野党各党の消費税「減税案」は愚民政治家の知能テスト

池田 信夫

参議院選挙が迫り、目ぼしい政策のない与野党がそろって消費減税を大合唱し始めた。トランプ関税で世界的に金利が上がり、金融危機のリスクが大きくなっているとき、財政赤字を増やして金融危機を起こすつもりなのか。

財源のあやふやな国民民主

消費減税の先頭を切ったのが、国民民主党の玉木代表である。昨年の総選挙で「103万円の壁」キャンペーンが大ヒットしたので、今度は消費減税で2匹目のドジョウをねらおうというわけだ。

最初は「赤字国債をちゅうちょなく出せ」と言っていたが、財源を示さないのは無責任だという批判を浴びると「暫定的な財源」を考えると言い始めた。 その財源の中身はわからない。

「短期的な物価高対策」として2年だけ一律5%に下げ、インボイスもなくすというが、そんなことはできない。そもそも消費税という税の根幹の大改正には税調の答申が必要で、急いでも来年4月からである。当面の物価高対策にはならない。

橋本内閣で1997年に消費税を5%に上げてから、2019年に安倍内閣で10%に上げるまで22年もかかった。今度も10%に戻すには22年かかると予想するのが普通である。「法律に2年と書く」というが、安倍内閣は法律を改正して増税を延期した。

食品の税率をゼロにしろという維新

国民民主に追随したのが維新である。高校無償化を条件に予算を飲んだため、与野党交渉でも相手にされなくなったので、今度は消費減税だ。これも2年限定で「食料品の税率をゼロに下げろ」という。

本当に複数税率にそんな効果があるのだろうか。チャットGPTに聞いてみた。

  • イギリス:食料品のVATはゼロ税率。研究によると、全体としては若干の再分配効果が認められるが、費用対効果は悪い。
  • ドイツ:食品に7%の軽減税率(標準は19%)。低所得者層ほど負担軽減率が高いが、再分配手段としては効率が悪い。
  • OECD・EUの評価:ゼロ税率や軽減税率は貧困対策としてのターゲティングが不十分。再分配効果はあるが非効率的で、直接的な現金給付の方が望ましい
  • 複数税率は税収が減り、事務が煩雑になるコストが大きく、その再分配効果はほとんどないので、スウェーデン・デンマーク・フィンランドでは税率を一律に戻した

関税で困っている輸出企業の「還付金」をなくせという立民党

立民党でも消費税減税の動きが広がり、枝野幸男氏が「減税ポピュリズムに走りたい人は、別の党をつくればいい」と言ったのに反発して、馬淵澄夫氏などが「財源案」を出してきた。

馬淵氏の案では消費税を小売売上税に変え、税率を一律5%にするという。このとき輸出還付金8.4兆~9.6兆円がなくなるので「理論上、小売売上税へ転換しても税収は変わらない。必要財源5兆円程度で、5%に減税することが可能になる」という。

これは誤りである。課税対象を小売店だけにすれば税額が減るのは当たり前で、メーカーや卸は非課税になる。今は輸出メーカーが部品メーカーなどに消費税を払っているので、それが輸出されるとき払い戻されるが、メーカーが非課税になると還付金もなくなる。

これは「財源」ではない。輸出還付金は普通の仕入税額控除と同じで、今の消費税額に含まれている。売上税にしたら「必要財源5兆円」ではなく、輸出企業の払う8.4兆~9.6兆円が減収になり、合計14兆円の財源が失われるのだ

多段階の消費税はメーカーから小売店まで公平に負担し、税金のごまかしをなくす第2法人税である。これを小売店だけが負担する売上税にしたら小売店は廃業し、商店街は消滅するだろう。そもそもトランプ関税で困っている輸出企業の還付金をなくして「輸出税」をかけようという発想が倒錯している。

法人税と所得税を増税する「減税案」

もっと笑えるのは、この「減税案」である。

未公表の隠し金11兆7645億円」と書いているが、これは上にも書いた還付金で、消費税収はこれを差し引いた額が計上されているので、隠し金でも何でもない。これは36年前に消費税ができたときから変わらないしくみだが、それを今ごろ「隠し金」と称して大発見のように記者会見で発表するのは噴飯物である。

この提案はよく読むと「法人税と所得税を20.1兆円増税して4.4兆円増収になる」と書いている。つまりこれは減税案ではなく、れいわ新選組や共産党も主張する法人税の増税案なのだ。

これが日本の国会議員の知能程度である。この提案は学生のレポートでも落第する代物だが、政治家の知能テストには使える。ちょうどこの江田一派の議員の一覧表があるので、今度の選挙で投票してはいけない議員のリストとして便利だ。