スパイ行為をアウトソースするロシア

今月7日、ロンドン在住のブルガリア国籍の男女3人がロシアのためのスパイ活動で有罪となった。英警察によると、外国が関与した「国内最大規模」の諜報活動の一つだという。

2020年から2023年にかけて、ヴァーニャ・ガベロヴァ被告、カトリン・イヴァノヴァ被告、ティホミル・イヴァンチェフ被告は、欧州各地でジャーナリスト、元政治家、ドイツの米軍基地などを監視していたグループの一員として活動していた。

英BBCはラジオ番組「ワールド・トゥナイト」の中で、ロシア人のジャーナリストで英国に亡命中のアンドレイ・ソルダトフ氏にその背景について聞いている。ソルダトフ氏はロシアの情報機関について数冊の本を出している。

プーチン大統領 クレムリンHPより

―今回のブルガリア人たちは、どうやってスパイにされたのでしょう?

ソルダトフ氏:そこが最も興味深い点です。冷戦時代、スパイがいましたね。非常に士気が高く、実際にロシア当局からスパイとしてのトレーニングを受けた人々でした。モスクワに指令を送る人がいて、スパイを管理していたのです。

今回スパイになった人々は違います。ロシアの情報機関の高官にトレーニングを受けて指令を与えられた人ではありません。(注:部外者をリクルートし、スパイ行為をアウトソースしている。のちに言及。)

―今回、スパイのターゲットになった人々を知っているのですね?
ソルダトフ氏:はい、知っています。(注:ターゲットになったのは、ロシアの調査報道ジャーナリストたちだった。)

―あなた自身がターゲットになったことはないのでしょうか。

ソルダトフ氏:私には警察の保護がありますから。今回のスパイのターゲットになっていなかったのだと思います。私の知る限りではですが。

もちろん、ロシアから亡命した多くのジャーナリストに強いメッセージを送ることになったわけです。ロシアのスパイのターゲットになるかもしれないぞ、と。

―2022年2月のロシアのウクライナへの全面侵攻以来、ロシアのスパイ工作の状況は大きく変わったのでしょうか。

ソルダトフ氏:完全にそうです。残念なことですが、はるかに攻撃的になり、はるかにリスクを取るようになっています。ウクライナ戦争開始後の2022年、多くのロシアの外交官らが英国を含む欧州諸国から追放されました。外交官という隠れ蓑があった人たちです。

ロシアの情報機関はスパイ網を再結成する道を見つけたのです。新しい使命を見つけたのです。ロシアとは全く関係ない人々をスパイとして使うわけです、今回のように。

今回有罪になった人々はロシアの国民ではありませんし、外交官という隠れ蓑もない人たちです。

ロシア当局はこうした人々のスパイ行為が発覚して、国外追放になってもかまわないと考えています。私たちがもうすでに知っているように、ロシアのプーチン大統領はこうした人々が逮捕されても気にしません。特別な手段を使ってモスクワに呼ぼうともしません。人によっては、モスクワに連れてくることもあったのですが。

―欧州全体では、このようなスパイ網はどれぐらい広がっているのでしょうか。

ソルダトフ氏:欧州全体でははるかに多く、かつ危険な例が散見されています。ドイツでもそうですし。

ただ、問題となるのは、西欧側がこのような攻撃に対してまっとうな対抗策を打ち出せていないことです。というのは、冷戦時代、ロシア(注:当時はソ連)の情報機関はこのような破壊攻撃を行っていませんでしたので、西側はどうしたらよいか、答えがないのです。

ーロシアの破壊工作というのはどういうものでしょうか。

ソルダトフ氏:ロシアの情報機関などが実行しますが、それほど洗練されておらず、特に優れたものでもないように思えるでしょう。工作の目的は物理的に建物などを破壊したり、個人を攻撃したりすることだけではありません。目的は、メッセージを送ることなのです。

つまり、これからもっと産業や人を守るためにリソースを割かなければならないと思わせて、経費をかけさせることです。ウクライナへの支援金を増やしたり、亡命者を守るためにもっとお金をかけなければいけない、という流れになることです。こうした工作はこれまでに成功してきたのです。

今年2月、ロンドン市内のイベントで話すソルダトフ氏(筆者撮影)


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2025年3月21日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。