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1. 経済活動別の総固定資本形成
前回までは日本企業の投資(総固定資本形成)や、その減価分(固定資本減耗)についてご紹介しました。
国民経済計算(SNA)では、企業、家計、政府などの経済主体別の統計データと、製造業、サービス業などの経済活動別の統計データが集計されています。
今回は、日本の経済活動別に見た投資(総固定資本形成)や固定資本減耗についてご紹介します。

図1 経済活動別 総固定資本形成
OECD Data Explorerより
まずは、経済活動別に見た総固定資本形成から見ていきましょう。
図1が日本の経済活動別総固定資本形成です。
この中には、民間による投資もありますが、公的機関による投資も含まれますのでご注意ください。
特に、電気・ガス・空調供給業や、運輸・倉庫業(港湾、道路、橋梁など)、公務は公的な側面も大きい投資と考えられそうです。
数値を見ると、やはり製造業が断トツで投資の多い経済活動と言えそうですね。
2022年で全体で145兆円の総固定資本形成がありますが、そのうちの4分の1程度が製造業によるものとなります。
また、不動産業の総固定資本形成も多いです。
もちろん、不動産での運用目的の投資も多いはずですが、この中には家計による持ち家分も含まれます。
SNAでは、家計は自営業として不動産業を営んでいる事になります。
製造業はアップダウンしながらも一定の投資が続いていますが、不動産業、公務、電気・ガス・空調供給業は1990年代の水準からすると大きく目減りしている事になります。
公共投資や住宅投資が減少している事とも大きく関係していそうですね。
2. 経済活動別の固定資本減耗
続いて、日本の経済活動別の固定資本減耗について見てみましょう。
投資が多く、固定資産残高の蓄積している経済活動程、その減価分である固定資本減耗も多くなるはずですね。

図2 経済活動別 固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより
図2が日本の経済活動別固定資本減耗です。
やはり製造業が最も多いようで、しかもやや増加傾向となっています。投資が多く、資産価値の減耗も大きい事が窺えますね。
不動産業も水準が高いですが、製造業と比べると横ばい傾向です。
総固定資本形成は減少していますが、固定資本減耗が横ばいとなっています。
不動産業で該当する固定資産は耐用年数が長く、固定資本減耗も長期にわたって均されている影響もあるかもしれませんね。
また、SNAの場合は企業会計的な減価償却と異なり、時価で固定資本減耗が推定されます。昨今の物価上昇を反映して、固定資本減耗も増えやすくなっているのかもしれませんね。
公務や電気・ガス・空調供給業も、総固定資本形成が減少している割に、固定資本減耗はやや増加傾向です。
それぞれの固定資産の償却期間や、物価の変動により固定資本減耗の挙動も変化すると考えられます。
総固定資本形成と固定資本減耗は必ずしも連動しているわけではなさそうです。
3. 経済活動別の純固定資本形成
最後に、経済活動別の純固定資本形成について見てみましょう。
純固定資本形成は、総固定資本形成から固定資本減耗を差し引いた、正味の固定資本形成による増減分を示します。
純固定資本形成 = 総固定資本形成 – 固定資本減耗
純固定資本形成がプラスであれば固定資産残高が増え、マイナスであれば減少する事を意味します。

図3 経済活動別 純固定資本形成 日本
OECD Data Explorerより
図3が経済活動別の純固定資本形成です。
アップダウンが激しいので、代表的な経済活動のみとしています。
製造業は1990年代からゼロ近辺でアップダウンしています。固定資産残高がちょうど釣り合う程度の投資と減耗があるといった推移となります。
一方で、不動産業、公務、運輸・倉庫業、情報通信業などは、1990年代のプラスの状況から、ゼロ近くにまで落ち込んでいます。
公務はプラスが維持されていますが、不動産業に至ってはマイナスの時期も多いようです。
4. 経済活動別の投資・減耗の特徴
今回は日本の経済活動別に、総固定資本形成、固定資本減耗、純固定資本形成についてご紹介しました。
製造業の投資が多く、なおかつ一定水準が維持されている事が特徴的です。
日本の製造業は名目GDPが減少していますが、投資水準が変わらず、実質GDPが増加している事になります。
投資が付加価値(価格 x 数量)の増加ではなく、数量(=実質)の増加に寄与している事になりそうです。また、公共的な投資や家計による住宅投資はかつてよりも減少しています。
これを反映して、不動産業、公務、電気・ガス・空調供給業なども純固定資本形成が大きく減少しています。
固定資産残高が減少しない程度の投資があり、現状維持が続いているといった状況と言えるのではないでしょうか。
経済活動別に見る事で、大変興味深い傾向がいくつも発見できたように思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年3月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。