中・高校生にみられるコロナワクチン後遺症の実態

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日本小児科学会誌掲載論文と新型コロナワクチン後遺症患者の会からの報告の比較

中・高校生にみられるコロナワクチン後遺症の対応には学業が絡んでおり、成人とは違った観点が必要である。

中・高校生に見られたコロナワクチン後遺症:慢性疲労症候群

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中・高校生におけるコロナワクチン後遺症:副腎機能低下症

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武見厚労大臣は、コロナワクチン後遺症について、次のように述べている。

研究班の報告では、懸念を要する特定の症状や疾病の集中は見られなかった。現時点では、問題は起きていない。

政府の見解では、コロナワクチン後遺症は存在しないことになっているので、対応する医師や教師にも、戸惑いが見られる。

最近、日本小児科学会誌に、小児感染症専門医グループが実施したコロナワクチン接種後の遷延する症状に関する多施設共同研究が掲載された。

小児のCOVID-19ワクチン接種後の遷延する症状の多施設共同研究

7施設を受診した6〜17歳の46人が対象である。遷延症状の定義を、ワクチン接種後1週間以上持続する場合としている。

一方、新型コロナワクチン後遺症患者の会も、13〜22歳の44人を対象に後遺症に対するアンケート調査を行っている。後遺症の定義は、ワクチン接種後1ヶ月以上症状が続いた場合である。接種前からあった症状は含まない。

筆者は、患者会からアンケート調査の結果の提供を受けたので、専門医グループと患者会の調査結果との比較を行った。

専門医グループによると、遷延する症状として頻度が高いのは、頭痛、倦怠感、発熱、胸痛などであった。患者会のアンケートで頻度が高い症状は、倦怠感、疲労感、頭痛、集中力低下などで両者に大きな差は見られない。(図1)

図1 コロナワクチン接種後の遷延症状

専門医グループの調査では、これらの症状の持続期間は1週間から17ヶ月で、その中央値は4ヶ月であった。17人(36%)は治癒し、寛解したのが10人(21%)、軽快が2人(4%)で、全体として3分の2に改善が見られた。

一方、患者会の報告では、全員において、1年以上症状が持続しており、2年以上持続している割合も70%あった。完治したのは2人(5%)のみで、改善傾向が見られたのは23人(52%)であった。8人(18%)は明らかに悪化した。(図2)

図2 患者会のアンケート調査による遷延症状の持続期間

専門医グループによる診断名は、慢性頭痛、心身症、解離性神経症状反応、特発性胸痛、起立性低血圧など、心理的な反応とされる診断名が多く見られた。慢性頭痛や特発胸痛は、単に症状を示す言葉で、診断名ではない。

患者会の診断名も、多いのは、起立性低血圧、慢性疲労症候群、自律神経失調症、うつ病などであるが、副腎機能不全、末梢神経障害、ギランバレー症候群、膠原病、ネフローゼ症候群、関節リウマチ、自己免疫性脳炎疑いなどの器質的疾患と診断された症例も含まれていた。(図3)

図3 遷延症状に対する診断名

ワクチン後遺症には、器質的な疾患が隠れていることはないのだろうか。筆者は、この点に重きをおき、ワクチン接種後に長期間の遷延症状を訴える6人の中・高校生を対象に、唾液からのウイルスの検出、血中ホルモンの測定、自己抗体の検出を試みた。

全員において、倦怠感や頭痛など多彩な症状が2年以上継続しており、完治したのは1人のみであった。通学が困難となり、全員が長期の不登校を経験し、休学や退学した例もあった。4人の唾液中から、高濃度のヒトヘルペス6(HHV6)DNAが、2人の唾液中からはEBウイルスDNAが検出された。ウイルスの検出に加えて、症例1からはUBF抗体、症例2からはAMA-M2抗体が検出された。

慢性疲労症候群では HHV6やEBウイルスの再活性化が報告されている。ウイルスが検出された5例は、倦怠感を主とする多彩な症状を考慮して慢性疲労症候群と診断した。ウイルスが検出されなかった1例は、血中コルチゾールと副腎皮質刺激ホルモンが低値であったことから、副腎機能不全と診断した。(表1)

表1 中・高校生に見られたコロナワクチン後遺症の臨床像

感染症専門医による論文の考察を紹介する。

症状の多くは、従来から思春期によく見られる症状が主で、一般小児科医でも対応が可能であるが、場合によって、児童精神科や不登校外来への紹介が望ましい。反ワクチンの情報は、インターネット、本、メデイアなどで氾濫していて、巧妙に反ワクチンの主張を自然志向、陰謀論などの概念で隠して拡散しようとしている。陰謀論は政府や製薬企業などの巨大組織に対して弱い被害者という対立構図を作り出して、存在しない善悪のストーリー性を持たせて反ワクチンを訴える。世界的にみられる古典的な手法である。

ワクチン忌避への対策という立場で書かれており、論文中に使われている反ワクチンという言葉に、違和感を覚えた。また、専門医療機関で感染症専門医が、対象患者の予防接種後に生じる有害事象を評価しているのが本研究の強みであると自負しているが、自己免疫疾患などの器質的疾患との鑑別に関する記載がないことも気になる。筆者の経験では、問診や身体所見では見逃した器質的疾患を、検査所見によって診断した症例を経験している。

ワクチン後遺症の患者や家族には、医師への不信感を訴える割合が高い。以下に、患者会のアンケートに記載されていた医師の言葉の一部を紹介する。

  • 子宮頸がんワクチンの時は嘘をついていた人もいるのですよ。コロナワクチン後遺症なんてものは存在しない。
  • 勉強のストレス、受験のストレス、母親の過度な教育によるストレスで心因性だ。
  • 1回目のワクチンを打ってから胸が苦しくて高熱が出ていると説明したのに、聴診器すらあててくれない。様子見て、2回目もちゃんと打ってねと言われた
  • スマートフォンのしすぎだ。精神科を受診するように。
  • 国に頼まれて打っただけだから、何かあったなら国に言ってくれ。
  • ワクチン接種による後遺症疑いの診断書は出すが、学校以外に出せば医師が続けられなくなるので、薬害などの申請をしないように約束してくれ。
  • 現在は、ワクチンの後遺症とは認められないが、国が変われば後遺症と認めることに協力する。

中・高校生においては、とりわけ、ワクチン後遺症が進級や卒業の認定に与える影響が大きい。欠席の理由として、診断書にワクチン接種による後遺症との記載があれば、出席停止扱いになるが、医師からの診断書がなければ欠席にされてしまう。なかには、国がワクチン後遺症の存在を認めていないことを理由に、診断書の発行を拒む医師もいるようだ。

出席日数を確保するために、無理して通学することで、症状が悪化し、悪循環に陥った例も見られる。厚労省大曲班の調査結果をもとに、国がコロナワクチン後遺症の存在を認めていないことによる弊害は大きい。

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較

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コロナウイルス感染罹患後の後遺症とともに、コロナワクチン接種後に遷延する症状(ワクチン後遺症)が問題となっている。両者の症状は共通するものが多い。表1は、筆者に紹介されたワクチン後遺症患者の一覧である。 中・高校生もい...