参政党が大きく議席を伸ばす可能性があると言われている今、その主張をあらためて中立的に検討するために「参政党三部作」を書いた。
テーマは以下の三つだ:
私の評価としては、参政党のような考えを持つ政党が少数存在するのは、政治的多様性の観点からも悪いことではない。れいわ新選組や日本保守党よりは、はるかにまともである。
また、憲法や国民主権に対する批判の一部には、揚げ足取りの印象すらある。
たとえば「参政党は徴兵制を主張している」という噂があるが、これは東京選挙区の候補・さや氏が「徴兵制は…すごく大事」「核武装が最も安上がり」と語ったことをもとに、SNSで流布されたものである。
しかし、さや氏自身が明確に「導入すべき」と述べたわけではないし、党の政策文書にも徴兵制についての記載はない。単に「国を守ることの大切さ」に一般論として触れたにすぎず、文脈を外れた一人歩きの印象が強い。

さや氏 吉川りな氏Xより
ちなみに、憲法で徴兵制が禁じられているという通説に疑義を示した現職政治家は、鳩山由紀夫氏と石破茂氏くらいである。
経済政策に関しては、参政党は積極財政を唱えてはいるが、財政規律を完全に無視しているわけではない。
松田学氏の「松田プラン」は、「公明党・岡本三成ファンド」との比較でその独自性を論じた(拙稿「二つの財源構想を比較する」参照)。
しかし、問題は、守旧的な勢力が参政党に流入し、時代錯誤な政策を持ち込んでいる点にある。
市場経済や自由貿易のメリットを軽々しく否定し、国際的な報復を招きかねない排外主義的政策を掲げる姿勢は危うい。
一般国民を農協、郵政、公共事業といった利権団体の餌食にし、まるで中南米型の社会主義国家のような構造を目指しているようにすら見える。
たとえば郵政。再公営化が視野に入っているようだが、民営化前の郵便貯金・簡易保険は、財務省の監督外で不透明な運用が行われ、金利競争や裏金流用で異常に肥大化した過去がある。それを「復活」させようというのは暴論に等しい。
本稿の本題である農業政策もまた、深刻だ。
参政党は「2050年までに食料自給率100%を目指す」としており、有機農業への全面移行も掲げている。だが、どの作物をどれだけ生産すれば可能なのか、具体的な方策は示されていない。
AIに設問を変えながら何度も尋ねても、現実的なプランは「見つからない」としか返ってこない。
有機農業の拡大には私も賛成だが、全面移行は無理がある。実際、スリランカの失敗例がある。政権が一気に有機農業に転換しようとした結果、土壌が疲弊し、病害虫が広まり、食糧危機に陥った。
さらに、農協解体に反対する根拠として「郵政民営化の失敗」を挙げているが、民営化で預金が民間金融機関に流れたのを「17兆円が消えた」と主張するのは、事実に基づかない印象操作である。
農協は非効率な兼業農家モデルを温存し、機械や農薬を過剰に売りつけ、農家の本業たる給与所得からも搾取する構造を作っている。
さらに、農業従事者の「公務員化」まで唱えているが、まるでソホーズ(旧ソ連の国営農場)やコルホーズ(集団農場)を思わせる。
仮に本気で「食料自給率100%」を2050年までに実現したいなら、どんな手段があるのか。AIですら思いつかないというので、私なりに極論を並べてみた。
「食料自給率100%」を達成するための“極論”4案
- 人口を江戸時代並みに3分の1に減らす
参政党は反ワクチン・反製薬的な発信も多い。標準医療を否定すれば、感染症の流行で自然と人口は減るかもしれない。 - 昆虫食・合成食料・水耕飼料で飢えをしのぐ
石油やミネラルから飼料を作り、ドングリやコオロギ、芋を食べて生き延びる。水耕農業の海上拡張なども構想に入るか。 - 農業を完全に工業化する
遺伝子改良と垂直農法で生産性を爆上げ。しかし、自然農法好きの参政党支持者には受け入れられないかもしれない。 - 新たな領土の獲得
オーストラリアの半分を分けてもらえば可能かもしれない。現実性は皆無だが、理屈としては成立する。
いずれにせよ、莫大な財政支出と貿易制限、補助金漬けが必要になり、米国をはじめとする各国の報復は避けられない。
輸入制限に対しては、農産物のみならず、自動車の輸出にもブレーキがかかる可能性がある。
参政党の財政政策もしかり。日本が産油国だったり、米国のような軍事大国であれば一時的な財政無理も可能だが、日本はどちらでもない。
かつては、非効率な農業・郵政・医療・土木に財政をつぎ込めたのは、電機・自動車といった外貨を稼ぐ部門が支えていたからだ。今やそれも細っている。
残された競争力ある産業のひとつはインバウンドだが、それさえも「外国人が多すぎる」として抑制したがっている。
また、単純労働者の受け入れを拒否する方針も矛盾している。農業や公共事業が若い日本人にとって魅力ある職業かといえば、答えは明らかだ。
かつて菅直人首相が「公共事業の代わりに林業で地域振興を」と述べたが、土木作業ですら敬遠されている現状で、山中で危険な林業をやりたい人など、ほとんどいない。

神谷代表 参政党HPより






