パイプライン損壊を契機にキーウとブダペストの間で過熱する争い

ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのウェブサイトを開けると、「ウクライナ人、7人を逮捕」という見出しが目に飛び込んできた。米軍とイスラエル軍のイラン攻撃が開始されて以来、ウクライナとロシア間の戦争関連の記事が途絶えていたが、「ロシアがまたウクライナ人を・・・」と思って記事を読みだしたら、「ゼレンスキー大統領、ハンガリーのオルバン首相を脅迫、ハンガリー側が反発」というサブタイトルを見て、ロシア産原油輸送に関連してウクライナとハンガリー間の闘争がエスカレートしてきた、という内容だった。

ハンガリーのオルバン首相、キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会見(2024年7月2日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

ハンガリーやスロバキアは依然、ロシアから安価の原油、天然ガスのエネルギーをウクライナのドルジバ・パイプライン経由で輸入しているが、そのパイプラインが戦争の被害で損壊。原油輸送が今年1月27日からストップになっている。これがウクライナとハンガリー両国間の関係がここにきて一層険悪してきた直接の契機だ。

ハンガリー政府は、キーウに対して、損傷箇所の早期修復と輸送再開を要求してきたが、ウクライナ側は「早急な修復は不可能だ」と返答するだけだ。ウクライナのデニス・シュミハリ・エネルギー相の説明によると、「被害地域はリヴィウ州ブロディ近郊のウクライナ西部だ。1月末にロシアの無人機による攻撃でタンク基地が被災し、火災で地下パイプラインの制御システムも損傷した。この被害は外からは見えないが、大規模な修復が必要だ」というのだ。

ウクライナ側の説明に対し、ハンガリー側は懐疑的な受け取り方をしている。「輸送停止は技術的な問題ではなく、キーウにおける政治的決定によるものだ」と主張。ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相は「ウクライナは欧州連合(EU)のブリュッセルと連携してパイプラインの修復を遅らせている」と指摘している、といった具合だ。オルバン首相は6日、原油輸送が再開されない限り、ウクライナへのガソリン・ディーゼル燃料、電力、および重要物資の輸送を停止すると宣言している。

そのような時、両国間の紛争に油を注ぐ出来事が起きたのだ。ブダペストで「ハンガリー当局がウクライナ国民7人を人質に取った」というニュースが流れてきた。ウクライナのアンドリー・シビハ外相は6日、Xプラットフォームに投稿し、「これは犯罪だ」と激しく非難した。

ウクライナ側の説明では、拘束されたのはウクライナ国営銀行のオシャド銀行職員で、現金輸送車両を護衛していた。車両には4000万米ドル、3500万ユーロ、そして9㌔の金が積まれていた。オーストリアのライフアイゼン銀行との契約に基づいて輸送されており、その旨を申告済みだという。それをハンガリー側が理由を説明することなく押収したというのだ。

それに先立ち、ハンガリーはキーウに圧力を行使するためにウクライナにとって極めて重要な、数百万ユーロ規模のEU融資の支払いを阻止した。EUは既に、ウクライナに2年間で最大900億ユーロを供与することで合意した。欧州議会も承認済みだ。ただし、最初の資金拠出には、加盟国理事会の承認が必要となる。ウクライナへの900億ユーロの融資は、ウクライナが2026年から2027年にかけて直面する深刻な資金不足を回避するための巨大な経済・軍事支援パッケージだ。公務員の給与や年金支払いなどの国家運営資金と、武器調達などの軍事支援(約600億ユーロ)の両面を支える計画だ。

EU側はこの決定を全会一致で通すため、ウクライナ支援に批判的なハンガリー、スロバキア、チェコに対しては、この融資に伴うEU予算の保証義務から除外される「オプトアウト(適用除外)」を認めた。しかし、ハンガリーがエネルギー問題を理由にこの融資の実行を再びブロックする構えを見せてきたのだ。この融資が遅れると、ウクライナは2026年4月にも深刻な予算不足に陥るリスクが出てくる。

ウクライナのゼレンスキー大統領はキーウの閣議後、「EUの誰かが900億ユーロの融資を阻止し、ウクライナの戦闘員に武器を供給しないことを願っている。もしそれを止めなければ、われらの若い兵士たちにその人間の住所を教え、彼らがその人物に電話をかけ、彼らのやり方で対応するようにさせる」と述べたのだ。ゼレンスキー氏はハンガリーのオルバン首相に対して間接的な表現だが刺客を送るぞと脅迫したのだ。

もちろん、ハンガリーはゼレンスキー大統領の発言に即座に反応した。 オルバン首相の報道官ゾルタン・コヴァチ氏はXプラットフォームで、「ゼレンスキー氏の脅迫と恐喝は許容範囲をはるかに超えている。ハンガリーは脅迫や恐喝に屈することはない」と強く反発している。

ちなみに、オルバン首相は、独自の調査団をウクライナに派遣する予定という。調査団はハンガリーエネルギー省の副大臣が率い、ハンガリーの石油会社MOLの代表者も参加するという。ただし、ハンガリーの調査団は、キーウの承認なしに現地で活動することはできない。

一方、ゼレンスキー大統領はイタリア紙「コリエレ・デラ・セラ」に対し、「オルバン氏が自分と話したがらないため、自分もオルバン氏と話していない。問題のパイプラインは破壊された。修復には停戦が必要だ。プーチン大統領にはそのことをはっきりと伝える必要がある」と語っている。

オルバン首相は2022年2月末のロシアのウクライナ侵攻以後、EUの対ロシア制裁には拒否権を発動して繰り返し阻止し、ウクライナ支援では一定の距離を置いてきた。ハンガリーとウクライナ間のエネルギー紛争は、単なる経済問題を超え、EU内部の結束を揺るがす政治問題へと発展してきた。

なお、ハンガリーで4月12日、議会選挙が実施される。複数の世論調査によると、16年間政権を維持してきたオルバン氏の与党「フィデス」が第1党の地位を失うと予測されている。パイプラインの損壊によるエネルギー危機はオルバン氏の政権存続を一層難しくさせている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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