100万人を超える下方修正!?米国雇用統計年次改定

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2025年2月に発表される米国雇用統計の年次改定では、非農業部門雇用者数の大幅な下方修正が予想される。2024年8月に暫定値として81.8万人の下方修正が発表されているため、特別驚くことではないかもしれない。

しかし、100万人を超える下方修正となったら動揺が走るのだろうか。精査した結果、その可能性は十分ある。参考までに1979年以降、過去最大の下方修正は2009年の93万人である。

毎月の事業所調査では、629,000の職場を代表する約 119,000 の企業および政府機関をサンプル調査し、原則毎月第1週の金曜日に非農業部門雇用者数などを発表している。年々回収率が低下していることもあってか、非農業部門雇用者数は改定を繰り返すのが常だ。

そして、失業保険に加入する従業員台帳(事業所調査対象の約97%を網羅)などからの詳細な分析結果として、年次改定を1月の雇用統計と共に毎年2月に発表する。

年次改定では前年3月の非農業部門雇用者数が基準値として改定され、その基準値に基づき、主に過去5年のデータが変更される。例えば2025年2月発表分は2024年3月の非農業部門雇用者数が基準値として改定され、その改定後の基準値に基づき、主に2020年~2024年の5年間のデータが変更される。

では、下方修正はどれくらいになるか。主に3つのデータからその程度を探っていく。

最初に、事業所調査と家計調査の雇用者数の差についてである。以前も書いたとおり、2022年1月と2024年11月で比較をすると、非農業部門雇用者数(=事業所調査による雇用者数)では雇用が927.4万人の増加に対し、家計調査による雇用者数では407.5万人の増加と、雇用者数に約520万人もの差が生じている。 

約3年で520万人もの差が生じるのは、さすがにおかしい。1948年以降のデータにおいてもこれ程の差が短期間で生じた例はない。

※ 雇用統計における事業所調査と家計調査の違いはこちらをご参照ください。

この事業所調査と家計調査の雇用者数の差が生じている一因は、複数の仕事をかけ持ちしている人が増えているためだが、仕事をかけ持ちする人は2022年1月から2024年11月の間に約110万人増えただけなので、これだけでは説明が付かない。

※ 1人が複数の仕事をかけ持ちしている場合、家計調査では雇用者数は1であるのに対し、事業所調査ではカウントが複数になる(例えばAさんがX、Y、Zの3社で働いている場合、家計調査では雇用者数1人、事業所調査では雇用者数3人となる)。

よって、この2つのデータ差からも非農業部門雇用者数が大幅に下方修正されてもまったく不思議ではない。(参考までに家計調査は年次改定の対象ではない。)

次に、QCEW(Quarterly Census of Employment and Wages)を見てみる。こちらは、米国雇用の 95% 以上を網羅する雇用者から報告された雇用者数と賃金を四半期ごとに公表するもので、サンプル数は1,220 万事業所に及ぶ。このQCEWを基に「County Employment and Wages」というレポートが四半期ごとに出されており、そのレポート内の雇用を見ることで年次改定値の参考値とすることが可能だ。

というのも、過去の実績から、年次改定後の非農業部門雇用者数(以下表「年次改定」)と「County Employment and Wages」で示される4-6月期の全米雇用者数(以下表「QCEW(Q2)」)はほぼ同じになることが多いからだ。

*1:年次改定前と年次改定後の各年3月の非農業部門雇用者数(季節調整済)
*2:年次改定幅=非農業部門雇用者数改定幅(年次改定後-年次改定前)

上記表内「年次改定前」と「QCEW(Q2)」から算出された2024年の改定前乖離率は1.5%と、他の年と比較してかなり大きい。ここからも下方修正の確率が高いことが分かる。

また、仮に年次改定で非農業部門雇用者数100万人の下方修正があった場合でも、改定後乖離率は0.9%となり、過去平均値0.4%には届かない。177万人の下方修正があって、ようやく0.4%となる。さすがにこれはないだろうが、いずれにしても大幅な下方修正が予想される。

最後に、フィラデルフィア連銀が発表するデータを見る。こちらもQCEWを利用して得られる全米各州の雇用数を指標として確定するまで、四半期ごとに作成・改定を繰り返していくものである。

そのフィラデルフィア連銀と非農業部門雇用者数のデータを比べてみると、直近乖離が進み、今回の年次改定の基準月となる2024年3月において、86万人のずれがある。よって、フィラデルフィア連銀のモデルが正しければ、86万人の下方修正が行われる。

さらに、比較可能な最新の数字である2024年10月においては157万人もの差が生じている。2024年4月以降の数字も年次改定に合わせて下方修正され、非農業部門雇用者数が100万人以上減る月も出てくるだろう。

また、フィラデルフィア連銀のデータでは既に雇用者数が前月比マイナスを記録している月もある。

事実、フィラデルフィア連銀の最新データでは、2024年Q2(4-6月期)においては、非農業部門雇用者数が年率1.1%のプラス成長に対し、マイナス0.1%が予想されている。

以上から、現在の非農業部門雇用者数は過大に算出されていると考えるのが自然で、2025年2月に発表される米国雇用統計の年次改定では非農業部門雇用者数のそれ相応の下方修正があると見るのが妥当だ。仮に100万人を超える下方修正があっても驚きはない。大幅な下方修正に伴い、フィラデルフィア連銀のモデルが示す通り、非農業部門雇用者数の前月比がマイナスとなる月も出てくるだろう。 

そして非農業部門雇用者数が前月比マイナスに転じていけば、過去の例からは景気後退となる。