本日発売の新著『検証 令和の創価学会』(小学館)には、現代日本における最大の宗教である創価学会の真実や、自公連立政権の課題といった政治評論家的な時事的問題も書いている。
しかし歴史家としては、そうしたものを世界史的な観点から位置づけなければ論じる意味がない。従って、第三章は「釈尊から池田大作までの二千数百年の軌跡」と仰々しいタイトルになっている。
本日は、仏教、なかんずく大乗仏教がヘレニズム文明の生んだ宗教だという観点を紹介したい。それはまた、法華経をブッダの教えの神髄であると位置づける日蓮の流れの仏教、とくに創価学会がなぜキリスト教と相性が良く、世界での布教に成功しているかの背景説明でもある。
『137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史』(クリストファー・ロイド、講談社)では、世界史上の重大事件のひとつとしてアショーカ王による仏教の国教化を挙げている。釈尊よりこちらを選んだのが興味深いところである。
釈尊自身は新たな宗教を開いたとは思っていなかっただろうが、二世紀ほど後のアショーカ王が仏教に帰依し、インドを統一して国教としたことで世界に広まった。
釈尊はルンビニー(ネパール南部)で王子として生まれた。生没年は不明だが、アショーカ王生誕の100年ほど前、紀元前400年前後に死んだ説が有力である。
弟子たちや後継者たちが徐々に宗教としての体裁を整え、釈尊入滅100年後に生まれたとされるアショーカ王(在位前268~前232年)が国教とした。この王は、西洋ではアレクサンドロス大王死後のヘレニズム時代の人物であり、中国でいえば始皇帝より一世紀前の人物であるという視点が大事である。
如来立像 ガンダーラ出土 東京国立博物館蔵 Wikipediaより
彼はガンジス川中流にあったマガタ国の王子である。祖父チャンドラグプタが国王になったのは、北インドに侵入したアレクサンドロス大王が死んだ(前323)直後のことだった。大王の将軍セレウコスはソグディアナ(ウズベキスタン)の女性と結婚し、セレウキア(イラク)とアンティオキア(トルコ)を首都として西アジアを版図に収めたが、チャンドラグプタに象500頭と引き換えにインドの支配権を認めた。
アレクサンドロス大王の後継国家のなかで有名なのは、クレオパトラを出したエジプトのプトレマイオス朝だが、セレウコス朝やそこから独立したギリシャ人の諸王国も東西の架け橋として世界文明の発展に寄与した。
アショーカ王は継承のため多くの兄弟を殺し、さらに東部のカリンガ国を征服した際には数十万人を殺したが、これを機に人生観を変え、仏教へ帰依した。
彼はダルマ(法)による統治をめざし、殺生や肉食の禁止、年長者や父母を大事にすること、礼儀を正しくすること、布施をすること、奴隷や貧民を大事にすることを命じ、世界史ではじめて人類愛による統治を実現したと言われる。仏舎利を細かく分けて各地に塔を建て、第3回の仏典結集で教義の確立を試み、西方や南方への布教にも努めた。
この時代のインド文化はペルシャやギリシャの影響を受け、壮麗な宮殿や各地の円柱、岩壁を削って事跡を記した。アショーカ王の時代が世界史的にヘレニズム時代であることは、仏教の歴史を理解する上で大事である。
仏教は南方に伝わって上座(小乗)仏教となり、北西インドでは修行者自身だけでなく大衆を救済しようという大乗仏教が発達し、紀元前後にはハイバル峠をはさんだアフガニスタンやパキスタンでガンダーラ文明が栄えた。
紀元前2世紀には、ギリシャ人たちがアフガニスタン北部に建国したバクトリアが北西インドに南下し、メナンドロス(在位前155年頃~前130年頃。ミリンダ王)は仏教の僧との長い対話ののちに仏教に帰依した。
経典は釈尊の死の翌年に長老たちが集まった「第一次仏典結集」から始まり、四回の結集を経て体系化された。初期に成立したのは阿含経などだが、大乗仏教では一世紀頃に成立した法華経が釈尊の真意を探求した最終成果物とされている。
ギリシャ彫刻の技法で仏像がつくられ、日本にもその影響が及んだ。イラン系クシャーナ朝のカニシカ王(二世紀)は敬虔で模範的な仏教徒として現代日本でも尊敬され、池田大作の『私の人物観』でもアショーカ王と並んで取り上げられている。
イラン北部からトルクメニスタンあたりでは、バクトリアのあとパルチアが興り、西に進んでセレウコス朝からイランを奪い、その後文化が栄えたササン朝ペルシャの影響は正倉院御物にもみられる。セレウコス朝はやがてローマ帝国に滅ぼされ、そのローマの支配下のユダヤで誕生したのがイエス・キリストである。
仏教がその出発点からペルシャやギリシャの強い影響下にあったのは間違いない。しかし逆に仏教が西洋文明に影響を与えたという証拠はない。ヨーロッパでは、インド起源のアラビア数字やゼロの発見などもアラビア由来と考え、正確なルーツを意識していなかったため判然としないのだ。
しかしキリスト教のもつ人類愛は仏教と通じるものがあり、またギリシャ人たちがインドにも多く住んでいた状況を考えれば、影響がなかったとする方が不自然である。それが創価学会を含む仏教がキリスト教とも相性がよい理由だと思う。
目次
序文:日本人が知ろうとしない創価学会と公明党
日本最大規模の宗教なのになぜ知られていないのか
公明党が日本の中道政治を守っている
世界的な宗教冬の時代に創価学会インタナショナルが飛躍
創価学会は顧客満足度が高い企業に似ているという指摘
第一章自公連立の歩みと評価
自公連立が1999年に誕生刷るまでの戦後史
公明党の誕生から細川政権への参加まで
政教分離批判とデマ報道の試練を経て自公連立へ
自公連立政権が実現した政治の安定
小泉政権から民主党政権の時代
足して二で割るのではない前向きな自公の補完関係
安倍元首相は自公連立・創価学会を正しく評価していた
公明党が賛成しない憲法改正はほぼ不可能な理由
第二章 池田大作というカリスマを客観的に評価する
「三代会長」と「第3代会長」は違う
日本仏教史でもっとも偉大な宗教指導者のひとり
池田後継としての四代目はいない
なんと32歳で第3代会長になったわけ
創価学会インタナショナルの創立
小説『人間革命』を沖縄で執筆しはじめた意味
公明党の創立と政教分離の明確化
日蓮正宗との第1次宗門事件の苦い結末と全国行脚
晩年の池田名誉会長がどうしてもしたかった仕事
20の言葉から池田大作の人生観を考える
池田大作の対談、読書と人物観
第三章 釈尊から池田大作までの二千数百年の軌跡
日蓮宗・法華宗・日蓮正宗はどう違う
世界で初めて普遍的な愛を説いたアショーカ時代
ガンダーラ美術と大乗仏教の誕生
日本への仏教伝来は中国南朝から百済経由で
鎌倉・戦国時代の宗教改革から江戸時代の檀家制度での堕落
近現代日本の宗教地図~国家神道と新宗教の誕生
末法の時代における本仏・日蓮の生涯
日蓮系仏教の発展と牧口常三郎による創価学会の創設
戸田城聖第2代会長と池田大作との出会い
創価学会の教義と組織はこうなっている
創価学会員の日常と意外に軽い経済的負担
友人葬を普及させたことで葬式の簡素化に拍車が
宗教に二世問題など学会員子弟の教育を考える
芸能やスポーツをはじめ各界で活躍する創価学会の人々
第四章 公明党と創価学会の「読む年表」
戸田会長の時代に無所属で政界進出
公明党は政教分離のために結党された
宴会政治反対と藤原弘達・出版妨害事件の真実
池田会長の訪中と周恩来から託された思い
第一次宗門事件と社公民路線
自公連立政権と池田名誉会長の不在
第五章 現代世界における宗教と政治から考える「創価学会と公明党」
政治と宗教の関係についての世界の常識
欧米のキリスト教など宗教衰退の時代
現代日本での伝統宗教衰退と創価学会への期待
マスメディアは反宗教でなく、また、すべての宗教を公平に扱うべし
政教分離をめぐる公明党への非常識な攻撃の裏事情
裁判で嘘と認定された創価学会スキャンダルの真相
新教皇レオ14世が模範とするレオ13世と近代社会における教会の役割
ヨーロッパではキリスト教民主主義が大政治勢力
極端な直接民主主義が左右両極化を延ばし中道主義を危機に
日本発世界宗教としての期待とローマ教皇との対話の意義
模範的日本人・地球市民としての誇り
第六章 責任ある中道政治と公明党
「大衆とともに」という公明党の立党精神
教育政策に反映された仏教への精神
地球温暖化や原子力政策への貢献
クリーンな政治実現に大きな役割
公明党と政権構想
立憲民主党が野党第一党で安住する理由
維新はいいところに目は付けているのだが迷走
公明党が真ん中に座った政権はあるのか
責任ある中道政治は可能か
正直な大衆が報われる政治を
マイナンバーカードの活用で公正な社会を
法律も公文書もわかりやすい言葉で
道州制と300基礎自治体
地球民族主義が外交の基本
終章 石破内閣誕生後の政治と公明党
自民党の裏金問題と石破内閣の誕生
公明党不振の原因はなんだったのか
外交・防衛は直接の敗因ではないと思う
ネット戦略は明らかに遅れている
公明党議員はよい人ばかりだが
安部・管義偉・岸田・石破の4代の宰相と公明党
2025年参議院選挙の試練からどう立ち直るか
ポピュリスト政党への反撃
対話こそ人間の特権
日本と世界がより強く賢くなるために貢献を
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