隈研吾氏の建築が、問題となっている。栃木県の「那珂川町馬頭広重美術館」は木材の劣化が激しく、群馬県の「富岡市役所」では、さびや塗装剥がれが確認され、隈氏の設計事務所が修繕費を負担する事態にまで発展している。
「木造建築」のイメージが強い隈氏だが、代表作の多くは木造ではない。
例えば、新国立競技場は木造ではない。全体は鉄骨造であり、木造に見える屋根は、鉄と木のハイブリッドである。高輪ゲートウェイ駅の外構を彩るのも「木」ではない。木目模様が印刷されたアルミパネルである。タワーマンション「武蔵小杉タワーズ」に至っては、木は比喩表現だ。二棟の高層マンションは「二本の木」なのである。
隈氏は木造建築について、以下のように述べている。
「木造建築を手がける際に、木材の良さを活かす、自分なりの工夫みたいなものとして、『正直さ』というものを大事にしています。隠すのではなく、正直に見せるというのが秘訣だと思いますね。やはり日本の建築の美というのは『材料の正直さ』あるいは『構造を正直に見せる』─そういうところにあると感じて思います(原文ママ)」
木造建築ノスゝメ① | 木材を活用する専門家たち | 多摩産材・国産木材製品紹介サイト(都庁HP)
はたして、隈氏は、材料や構造を「正直に」見せることができているだろうか。氏が手掛けた「新国立競技場」「高輪ゲートウェイ駅」「武蔵小杉タワーズ」を詳しく見てみよう。

ザ・パークハウス
武蔵小杉タワーズ公式サイトより
新国立競技場の木材
先に述べた通り、国立競技場は木造ではない。鉄骨造である。これを、隈氏は「木と鉄のハイブリッド構造」あるいは「混構造」と表現している。
「屋根の部分が『混構造』になっているわけです。『混構造』なのですが、主役が木、鉄骨が脇役に見えるようにしました。(中略)簡単にいうと、鉄骨を間に挟み、外に見えるところは木にしました」
木造建築ノスゝメ① | 木材を活用する専門家たち | 多摩産材・国産木材製品紹介サイト(都庁HP)

施設概要 | 国立競技場公式サイトより
屋根部分は、観客席から一望でき、最も「日本らしさ」を醸し出している箇所だ。一見、木造に見えるが、鉄骨が挟み込まれており、屋根を支えるのも、この鉄骨である。木材は、構造体※ではなく、法的には「装飾」として扱われる。私たちが競技場で目にする木の大半は「装飾」なのだ。
※ 構造体(こうぞうたい)とは、建物を支える骨組み部分のこと
高輪ゲートウェイ駅の外構
高輪ゲートウェイ駅の外構の多くは木材ではない。木目模様が印刷されたアルミパネル「アートテック(大日本印刷)」が使われている。隈氏は以下のように述べている。
「高輪ゲートウェイの場合では、本物の木を使っている部分とアートテックを使った部分が混在しているんですけど、実はほとんど分からないんですね。見た人は」
スペシャルインタビュー 隈研吾からみたARTTEC 建築のこれからの課題|DNP Official【大日本印刷株式会社】

建築実例‐高輪ゲートウェイ駅|アートテック-アルミ外壁パネル・内外装建材-
DNPウェブサイトより
確かに、アルミパネルだとは全く気付かない。
駅は他の建築以上に耐候性が必要とされる。隈氏が、アルミパネルを使う理由は、耐候性が高く、メンテナンスが楽で、木と同じような質感・表情があるからだ。2013年の玉川高島屋施工でこの製品を採用して以来、頻繁に使っているという。
ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズのコンセプト
「木の質感」を重視する隈氏は、マンションに対して辛辣である。
「コンクリートの『マンション文化』というものが、日本人のセンスを破壊したと、ぼくは思っています」
『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか-建築家・隈研吾の覚悟』隈研吾 著/日経BP社
狭い間口なのに一定の間取りを確保して、仕上げに大理石を貼ったりして、高級マンションのように見せかける。テクスチャマッピング(素材を模した画像を表面に貼り付けること)みたいな手口で、質が伴わない空間を高級だと思わせる。そんなことをマンション業界はやってきた。そのビジネスによって、日本人の教養の一部が破壊された、という。
にもかかわらず、氏は高級マンションをいくつか手掛けている。その一つが「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ(三菱地所株式会社)」だ。
プロモーション映像は、まるで新海誠のアニメーションのように美しい仕上がりである。
貸し切りのキッチン付スカイビューラウンジ、夜景の輝きでゲストをもてなすゲストルーム、そしてパーティールーム。超高層タワーマンションならではの、豪華絢爛な施設が充実している。地上50階建2棟の1,438戸に対し、事前案内のエントリーは10,000件を超えているという。
このタワーマンションについて隈氏は以下のように語っている。
「建築物を作るというよりは、二本の大きな木を作りたいなっていう風に考えたんですね。二本の大きな木、その足元の大地。それを含めて人間の住処としてデザインしたいな、という思いが今回の形につながりまして」
(当然だが)「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」は木造ではない。木は、比喩表現だ。二棟の高層マンションを「二本の木」になぞらえている。コンセプトは「大地から生える二本の大樹」。その暮らしに根付いて育つ大樹のような存在を目指すという。
齟齬を防ぐために
新国立競技場の「装飾としての木」、高輪ゲートウェイ駅の「木の模造」そして 武蔵小杉タワーズの「比喩としての木」。隈氏の作品を見てきた。どうだろう。構造や材料が「正直に」見せられているだろうか。
氏は、木造や木といった言葉を、かなり「幅広い」意味で用いているように思える。よって、齟齬が生じやすい。クライアントとして接するとなると、その可能性はさらに高まる。発注にあたっては、相応の知識が必要となるだろう。
現在、愛媛県宇和島市で、隈氏が設計した「伊達博物館」の工事が進んでいる。建材として、伊達家ゆかりの竹や藩造林・泉貨紙など、宇和島ならではの素材が使われる。一方、総事業費が56億3000万円と高額であるため、反対デモも起きているという。市には、建築家・施工業者と積極的にかかわり、先の「那珂川町馬頭広重美術館」と同じ轍を踏まないようにしていただきたい。

新伊達博物館建築設計業務 設計説明書
宇和島市ホームページより