病院という聖域④:医療法人のまやかしの透明性・制度が生む不可視化の構造

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(前回:病院という聖域③:面会制限と財務のねじれ・日赤決算が示す構造

前稿で日本赤十字社(日赤)の決算を調べていて、ひとつの事実に気づいた。病院の透明性は、法人形態によって大きく異なる。その中で、病院の大多数を占める「医療法人」だけが、制度上きわめて見えにくい構造になっている。

日赤は公益法人、JCHOは独立行政法人であり、日本基準で比較的しっかり情報開示されている。だからこそ、JCHOの「幽霊病床」のように、不透明な部分があればすぐに問題化する。

しかし、医療法人は違う。制度の枠組みそのものが、医療法人の財務を極端に見えにくくしている。

医療法人の決算公開は「提出義務はあるが、罰則がない」

医療法は、医療法人に対して都道府県への決算書類の提出を求めている。しかし、ここに制度上の大きな穴がある。

提出しなくても罰則がなく、公開義務も存在しない。公開方法は自治体任せで、病院別収支や関連当事者取引の開示義務もない。

実務上は「提出してもしなくても、大きな不利益が生じにくい仕組み」になっている。これが透明性の虚構の出発点である。

公開方法が自治体ごとにバラバラで、国民はアクセスしにくい。

医療法人の決算資料は、自治体によって公開方法がまったく異なる。

PDF公開(ただし画像で検索不能)、病院内掲示のみ、役所の窓口で閲覧のみ(コピー不可)、過年度資料は破棄、そもそもどこにあるか分からない──。

「公開されている」と言いながら、実質的にはアクセスが極めて難しい。制度が意図的に隠しているわけではないが、結果として医療法人だけが極端に見えにくい構造になっている。

法人形態によって透明性はまったく異なる

同じ「病院」であっても、法人形態によって透明性は別世界になる。以下の表にまとめると構造が一目で分かる。

医療機関の透明性レベル比較
※上記は日本基準であって、国際基準としては独立行政法人の公開度であっても非常に低いレベルである。

医療法人は規模に関係なく透明性が最も低く、医療法人の透明性の限界を象徴するのが徳洲会である。なんと医業収益5999億円でも画像PDF1枚の公開である。

最新決算によれば、徳洲会の医業収益は5999億円に達する。収入の約8割は税金と社会保険料という公金である。それにもかかわらず、公開されている決算資料は画像PDFで、附属明細書も関連当事者取引も確認できない。病院別収支も存在しない。

これは徳洲会が悪いのではない。医療法人という制度の枠組みが、この透明性レベルを許容しているためである。

※上記は官報に掲載された決算公告

同規模の上場企業なら、100ページ超の開示が義務となる。徳洲会と同じ5000〜6000億円規模の上場企業を見れば、制度の異常性はさらに鮮明になる。

例としてオリエンタルランド(東京ディズニーリゾート運営会社)を挙げる。最新の年間売上は約5300億円で徳洲会と同規模だが、以下が法律で義務付けられている。

有価証券報告書(100ページ超)、四半期報告書、事業別セグメント情報、関連当事者取引の詳細、監査法人による厳格な監査、内部統制報告書、ガバナンス報告書──。

一方、徳洲会(医療法人)に開示義務はなく、自治体に決算を提出する義務があるだけである。義務はあるが提出しなくても罰則はない。公開方法は自治体によって違い、東京都のようにホームページで公開する自治体もあれば、役所でのみ閲覧可能という自治体もある。徳洲会の場合も決算公告の開示義務はないが、病院グループとしての社会的責任に鑑み、官報への掲載を選択したのであろう。

同じ6000億円規模の組織でありながら、透明性はまったく別世界である。

徳洲会ですらこの透明性である。では中小医療法人はどうか。

決算公告を提出していない可能性すらあり、公開場所が分からないケースも多い。自治体の公開ページに載っていないことも珍しくなく、行政指導リスクが低いため提出しない法人もあり得る。

制度上、「見えにくいのがデフォルト」である。

【次回予告】不可視化された財務は、なぜ診療報酬の議論を歪めるのか

医療法人の赤字は、必ずしも経営の苦境を意味しない。制度の外側に置かれた家族企業(MS法人)に利益が移れば、医療法人は簡単に赤字に見える。

その状態で「赤字だから診療報酬を上げろ」という議論が成立してしまう。

次回は、この「医療法人財務の不可視化」が、どのようにして診療報酬の膨張圧力を生むのか、制度構造として分析する。

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