石丸伸二氏の人気から見る現在の日本とその変化が象徴するもの

谷本 真由美

今回の都知事選では驚くようなことがいくつかありました。

ひとつは、元安芸高田市長の石丸伸二氏が2位に、AIエンジニア・起業家ですが世間では完全に無名な安野貴博氏が5位に、ネット民にしか知名度がなく素顔と本名さえ不明瞭だった暇空茜氏が7位に入ったということです。

石丸市長 安芸高田市HPより

この3名の人気は、日本社会の流れの変化を象徴しています。つまり持たざる層が日本社会に対してたいへん大きなな怒りを感じているということです。

私の新作書籍『世界のニュースを日本人は何も知らない5』でも解説していますが、日本社会の流れは大きく変化してきています。

とくに石丸氏に関しては、無党派層の37%、10〜20代の4割が石丸氏に投票し、男性の投票先は小池氏の32%を上回る33%を獲得しています。

YouTubeやTikTokをはじめとするネット戦略に大変な力を入れ、市議会やメディアを批判する記者会見を同氏の公式YouTubeに投稿するというたいへん大胆なことをやっていました。

石丸氏はテレビの生放送の討論ではうまく答えられないことも少なくなく、話し方もあまり説得力がないということが選挙後に分かってしまいましたが、しかしネット動画では編集や見せ方が非常にうまく、これが得票数に繋がったということは注目すべき点です。

短い動画で印象的な発言や表情を配信することが選挙を左右する時代になったのです。つまり選挙のショート動画化でありTikTok化です。自民党や既存の野党はこの点を十分分析できていないと感じます。

また、この傾向は日本だけではなく他の国も同じです。選挙を制覇したければ動画を制覇しなければなりません。もはやテレビや新聞は時間の無駄です。

石丸氏の主張は間違っている内容も多く、非常にナンセンスであり、ある程度社会人経験がある人だと何を言っているのだという感じがしますが、相手の発言の揚げ足を取り厳しい口調で論難し、年上の人々やすでに資産や地位を持っている人々を追い詰める姿がとくに若い男性に共感を呼んでいます。

これは近年ネットでひろゆき氏が大人気なのとまた同じです。主張の内容に妥当性があるというわけではなく、「年長者を追い詰める姿」に共感が集まるのです。

そして、同氏はフェミニストが嫌いらしく既婚の女性が大嫌いなようです。見た目もいわゆる今風のイケメンでないからこそ、若い男性達には「自分達の一人だ」という共感を呼ぶのでしょう。

「自分達の代表として資産や地位コネを持っている年長者や生意気な女を徹底的にぶっ叩く」というキャラクターです。

日本の今の若い人々の少なからずは祖父母世代や親世代のような豊かな生活を期待することもできず、日本もこれからどんどん落ちていく一方だということをよくわかっています。

若い人と話すと、彼らが自分達のおかれた状況をよく理解しているということを感じます。彼らは中年世代や高齢者が日本を良くするために仕事をしてこなかったということが分かっています。

いくらやる気があっても給料は上がらず、よい仕事にありつけるのはすでに親が豊かだったりコネがあったりする人々です。

氷河期世代以上よりも大学に入るのはうんとと楽にはなりましたが、しかしよい仕事はありません。氷河期世代よりははるかに楽だとは言っても、彼らが見ているのは日本社会の先行きです。

若い人は感性がとても鋭いので先を見通しているのです。

若い男性たちは、思った以上に自分の人生に絶望し屈辱的なものを感じています。

今や日本はどこでも女子の方が元気があり、昔と違って就労環境も改善されましたから女子でも男子以上に稼ぐことが可能です。

今の40代以下は共働きの家庭が多く、私の知っている夫婦でもそのほとんどは経済的な理由から共働きです。

奥さんが夫以上に稼ぐという家庭も少なくありませんし、今は出産後仕事を辞めるという人も多くありません。

その一方で昭和の時代よりも格差が広がっていますから、男性でも新卒で最初から非正規とか時給いくらの仕事という人も少なくありません。

その一方で年収1000万円を超えるような女性も珍しくないわけですから、なんとなく屈辱感を感じて生活している男性は思った以上に多いのです。

 

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