(前回:SoFi鍵を握る「金融サービス事業」深掘り(中編):LPBはゲームチェンジャー!?)
前編・中編を通じて、SoFiの金融サービス事業において、LPB(Loan Platform Business)が強力な成長ドライバーであり、構造的にも他社の追随を許さない独自モデルであることから、「ゲームチェンジャー」になり得ることを確認してきた。しかし、SoFiの金融サービス事業の可能性はLPBにとどまらない。
後編では、預金口座サービス「Money」を中心に収益インフラとしての機能、純金利マージン(利ざや)の驚異的な高さ、さらには次なる成長エンジンとなる事業群(インターチェンジ手数料、暗号資産、ブロックチェーンなど)を多角的に分析していく。
Money(銀行口座)
金融サービス事業のアカウント数をみると、Moneyは順調に増加し548万口座で、全金融サービスアカウントの40%を占めている(2025年第1四半期時点)。
※ Money(銀行口座)、Relay(財務管理ツール)、Invest(投資)、Credit Card(クレジットカード)、At Work(学生ローン返済支援や財務教育などの企業向け福利厚生サービス)、Referred Loans(ローンの仲介サービス)
預金は金利収入を生み出すと同時に、SoFiの収益エンジンを支えるインフラとして機能している。具体的には以下となる。
預金からの余剰資金は短期米国債などで運用されて金利収入を発生
預金残高の増加に伴い、運用益による金利収入も拡大している点は見過ごせない。2025年第1四半期末時点で預金は273億ドル、2025年第1四半期に稼いだ金利収入は1.7億ドルとなっている。
預金は資本市場からの調達より低コストであるため、ローン事業の高収益化に貢献
2025年第1四半期の銀行業界の平均純金利マージン(NIM:Net Interest Margin)は3.25%である。
※ 純金利マージンは、(貸出による利息収入-預金などに対する利息支出)÷利息を生む資産(貸出残高など)で計算される。
一方、SoFiの2025年第1四半期の純金利マージンは「6.01%」と、業界平均の倍近い驚異的な水準で思わず目を疑うほど高い。これは高金利の個人向けローンを主力とするなど、資産全体に占める高利回りのローン比率が高く、伝統的な低金利資産をほとんど持たない一方で、高コストな社債などに頼ることなく、低コストで調達した預金を活用しているためである。
※米国銀行業界平均値はFDIC Webサイトより抜粋
投資・ローン・クレジットカード・保険などの幅広い金融サービスの中核
魅力的な高金利をきっかけに預金口座を開設するユーザーがいる一方、投資・ローン・クレジットカード・保険などの幅広い金融サービスから預金へつながるケースも多く、預金はサービスの起点であると同時にエコシステムの中核である。
※ Moneyに次ぐ37%を占める「Relay」は個人の財務状況を一元的に把握・管理する「無料」ツールのため、収益のけん引役になることは難しい。
今後の成長エンジン
ここからは今後の成長エンジンを探っていく。
インターチェンジ手数料
「Money」および「Credit Card」からの収益として期待できるのがデビットカードおよびクレジットカードの利用によるインターチェンジ手数料の増加である。
支払いと同時に銀行口座からお金が引き落とされるカード。プリペイドカードのように事前チャージが不要で、「使った瞬間に引き落とされる」シンプルな仕組みが特徴。残高の範囲内で使えることによる「使いすぎ防止」の安心感があり、米国では非常に一般的な決済手段で、クレジットカードよりも日常の細かな支払いに使われる傾向がある。
デビットカードやクレジットカード利用時に発生する加盟店手数料の一部をカード発行会社(=SoFi)が受け取る手数料のこと。
SoFiもデビットカードやクレジットカードを提供しており、まだ絶対値が低いため、収益のけん引役にはなっていないが、今後会員や預金が増えるにつれ、インターチェンジ手数料も着実に大きくなっていく(2025年第1四半期は対前年比90%増)。
※ インターチェンジ手数料は2025年通期で1億ドル程度になると思われる。1億ドルに達すればSoFiの全売上の3%程度となる。
なお、投資フェイズにあるクレジットカード事業は「年間1億ドル以上の損失を計上している」とCEO Anthony Notoは述べており、この損失がプラスに転じていけば、利益貢献につながるが、利益貢献には1~2年程度はかかるのではないだろうか。
暗号資産およびブロックチェーン事業への参入
SoFiは2025年末までに暗号資産およびブロックチェーン事業に参入する予定だ(SoFiは銀行免許の取得に伴う政府の監視強化により、2023年に暗号資産サービスの提供を中止したが、トランプ政権下の規制環境の変化を踏まえ、今回は再参入となる)。
この参入は、取引手数料や預かり資産の増加による収益拡大に加え、即時送金などのサービス向上、さらには若年層を中心とした顧客獲得やブランド強化に寄与する。また、競合他社との差別化を図り、市場拡大や投資家からの評価向上が期待できる。
今後の成長エンジンとしては、ほかにもInvest(投資)や海外進出などが考えられるが、いずれも今すぐ利益をけん引することは難しい。しかし、1~2年後にはLPB同様、金融サービス事業をけん引していく新たなビジネスが出てくることだろう。成長の種はあらゆるところにまかれている。
次回は『SoFi成長の屋台骨を担う「ローン事業」に追い風-復調する学生・住宅ローン-』をお届けする。
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