昨年末に日本に帰国された谷本真由美さん(@May_Roma)に、今回も海外からの視点で見た日本の現状や課題についてお話を伺いました。
今回の記事は、その第2回目(全4回)です。(前回の記事はこちら)
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――ご子息はイギリスの小学校に通われていますが、イギリスと日本の学校を比べてなにか感じることはありますか?
日本の若者の間には閉塞感が漂っているように感じられます。電車の中で見かける若者たちは、全体的に活気が乏しく、無気力な印象を受けます。とくに就職活動中の学生や若い社会人においては、ストレスを抱えているように見えますね。ヨーロッパの若者と比べると、生活に対する明るさや楽しむ姿勢が不足しているように思えます。
他方で、大学教育についても、学生に対する要求水準が甘いと感じることも多々あります。特に、小学校段階から基礎的な生活習慣やマナーに対する指導が不十分な場面が見られ、その影響が大学教育にまで及んでいるように感じられます。
――授業内容やカリキュラムはやはり大きな違いがあるのでしょうか。
授業内容に目を向けると、日本の学校は全体的にユルい印象を受けます。授業時間が短くて、学習内容も軽めであるように思います。たとえば、体育の授業は形だけで終わっている場合が多くて、先生がただ指示を出すだけで、競技やスポーツの指導が十分とは言えないと感じます。
一方で、イギリスの私立学校、特に男子校では、体育や水泳の教育が非常に厳格です。4歳の段階から水泳が必修とされ、泳げない子どもには厳しい指導が行われます。深いプールでの訓練や全泳法の習得を求められることもあり、生徒たちは実践を通じて競争心や精神力を鍛えられています。こうした厳格な指導は、歴史的背景や伝統に基づいており、海軍の訓練を模した要素も含まれています。
また、競技スポーツに力を入れていて、クリケットやフットボール、ラグビーといった競技は専門のコーチが技術指導を行っています。成績やスコアは学校間でも共有されていて、競争の激しい環境で育てられることが特徴です。このような厳しい環境で育った子どもたちは、日本の学校で学ぶ生徒たちと比べて精神的にも身体的にも強くなるのではないでしょうか。
ただし、日本の学校でも徐々に変化が見られるとの報告もあります。それでもなお、日本の教育環境にはさまざまな課題が残されています。親の過保護や教師の指導力不足、さらには教育設備の不十分さが挙げられます。また、社会全体の価値観の変化も影響しており、子どもたちの自主性や競争心が育ちにくい環境になっているように思います。
――日本の教育現場では、親が学校や教師に対して過剰に干渉する「モンスターペアレンツ」の問題が深刻です。教師が親からの圧力を受け、十分な指導ができない状況が増えていると聞きます。
イギリスの学校では、生徒に問題行動があった場合、まず学校側が問題行動を記録して報告書にし、証拠が溜まったところで保護者を学校に招いて話し合い改善策を提案します。改善が見られなかった場合は再度文書で警告があり、さらなる改善が必要な場合は、保護者が子どもを専門家に見せて診断を受けます。そして診断に沿ってカウンセリングや訓練を受ける仕組みが導入されています。専門家による診断や介入、訓練は無料の場合もありますが、保護者が自費で負担しなければならない場合も多いです。費用は大変高く30分で1万円程以上かかります。生徒の行動や精神的問題の有無、障害の有無を現場の先生が評価するのではなく、かなり早い段階で外部の専門機関に委託し、結果が学校に報告される形となっています。
このような外部専門家が早期段階から介入する仕組みは、客観的中たちで生徒の行動を評価することで保護者に適切な介入を示唆し、さらにすべてのやり取りを文書化し、可視化することで訴訟や損害賠償問題を回避し、現場の教員や学校側を保護するために必要だと思いますが、日本ではまだ十分に整備されていない印象を受けます。
イギリスでは訴訟社会のため、こうした仕組みが比較的整っていて、学校が親とのトラブルを避けるための体制がしっかりしています。日本でもこうしたシステムを導入することで、教師が安心して指導に専念できる環境を整備すべきではないでしょうか。
――日本では先生のなり手不足が問題になっています。
イギリスも同様です。そのため公立の学校は教員候補者を確保するためにかつての日本の自衛隊の募集を超える強烈なリクルート活動が行われています。一旦連絡先を教えてしまうと延々と電話やメールでの勧誘が来ます。教員確保のために大学院の学位取得のため学費補助、危険地帯で教える場合は特別手当が出ます。教員は賃金が安い割には現場で命に関わるリスクに直面することが多いのでなり手がいません。特に経済的に困窮していたり移民が多い地域では、教師が暴力やハラスメントを受けるケースも少なくなく、殺害されることもあります。そのため、一部の学校には教卓の下に「パニックボタン」が設置されています。教壇の机の裏にボタンが貼ってあって、教員は危害が加えられそうになったら押して助けを呼びます。私の知人は教員でしたがそんな環境なので早々に退職しました。
(その3につづく)
【インタビュー】
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