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規制緩和が何でも良いことではない。規制があってこそ守られるものがあり、それが住環境にあっては最も重要なことである。
しかしながら、規制緩和が新たな公害発生につながることもある。
電力エネルギー政策や気候変動対策とは本来無関係な謎国策である薪ストーブ普及推進(SDGsでは個別バイオマス燃焼は削減目標であるのに何故推進するのか)による先進国の住宅地での煙害被害の増加という、この15年余で発生した事実が如実に示している。
本稿と次稿での論点は二つ有る。
「燃えやすい木造家屋に対する規制を大緩和」
「火元になり煙害発生源でもある薪ストーブ」
防火に関する規制緩和を利用(換言すれば濫用)し薪ストーブを流行させようという業界の意図と弊害について、これらを2回に分けて論ずる。
燃えやすい木造家屋に対する規制を大緩和
恐らく殆どの我々一般庶民が知らない(建築関係者や薪ストーブ関係者は熟知しているはず)であろうことを、敢えてここで指摘し明らかにし記録に残しておこうと思う。
多くの方々は、薪ストーブ導入が増えたのは東日本大震災の影響であると勘違いしているが実態はそうではない。
2000年に廃掃法の厳格化(いわゆるOpen burning of wasteの制限)が行われた以降にあっては住環境での木材燃焼汚染増加の起源は概ね2009年頃であり、東日本大震災は全く偶然にそれを後押しする「極めて不幸な」出来事になってしまっただけである。
その他にも2015年前後に日本にとって不幸な状況が欧米で起きたことも原因に有るが、これは別稿とする。
加え、薪ストーブはエネルギー・炭素中立政策とも無関係であることは、過去稿でも繰り返し述べてきたことである。
さて、問題の発端を探っていこう。
ここで、2009年2月27日に出された国土交通省告示を挙げておく。以下。
告示の概要
1.適用対象となる火気使用室
● 一戸建て住宅における火気使用室に限る。
※ 本告示は着火抑制性能に着目した技術基準であるため、着火後の急速な延焼拡大を防止する観点から、不特定多数の者の避難が想定される用途・規模の建築物や可燃物を多量に集積する車庫等については、本告示の適用対象外とした。
※ なお、一戸建て住宅であっても、住宅以外の用途に供する部分の面積が大きい兼用住宅、無窓居室を有する住宅は、本告示の適用対象外としている。2.適用対象となる火気使用設備
● 加熱の状況が比較的よく把握できており、かつ、ログハウス等の木材を内装に使用している一戸建て住宅において一般的に用いられる火気使用設備として、こんろ、固定式ストーブ、壁付暖炉、いろりに関する技術基準を整理し、本告示の適用対象とした。3.規制の概要
● 火気使用室は、火災の発生の危険性が特に高い室であることから、避難安全性を確保すると同時に出火の危険性を低減するため、内装制限の適用対象となっている。【令第128条の4第4項】
● 現行基準においては、火気使用室全体の内装を準不燃材料とすることとしている。【令第129条第6項】
● 本告示は、火気使用設備周辺とそれ以外の部分における着火リスクの違いに着目し、火気使用設備周辺については不燃材料による内装の強化や遮熱板の設置等の措置を要求する代わりに、それ以外の部分については木材や難燃材料による内装を許容するものとした。
● なお、本告示は、令第129条第1項第2号ロにおいて規定する「(準不燃材料でした)仕上げに準ずるものとして国土交通大臣が定める方法により国土交通大臣が定める材料の組合せ」として制定するものである。4.施行期日
● 平成21年4月1日
※ 確認審査を行う建築主事・指定確認検査機関に対する周知に要する期間として、公布後、約1ヶ月の猶予期間をおくこととした。
即ち、従前ログハウスは「防火地域及び準防火地域並びに建築基準法第22条第1項の指定区域内」での建設が禁じられていたが、この改悪では当該規制地域でのログハウス建築を一定条件の下で許可し、更には一気に木造建築物に対し「不燃材料」を薪ストーブ周辺(だけ)に施工することでよいとされてしまった。それも一般市民のほぼ知らぬ間にである。
これは、
「住宅密集地での木造家屋(就中ログハウス)の建築制限の緩和」
「木造家屋(就中ログハウス)での薪ストーブ設置条件の緩和」
即ち防火延焼対策をかなり緩和し安全を犠牲にしたことに他ならず、将来に禍根を残す、人災を積極的に呼び起こす大改悪である。
もっと簡略化すれば、「場所を問わず最低基準を満たせば薪ストーブ付き木造家屋・ログハウスを自由に建ててよい」ということであり、先人たちが工夫努力して作り上げてきた「燃えにくい街」を一気に破壊せしめんとする暴挙である。
有機物たる木材は無機物と違って難燃加工(建材は乾燥している上に防腐剤・化学薬品の注入処理がされている点を思い起こす必要がある)をしても確実に燃え尽きるし、不燃材料(鋼板等)の裏に木材があれば例え一定の空隙があったとしても熱伝導により長時間の高温曝露で炭化し低温発火に至る事例は既に広く知られているはずで、実際に薪ストーブ家屋の煙突付近の木造部分から発火した全焼火災の例も存在する。
しかもこのこっそり改悪で更に恐ろしいのは或る業者の解説によると「最上階であれば薪ストーブ周辺の壁・天井の素材に規制はない。」と記されており、それが真実であるならもはや意味不明で殺人的な規制緩和を国土交通省が実行してしまったことも特に指摘しておきたい。
最近でも山陰地方で薪ストーブ家屋からの失火火災が報道されたが、薪ストーブが設置されていなければ起き得ない火災であり、コンロ等のような調理時のみの火気ではなく長時間燃焼が常態である薪ストーブを住宅密集地で設置使用することは、近隣家屋に対しての火災類焼脅威・リスクレベルを積極的かつ有意に高める行為でもある。
さらには、石油・ガス・電気を使用或いは併用した暖房器具には自動消火装置が装備されているが、薪ストーブにはそれは全く無いし燃焼器具に対する法規制も全く無いことも、特に留意すべき重大問題であろう。
ここで思い起こすべき点がある。昨今流行増加している「お洒落な欧米型の薪ストーブ」はそもそも、欧米諸国で未だに多い石や煉瓦等による建築物に、建物固定の暖炉に代わって設置されることが主に想定されている燃焼器具である。
石は燃えないが木材は燃える。日本で未だ多い木造家屋に、防火基準を大緩和しこれらの開放型燃焼器具を許容し積極的に「炭素中立・気候変動対策」だと言い推奨する政府(就中、国土交通省・環境省・農林水産省)の姿勢に大きな疑問を呈しておく。
日本では放火は民事刑事共に重責を問われるが、それとは違って「開放型燃焼暖房器具を使用した末の失火類焼」に対しては、原則として火元は何の責任も負わなくてよいという法制度の恐ろしく致命的な欠陥があり、近隣家屋にとっては(特に住宅地では)薪ストーブ付き木造家屋は現代の住宅事情を勘案すれば、あらゆる面で脅威となる存在であることは疑う余地が無い事実である。
昨今の住宅火災を見ていると、「発火元がこんなによく燃えて、延焼もしやすいのか?」と思うことが多いのだが、この規制緩和による悪弊が出ていないだろうか、関係諸官庁はしっかり客観的検証をして、庶民を安心させて欲しいものである。
なお、住宅地で容易に他者がアクセス可能な場所に薪という可燃物を大量(トン単位)に積載保管することのリスクも強く指摘しておく。薪切り騒音の件は既知と思われるので本稿では敢えて述べないが問題点としてだけ挙げておくので、騒音系被害に詳しい諸氏に議論を委ねておきたい。
この規制緩和は煙害問題を誘発する契機になってしまったのであるが、これは次稿に続けたい。
編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2025年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。