早期退職が、みんなの理想のゴールになる理由

城 繁幸

昨年、皆さんが雇用関連でもっとも耳にしたテーマとはなんでしょうか。少子高齢化の影響で出現した空前の売り手市場ですか?それとも、ここ数年トレンドの続いているジョブ型雇用でしょうか。

筆者自身を振り返ってみると、意外に「早期退職募集」が多かった印象がありますね。特に過去最高益を叩きだす大企業が多い中で行われるそれは“黒字リストラ”などと呼ばれ、2000年前後の早期退職とはまるで異なる印象です。

というわけで、記念すべき2026年度一回目は「余裕のある企業が実施する早期退職、黒字リストラ」についてまとめたいと思います。

なぜ企業は儲かっているにもかかわらず今リストラをするのか。2000年代のそれとは何が異なるのか。そして、これから日本の雇用制度はどこへ向かうのか。

全てのビジネスパーソンにとって重要なテーマでしょう。

早期退職(黒字リストラ)は実質的な40歳定年制度

今から10年ほど前に、東京大学の柳川教授が「40歳定年制度」というものを提言して話題となりました。

【参考リンク】「40歳定年制」注目されて11年 「現状は当時より心配」と提唱者

「40歳定年制」注目されて11年 「現状は当時より心配」と提唱者:朝日新聞
 「40歳定年制」という名の提案を聞いたら、どんな印象を抱くでしょうか。経済学者の柳川範之さん(東京大学教授)はかつてそんな提言をして、「40歳で放り出すのか」との批判も浴びました。あれから11年。そ…

フォローしておくと「40歳で全員定年退職させられる」というわけではなく、40歳以降にそれまでのキャリアを振り返りつつ、第二の就職活動を行ってより自分に相応しい転職先に移る努力をした方が、個人も組織も長い目で見て幸せだろうというコンセプトですね。

これだけ変化の速い時代、数十年前に新卒一括採用で潜り込んだ会社で、たまたま受け持たされた仕事で定年まで飯を食うというのは難しいですから。

能力を発揮できないままボーっと過ごす期間が発生すれば、その人を定年まで雇わなきゃならない会社にとってはもちろんのこと、人生を空回りさせる本人にとっても、そしてその人材を産み育ててきた社会にとっても損失ですからね。

その後の2021年にサントリーの新浪社長(当時)が45歳定年制を提唱して大炎上話題になりましたが、これもコンセプトは同じと言っていいでしょう。

【参考リンク】軽率だった「45歳定年制」発言…言い方を工夫すれば炎上は避けられた

軽率だった「45歳定年制」発言…言い方を工夫すれば炎上は避けられた
【読売新聞】経済部デスク 五十棲忠史 サントリーの新浪剛史社長の「45歳定年制」発言が、インターネット上で批判にさらされている。45歳で強制的に退職を迫られる制度と受け取られたためだ。 今の日本で、定年退職の年齢を45歳に設定するの

これらの40代定年制度が形を変えて実現したものが、黒字リストラ=現在の早期退職募集だというのが筆者の見立てですね。

なぜ政府が法制化したわけでもないのに自然と実現したか。それは先述の一般的な理由以外にも、労働者と企業の双方にとって様々なメリットがあるから自然と成立したわけです。

ではどんなメリットがあるのか。

企業側のメリットについては言うまでもありませんね。

実質的な定年が(年金財政の都合で一方的に)65歳まで引き上げられ、70歳雇用が視野に入ってきた結果、従業員の人生ほぼすべて面倒見る余裕なんてなくなったためです。

でも個人的には、むしろ労働者の側のメリットの方が大きいと感じています。

雇用を保証しないといけない期間が長くなればなるほど企業は従業員の賃金を低く抑えないといけなくなりますから、賃金にはさらなる引き下げ圧力が加わります。

さらに年功賃金の場合、45歳以上は消化試合モードに入って働かない人も増加するので、さらに切り分けてもらえるパイの量は減ることになります。

当時55歳だった定年を90年代から断続的に引き上げてきた結果、30年間世界で唯一賃金が上がらなかった先進国ってどこでしたっけ?

そう、わが日本国です。それがさらにこの先10年20年続くのは誰だってイヤでしょう。

何より、70歳近くまで働くということは健康で自立した生活が送れるギリギリまで働くということです。人生のほとんどすべてを今の職場で費やし、今の上司や同僚と家族以上に同じ空気を吸って過ごすってことですよ。

普通はイヤでしょそんなの(苦笑)

というわけで、わかりやすくまとめると、

政府「あのさ、年金財政厳しいからみんな65歳まで働けよ。企業は70歳まで雇う検討しろよ」

企業「よし、こうなったら早期退職募集だ。70歳まで雇うことを考えれば3千万円程度の上乗せなんて安いもんだ」

労働者「もはや老後はない。だったら今やりたいことやってやる」

みたいな感じですね。

さて、そういう選択を迫られる中高年社員は、下の世代の目にはどういう風に映るでしょうか。

一番輝いて見えるのは、割増された退職金数千万円をゲットしつつ、颯爽とやりたい仕事に転職していく中高年でしょう。

確かに、ふってわいたようなジョブ化とインフレのトレンドで苦し紛れで準備不足のまま手を上げざるを得ない中高年も今はいっぱいいるでしょう。早期退職に応募したことを後悔する人たちの記事も、そのうちメディアに取り上げられるかもしれません。

でも、やはりこれからのビジネスパーソンが目指すのはそこだと思いますね。

というのも、早期退職に応募したくても自身の人材レベル的に出来ず、といって出世や賃上げもしてもらえぬまま、せいぜいタイミーで小銭を稼ぐくらいしか出来ないというコースには誰も行きたがらないでしょうから。

さらに言うなら、筆者はこれからFIREが40代以降の有力な選択肢の一つになると考えています。

定年なんて無い国ではある意味みんなFIREしているわけだし、先述のようにそもそも定年なんてお上の都合で後付けでつくられたなんちゃって節目でしかありませんから。

何歳まで第一線で働くかは、本人が自分の体力と資産状況、その後のライフプランを考慮して自由に決めていいはずです。

あと日本の場合、社会保険料の負担があまりにエグ過ぎて正社員で働くメリットが年々薄れていることも大きいです。

それらの事情から、FIREを視野に入れる人は今後も増加し続けると筆者は考えています。

そういうスタンスの人にとって40代以降でポンと貰える数千万円の割増退職金は、人生ゲームで一気に上がりまで行けて資産も増えるボーナスカードみたいなものでしょう。

これが、全てのビジネスパーソンにとって「早期退職への応募」が理想のゴールとなると考える理由ですね。

以降、
「新浪さんの45歳定年制発言」が大炎上してから5年で空気が一変したワケ
「早期退職なんてやっても優秀層が抜けるだけ」と言ってる会社は既に終わってます

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Q:「海外のジョブ型雇用も変化している?」
→A:「国民性みたいなものは薄れつつある気はします」

Q:「一部の維新議員の行っているとされる国保の節税スキームについてどう思われますか?
→A:「健康保険料を抑えるために法人の健保に加入というのは昔からありますね」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2026年1月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。