会づくりを目指すことが政治の課題であり、日本国が「沈まない」ための大局的な政策でもあろう。

【参照文献】

  • 金子勇,2016,『日本の子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
  • Milles,C.W.,1959,The Sociological Imagination, Oxford University Press.(=1965 鈴木広訳 『社会学的想像力』紀伊國屋書店).

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