野球が欧州で無名なことを日本人は何も知らない

谷本 真由美

日本ではこのところ大谷選手の話題がニュースになることがよくあります。しかし、日本人が全く知らないことの一つに、欧州では野球やメジャーリーグベースボールがどのような扱いを受けているのかということがあります。

私の近著『世界のニュースを日本人は何も知らない5』でも解説していますが、海外のスポーツ事情は日本とかなり異なります。

まず日本の人々に知らせると大変驚かれることに欧州では大谷翔平選手がほぼ無名だということがあります。

ほとんどニュースにもなりませんし、テレビでもメジャーリーグベースボールが放送されることはほとんどありません。ほとんどどころか全くないに等しいのです。ケーブルテレビやAmazonプライムで若干流していることもありますが見ている人はいないでしょう。

そもそも欧州の人々にとってベースボールというものがわけのわからないゲームなのです。

特にアメリカという国を作ったイギリスにとって、ベースボールというものは感覚としては「植民地でやっている子供の遊び」なのです。

もちろんイギリスや欧州の他の国の人々はベースボールで動くお金の金額のことは知っています。しかし彼らにとって重要視するのはお金ではありません。それは歴史的な蓄積であったり、文化的な背景であったりします。

また彼らの感覚というのは日本とは異なり100年前のことを今のものとして受け継いでいる部分があります。

したがってアメリカが単なる植民地であり、イギリスをはじめとするヨーロッパの列強諸国が作ったに過ぎない新しい国であるという感覚がいまだに強いのです。

そしてベースボール自体もイギリスの貴族が行う玉打ち遊びであるクリケットを真似して簡素化して作ったものという感覚があり、あくまで一般庶民向けの子供の遊び的なものだという感覚で捉えています。

クリケットの試合のようす Wikipediaより

ですからイギリス人はベースボールを見るとユニフォームからルール、応援のやり方まで全てにケチをつけます。

クリケットとはあまりにも文化が異なるからです。

そもそもクリケットの場合は貴族や富裕層の遊びですから、一般庶民には手が出ないスポーツになっています。これはどういうことかというとクリケットをプレイできるグラウンドというのは私立の学費が高価な学校や貴族の所有地であるからです。

プレイするグラウンドには綺麗に整った芝生が必要であり、そういったグラウンドは一般公開しているわけではありません。お金を払いますと言っても貸してもらえないのです。

特定のクリケットクラブに所属するか私立の学校に通わなければクリケットをプレイすることができません。もちろんクラブの所属には審査があります。

審査基準が公開されているわけではありません。

その次にクリケットのユニフォームは真っ白なシャツにズボン、そしてなんと上には白いセーターを着ます。靴も白です。白いということはどういうことかというと、泥や芝生の汁で汚れてしまった場合は一生懸命洗うか捨てるしかないということです。

白いユニフォームの汚れはそう簡単には落ちませんので捨てることも少なくありません。

今は良い洗剤がありますし洗濯機もあるので洗濯は容易ですが、そういったものがなかった時代は使用人がお湯を使って一生懸命洗っていたのです。つまり使用人が雇える人だけやってくださいというスポーツです。

そしてクリケットはゲームの合間に美しい芝生が整ったところにあるクラブハウスで当期の陶器でお茶を飲みサンドイッチやカナッペをつまみます。私立の学校で体育の授業の一環として行うクリケットの場合はこんなに手が込んだことはやりませんが、やはりスナックタイムがあります。

こういうクラブハウスでお茶とサンドイッチをつまみながら社交するのも非常に重要なことなのです。また試合を見に来る人々も男性の場合は夏向けの朝の白っぽいスーツを着用したりカンカン帽をかぶったり女性はドレスを着ておしゃれをしてきます。

現在はだいぶ簡素化されてきており男性はビジネスカジュアル、女性も足元は楽なスニーカーやサンダルということもありますが、それでも彼らの服装は一般庶民ではありません。クリケットを見に行くような人々というのはそれなりの階層だからです。

そして試合の最中は楽器を持ってきて歌ったり踊ったりすることは当然禁止です。禁止されているわけではなくそういう文化がありません。

グラウンドにあるのはクラブハウスと芝生とプレイヤーとボールを投げる目印程度のもので野球のようなスコアボードはありません。大それた仕組みがないのです。

また応援の掛け声も極めて簡素なものです。ヤジはありません。頑張ってなどという非常に前向きな掛け声があるのみです。そもそも見ている人の数が少ないので、声援の声も非常に小さいのです。

そしてクリケットプレイヤーにもプロはいますがその報酬はメジャーリーグベースボールと比較して大変小さなものです。

ただしクリケットをプレイするというのはある意味名誉職的なところがあるので報酬が少ないか多いかで比較するものではありません。そしてその本拠地であるイギリスはクリケットは実はあまり強くなく、植民地であるパキスタンやインドの方がはるかに盛んで強かったりします。

しかしイギリスがこれをよくないとしているわけでもありません。クリケットはあくまで「ゲーム」(遊び)なので、これでよいのです。

イギリスや欧州の庶民が楽しむのはサッカーです。サッカーでは、荒々しくゲームで狡猾なトリックを行うものもいたりと、一応ルールはあってもなんでもありです。人種差別的な発言なども飛び交います。

そしてサッカーでは高い報酬を得るものが賞賛されます。

選手のユニフォームはカラフルで髪型も様々です。観客は庶民であり、試合で大騒ぎするのが定番です。相手チームを揶揄したりする歌が当たり前の試合でもあります。

そして試合となれば近隣の駅や繁華街は泥酔して暴れるファンが溢れることもあります。

【参考記事】