【めいろまさんインタビュー④】イギリスの医療制度・社会保障について

昨年末に日本に帰国された谷本真由美さん(@May_Roma)に、今回も海外からの視点で見た日本の現状や課題についてお話を伺いました。

今回の記事は、その第4回目・最終回です。(前回の記事はこちら

――日本では社会保障の問題が山積しています。

もちろん、イギリスの医療制度も課題が多くあります。NHS(国民保健サービス)は基本的に無料で医療を受けられる仕組みですが、待機時間の長さが大きな問題となっています。さらに、財政的な制約から高齢者に対する透析やがん治療が一定年齢を超えると打ち切られるケースも見られます。このような状況は、地域による医療資源の格差も影響しており、国民からの不満が高まっています。

イギリスの医療制度は厳格である一方、患者にとって冷徹に感じられる場面も少なくありません。たとえば、延命治療を行わない方針が徹底されており、義理の父も「これ以上は治療できません」と告げられた経験があります。心臓に埋め込まれた除細動器も交換されず、結果として命を落とすこととなりました。このような対応を見ると、日本の医療とは異なる厳しさを感じざるを得ません。点滴すら行わず、「これ以上何もしない」という方針を目の当たりにすると、その冷徹さに驚きを覚えることもあります。

Kayode Fashola/iStock

――イギリスも健康保険料は高いのでしょうか。

イギリスでは基礎控除が12,570ポンド(日本円で約248万円)までで、それ以上の収入には所得税が課されます。年収250万円から1千万円ぐらいまでは20%、1千万円から2300万円までは40%、それ以上が45%です。雇用されている人の場合、年収252万円までは国民年金と公的健康保険をあわせた国民保険料(ナショナル・インシュランス)は無料で、年収252万円から995万円までは年収12%、年収995万円を超えると2%になりますが、その代わりに高額な所得税が課されます。一方、日本のような住民税(市民税や県民税)は存在せず、不動産の規模に応じた固定資産税のようなものが課される仕組みになっています。そのため、実質的な税率は日本より低い場合もあります。介護保険はありません。また年金生活になると国民保険料を払わなくてよくなります。日本では高齢者も払うので大きな違いです。

また、日本では健康保険料も含めて徴収が細分化されていて、一見税金とわからないようなものが徴収されます。例えば介護保険もうそうですし、健康保険や年金も実質税金のようなもの。しかも基礎控除が小さいので収入が低い人、年金生活者にはかなり厳しい仕組みです。イギリスの人からすると、日本の税金の仕組みはサッチャーさんが政治生命を絶つ原因となった人頭税(ポールタックス)と全く同じです。基礎控除が小さく、年収250万円以下の低収入でも国民年金、健康保険料、市民税、県民税、介護保険が免除になりません。この点で日本の税負担は全体として重いと感じられます。

医療制度に関して、日本は私立病院が多く、すぐに治療を受けられる環境が整っている一方で、医師の質にばらつきがあることが課題です。これに対し、イギリスでは医師の数が少なく、待機時間が長いものの、専門医になるための基準が厳しいため、優秀な医師が多いと言われています。

けれど、NHSは常に人員不足が深刻であり、移民の医療従事者が多くを支えています。その中には英語が得意でない医療従事者も含まれるため、対応の質にばらつきが生じることも課題になっています。

――光熱費などのエネルギー価格は落ち着きましたか。

エネルギー価格の高騰もいまだに生活に深刻な影響を及ぼしています。特にガス代が高騰しているため、セントラルヒーティングの使用にコストがかかります。イギリスではエアコンが普及していない家庭が多く、冬場の寒さをしのぐためにセントラルヒーティングを短時間だけ使用する家庭も少なくありません。このようなエネルギー価格の上昇は、イギリスの生活コスト全体を押し上げています。

断熱事情についても、日本とは異なります。イギリスでは断熱材の導入や家のリフォームには非常に高額な費用がかかります。たとえば、私の家で断熱工事を行い、屋根の交換や壁の補修も合わせて実施した際、費用は1,200万円以上かかりました。家の大きさや使用する素材によって費用は異なりますが、どの家庭でも断熱工事を行えるわけではなく、断熱対策が不十分な家庭も多いのが実情です。

イギリスの家屋は基本的にレンガや漆喰で作られていますが、古い家の壁は厚みがあり、断熱性能が高い場合があります。一方、新しい家はコスト削減のため壁が薄く、窓も小さいため断熱性が低いことが多いです。また、人工素材やプラスチック製の建材が多用されることで耐久性にも課題が生じています。

職人の費用も高額で、優秀な職人を雇うためには時給数万円を超えることもあります。ただし、イギリスでは職人の資格やスキルが明確に規定されているため、信頼できる職人を選びやすい仕組みがあります。これにより、家の売却時に工事内容が問題になることを防ぐ効果もあります。一方、日本ではこのような仕組みが整っていない場合もあり、施工の質にばらつきが生じることが課題です。

不動産価格についても、地域や物件によって大きく異なりますが、コロナ禍以降さらに値上りしています。良い物件を購入できる人とそうでない人との格差が広がっています。また、新しい家は断熱性が低いことも多く、古い家のほうが、結果的に住み心地が良い場合が多いです。ただし、古い家を購入する際には修繕やメンテナンスの必要性が高い点にも注意が必要です。

――本日は長時間ありがとうございました。

(了)

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