トランプ米大統領は米軍とイスラエル軍のイランへの軍事行動が4週間ほど続く見通しを明らかにする一方、「米軍の死傷者がさらに増えるかもしれない」と述べている。同大統領はそれに先立ち、「イランの核開発計画をストップすることは中東地域だけではなく、米国を含む世界の安全に不可欠だ」と説明し、今回の軍事活動を正当化している。

ハメネイ師の死を惜しむイラン人、Tasnim通信、2026年3月2日
それに対し、「イランの主権を蹂躙する行為であり、明らかに国際法の違反だ」といった批判の声も聞く。例えば、トルコのエルドアン大統領は、「イランへの攻撃は同国の主権を侵害し、イラン国民の平和を脅かすものだ」と指摘している。
ところで、米・イスラエル軍の軍事介入の是非を判断する前に、イラン革命後、イスラム聖職者支配体制が如何なる国であったかを想起すべきだろう。イスラム革命の創設者ホメイニ師の死後、37年間余りイランの最高指導者だったハメネイ師のムッラー政権の検証だ。
イラン社会は久しく困窮下にある。ウィーン国際経済研究所(WIIW)のイラン経済専門家のマフディ・ゴドシ氏は1月17日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで「イラン経済全体、特に銀行部門は破綻している。猛烈なインフレ、通貨の切り下げ、投資資金の不足、汚職、そして操作によってのみ達成される国家予算という悪循環下にある。その結果、人々は生活必需品を買う余裕がなくなり、食費を減らさざるを得なくなっている。国民の約3分の1が絶望的な貧困の中で生活している一方、イスラム政権トップの腐敗と汚職、縁故主義が拡散している」という。
イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない。最高指導者ハメネイ師が管理するセタードは数十億ドル規模のコングロマリットを率いて中心的な役割を果たしている。セタードまたはイマームの執行本部 (EIKO) と呼ばれるハメネイ師の経済帝国は、宗教的少数派、実業家、追放されたイラン人などの財産を組織的に没収している。現在では、非常に重要な石油産業から電気通信、金融、医療に至るまで、経済の他の多くの分野をその管理下に置いている。
ハメネイ師の経済帝国を軍事的に支えてきた勢力はイスラム革命防衛隊(IRGC)だ。ハメネイ師に忠実なパスダラン(革命防衛隊)は、この国のもう1つの経済勢力であり、その影響力は過小評価できない。マフムード・アフマディネジャド前大統領の下で著しく成長した。革命防衛隊は石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも組み込んでいるコングロマリットを所有している。イランの経済システムは、政府、軍、財団の支配下に完全に置かれているわけだ。
クレプトクラシー(英 Kleptocracy)という言葉がある。官僚や政治家などの支配階級が民の資金を横領して個人の富と権力を増やす、腐敗した政治体制を意味し、支配者が被支配者の財産と収入を恣意的に管理し、被支配者を犠牲にして自分自身またはそのクライアントを豊かにする盗賊政治だ。イランのイスラム聖職者支配体制はクレプトクラシーと呼ばれている所以だ。
ムッラー政権は石油輸出などで入った巨額の外貨収入を国民に還元することはなく、反イスラエル政策を掲げて地域の武装勢力を支援することでその資源を枯渇させていった。パレスチナ自治区のイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、シリアのアサド政権に対してもロシアと共に軍事支援してきた。そしてイランは核兵器開発のために巨額の資金投入を繰り返してきた。
その一方、国内の反対派活動家を弾圧し、イスラム教の教えを強制した。イランでは2022年9月、22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさんがイスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去した。このことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。それに対し、治安部隊は抗議デモを強権を駆使して鎮圧した。
そして昨年12月28日から大規模な抗議デモが再び発生した。貿易業者向けに導入した優遇為替レートの廃止を政府が計画していることが流れると、伝統的なバザール商人たちによって抗議活動が開始された。抗議デモはイラン全土に瞬く間に拡散。治安部隊は1月8、9日、抗議デモ参加者に向かって実弾を発砲、数千人の国民が射殺された。
ムッラー政権下ではイラン国内には反体制派組織、グループは存在しない。だから米軍が軍事介入してイラン独裁政権からの解放を求める声が聞かれ出した。米・イスラエル軍の軍事介入に対し、エルドアン大統領は「イランの主権を侵害し、国民の平和を脅かしてはならない」と警告したが、事実は、米・イスラエルはムッラー政権が牛耳るイランの主権を侵害したが、イラン国民の平和を脅かしてはいないのだ。国民の多くはムッラー政権からの解放を願っているからだ。
ドイツの政治学者が「米・イスラエルのイランへの軍事介入が国際法の違反であったとしても、それを間違いとは断言できないため、多くの国は静観するだろう。ただし、その軍事介入が成功せず、イランが混乱に陥った場合、米・イスラエルのイランへの軍事介入は国際法違反だという声が高まることは必至だ」と説明、軍事介入の成果次第で評価は変わるという。
国際ルールを順守することは大切だが、国際法が悪用されるケースが実際に存在することも忘れてはならない。中国共産党政権下で新疆ウイグル自治区のイスラム教徒のウイグル人が弾圧され、法輪功のメンバーたちから強制臓器摘出が日々、行われているが、国際社会は「内政に干渉するな」という中国側の警告の前に、久しく沈黙してきた。国際法が中国共産党政権の蛮行を守っている実例だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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