私はこれまでに、コロナワクチンの有害事象を分析する際には「偶発性の検証」が重要であることを、2021年11月頃よりネット論考において繰り返し主張してきました。
今回一連の論考を一つの論文にまとめて公開しました。今回の論考は、この論文の簡易版です。
私は、関連性を分析する統計手法は、1.発生率の比較、2.偶発性の検証、3.1と2の組み合わせ、の3つに分類できると考えています。1の手法はコホート研究、2はSCRIデザイン(self-controlled risk interval design) 、3はSCCS法(self-controlled case series method)が該当します。
ASA声明では、科学的結論をだす場合には、複数の統計手法を用いて分析することが推奨されています。特に、一つの統計手法で有意差が認められなかった場合には、複数の手法で分析することが大切です。何故ならば、「有意差がないことは、関連性がないと解釈することができない」からです。この場合は、原理の異なる統計手法を用いて分析することが推奨されます。
2つの統計手法で分析する場合は、コホート研究とSCRIデザインの組み合わせが最適と、私は考えます。コホート研究は関連性を分析する最も重要な統計手法ではありますが、欠点について理解しておく必要があります。コホート研究では、接種群での有害事象の発生率が非常に低い場合、あるいは未接種群での有害事象の発生率が非常に高い場合には、たとえ関連性があったとしても、有意差が検出されない場合があります。そして、その場合おいてSCRIデザインであれば有意差が検出されることが有り得ます。
特に、発生率が低い場合に有意差が検出できない場合があるという点は、コホート研究の重大な欠点と言えます。何故ならば、ワクチンは健常者にも接種するため、重篤な副反応の発生率は非常に低いことが必要条件であるためです。
未接種群の有害事象の発生率が有意差の検出されやすさに影響を与えるという点も重要です。未接種群の有害事象の発生率は、有害事象ごとに異なります。その発生率が高くなるほど有意差は検出されにくくなる点に注意が必要です。
コホート研究のもう一つの欠点は、未知のバイアスや補正困難なバイアスが存在している場合には、関連性があったとしても、有意差が検出されない場合があるということです。
この具体例としては、コロナワクチン死亡事例の分析においての疾患重症度バイアスというものが挙げられます。コロナワクチンは全身状態の悪い人には接種しないことが推奨されました。そのため、未接種群には全身状態の悪い人が多数含まれている可能性が高いのです。疾患重症度バイアスが適切に補正されないと、正しい結果が得られません。
Takeuchiらは日本のコロナワクチン安全性に関するコホート研究の論文を発表しています。そのなかで、接種後死亡とワクチンとの関連性の分析していますが、疾患重症度バイアスを適切に補正できていませんでした。何故ならば、このバイアスを診療報酬明細書データを用いて補正したからです。このデータには疾患名は記載されていますが、疾患重症度は記載されていません。
SCCS法はこのバイアスの影響を受けますが、SCRIデザインは受けません。何故ならば、SCCS法の対象は接種群と未接種群なのに対して、SCRIデザインの対象は接種群のみであるためです。したがって、2つの統計手法を用いる場合には、コホート研究とSCCS法の組み合わせより、コホート研究とSCRIデザインの組み合わせが推奨されます。
世界で公表されているコロナワクチンの安全性に関する論文数を調べてみました。結果は、コホート研究単独:276編、SCCS法単独:59編、SCRIデザイン単独:3編、コホート研究+SCCS法:4編、コホート研究+SCRIデザイン:3編でした。
私が推奨するコホート研究とSCRIデザインの組み合わせは、わずかに3編でした。したがって、結論は「コロナワクチンの安全性に関する研究には改善の余地があり、不十分である」ということです。