イランの最高指導者ハメネイ師(86)が先月28日の米・イスラエル軍の空爆で死亡したという。イランの国営放送、IRNA通信は1日、ハメネイ師の死を報じ、40日間の服喪に入ると宣告した。ハメネイ師の娘や義理の息子、孫ら親族も死亡したという。
イスラエルのネタニヤフ首相もハメネイ師の死を確認。トランプ米大統領はSNSでは「歴史上の最も邪悪な指導者が死んだ」と述べる一方、イラン国民に向かって「祖国を取り戻す最大の機会だ。今こそあなたたちは新しい国づくりを開始すべきだ」と呼び掛けた。

イラン国民に立ち上がるように呼び掛けるイスラエルのネタニヤフ首相、2026年2月28日、イスラエル首相府公式サイトから
イラン革命の中心者ホメイニ師の死後、37年余り続いてきたハメネイ師体制は宗教指導者による神権政治という側面より、腐敗堕落した独裁者の専制政治だった。昨年6月の米・イスラエル軍の「12日間戦争」で核関連施設が大打撃を受けた後もイラン指導部はその独裁体制を継続。昨年末に民主化を求め、体制の転換を求める国民の大規模な抗議デモが発生したが、治安部隊を総動員して、デモ参加者に向かって銃撃を行い、数千人の国民を銃殺、国際社会から激しい非難を受けた。
一方、トランプ米大統領はイランの体制転換を求めるイラン国民、海外亡命イラン人に連帯を表明する一方、イラン側には核開発計画の完全の放棄を要求、イラン側との協議を再開した。2月6日はオマーンの首都マスカットで、同月17日からはスイス・ジュネーブでオマーン側の仲介で間接協議を行ったきた。しかし、イラン側はウランの濃縮活動の完全停止を要求する米国に対し、「核エネルギーの平和利用は主権国家の権利」と主張。トランプ政権が核開発の完全放棄と共に弾道ミサイル開発。、地域武装勢力への軍事支援の中止なども交渉議題に挙げると、イラン側は難色を示した。その結果、予想されたことだが、米・イラン協議は破綻し、米・イスラエルの軍事攻撃が始まったわけだ。
欧米の軍事専門家は「米国はイラン側が受理できない要求を提示し、協議が破綻することを想定、交渉の裏側では空母エイブラハム・リンカーンを1月末に湾岸地域に派遣し、その後、2隻目の空母ジェラルド・R・フォードも同地域に派遣するなど、軍事攻撃の万全の体制を敷いてきた」と指摘、イランとの核交渉は軍事攻撃のアリバイ工作に過ぎなかったと受け取っている。
トランプ大統領は28日、「イランの核兵器の保有を絶対に許さない」と述べ、今回のイランへの軍事攻撃を正当化している。昨年末以来のイラン国内の抗議デモ弾圧、数千人のイラン国民が銃殺されたことへの人道的報復といった側面は薄い。中東専門家は「今回の軍事シナリオは完全にイスラエル側の願いに沿ったものだった」と述べている。
ちなみに、イラン軍の総兵力は国軍・革命防衛隊合わせて約60万人規模だ。組織的には、国軍とイスラム防衛部隊(IRGC)の全軍を指揮するのはアブドルラヒム・ムーサヴィ参謀総長だ。国軍のトップはアミール・ハタミ (Amir Hatami)総司令官、IRGCはモハンマド・パクプール総司令官(Mohammad Pakpour)だった。しかし、米・イスラエル軍の攻撃で、イラン革命防衛隊のモハメド・パクプール司令官と国家防衛会議議長のアリー・シャムハーニー氏の死亡のほか、ムーサヴィ参謀総長も死亡したことが明らかになった。イスラエル軍は28日、ナシルザデ国防軍需相や革命防衛隊トップら7人を殺害したと発表した。
ハメネイ師の死が確実となり、現体制が流動化した場合、IRGCは、ハメネイ師亡命後の権力空白を即座に埋める準備が最も整っている組織だ。IRGCのパクプール総司令官が殺害されたが、ミサイルが依然、イスラエルや中東の米軍基地に向かって発射され、ホルムズ海峡封鎖の動きも見られることから、IRGCの指導部は依然、機能していると受け取らざるを得ない。トランプ氏が「戦闘はまだ続く」と述べたのは、精鋭部隊のIRGCの壊滅という軍事課題が残されているからだろう。IRGCは米国からテロ組織に指定されるなど、海外でのテロ活動や軍事活動を行ってきた。
ポスト・ハメネイ師のイラン情勢は不透明だ。イラン国内には反体制派と呼べる指導者、グループは存在しない。イラン最後のシャー(国王)の息子、米国在住のレザー・パフラヴィー氏はハメネイ師の死後、イランに帰国する意向を表明している。暫定的とはいえ、同皇太子が帰国し、イランの新しい体制作りを始める意向を示唆しているが、君主制待望はイラン国内では少数派だ。
いずれにしても、現政権が崩壊した場合、人口約9300万人の大国イランがカオスに陥る危険性が排除できない。テヘラン中心部のエンゲラーブ広場には、主に黒衣をまとった数千人が集まり、ハメネイ師の死を惜しみ、イラン国旗を振り、ハメネイ師の写真を掲げ、「アメリカに死を」「イスラエルに死を」と叫んでいる。
テヘランからの情報によれば、暗殺されたハメネイ師の顧問を務めていたモハメド・モフベル氏によると、マスード・ペゼシュキアン大統領、ゴラム=ホセイン・モフセニ=ジェヒ司法長官、そして護憲評議会のメンバーが、移行期間の責任を負うことになるという。この3人は、88人の有力聖職者で構成される専門家会議が後任を任命するまで、ハメネイ師の職務を引き継ぐ。モフベル氏は、憲法に基づき、専門家会議は直ちに新しい指導者を選出し、発表しなければならないと述べている。
なお、米・イスラエルの軍事攻撃に対し、国際法違反だという批判の声が既に一部で聞かれる、明確にしなければならない点は、米・イスラエルにとってイランの核武装にストップ掛けることが最大の課題だったことだ。その意味でハメネイ師体制の打倒、政権転換は実現できた。一方、イスラム独裁政権後、国の民主化はイラン国民の手にある。米国は支援できるが、それを実現する責任はイラン国民にある。
イスラエルのネタニヤフ首相は28日夜(現地時間)、イラン国民に対して、「私は再びイラン国民の皆さんに呼びかけます。この機会を逃さないでください。これは一世代に一度あるかないかのチャンスです。ただ傍観していてはいけません。間もなく、皆さんの時が来ます。大勢の皆さんとともに街頭に立つよう求められる時です。街頭に出て、任務を完遂し、皆さんの人生を苦しめる恐怖の政権を打倒してください。皆さんの苦しみと犠牲は無駄にはなりません。皆さんが祈り求めてきた助け、その助けは既に到着しています」と述べ、イラン国民の立ち上がるように鼓舞している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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